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レイさんが頷いたところで、私はいつものように部屋へと案内した。
けい子さんが民泊を始めたのは、私が高校一年生の時だった。
その時から、ゲストのちょっとしたお世話や掃除を担当している。
担当といっても、「やれ」と言われて始めたわけじゃない。
ただ、少しくらいこの家の役に立ちたかった。
うちの両親が離婚したのは、私が物心がほとんどつかない時だった。
母子家庭で育ち、その母を6年前に病気で亡くしてからは、母の姉であるけい子さんが私を引き取ってくれた。
恩返しなんて大それたことはできなくても、せめてなにかお手伝いしたかった。
それに、外国人に関わりたい理由はもうひとつ。
だれにも話していない、秘密の夢と計画があるからだ。
『大丈夫ですか?』
私は階段をのぼりながら後ろを振り返った。
ここの階段は狭いし急だから、スーツケースをあげるのは大変で、長身のレイさんはかなり苦労している。
やっとのことで二階にあがると、彼は大きく息をついた。
私は苦笑いをこぼすと、『こっちです』と奥の部屋を指さした。
二階の部屋は、廊下を挟んで四つ。
手前は唯一の洋室で、私が使わせてもらっている。
ほか三つは和室で、伯母さんたちの寝室と、かつては良哉くんと拓海くんが使っていた部屋だ。
良哉くんの部屋は、今は伯父さんが書斎にしているため、空き部屋はひとつ。
それが私の部屋のとなり、今日からレイさんの部屋だ。
ふすまをあけて、『どうぞ』と促す。
中はいたってシンプルな八畳間だ。
座卓がひとつ、座布団が二枚。テレビはない。
『レイ。
キャスターを転がすと畳に傷がつくので、スーツケースはあそこの板の上に置いてください。
あと、シェアビーにも記載していますが、寝るのはベッドではなく「布団」です。布団はここに入っています」
私は押入れをあけて、布団の敷き方を説明した。
『布団はこうして使います。必要ない時はたたんで「押入れ」に入れます。
シーツは毎日交換しますし、掃除もします。
もし必要ないなら言ってください。
それと……』
ひととおり民泊のルールを説明し終えた私は、最後に『質問はありますか』と彼を見上げた。