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借りていた空き家の返却を済ませた俺達は、クオカラの街を出発した。
この日は『移動日』として設定。
太陽が沈まないうちに、最も近い稼働中の街道沿い宿場町へと到着するのが目標である。
しかし目指す場所までは距離があるため、普通に歩いているだけでは、当日中にたどり着くのは難しい。
馬や馬車を使えれば余裕なのだが、クオカラの街の貸馬屋は休業中で再開の見込みはないらしい。
必然的に移動手段の選択肢は、徒歩1択のみとなってしまう。
移動中の主な作戦はこちら。
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●1分間だけ2倍の速度で移動できるスキル【加速LV1】を、出来る限り発動状態でキープ。
●溜まった疲労は癒系魔術で回復し、休憩無しで歩き続ける。
●魔物に出くわした場合、テオの魔術を遠慮なく使い、速攻で殲滅。
●大量に買い込んでおいたMP回復薬はケチらず使う。
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出発してからしばらくは順調だった。
だが昼近くになった頃、俺の体が悲鳴を上げ始めたのだ。
【加速】スキルで高速歩行しつつ、額ににじむ汗をぬぐう。
クオカラの街を出た午前中早めの頃は「少し暖かいな」と思う程度だったはずなのだが、日が高くなるにつれ気温も急に上がってきた。
街道一帯は見渡す限りくすんだ黄土色で、ところどころに大小さまざまな岩が転がっているだけの不毛な岩石砂漠。
草木もほぼ生えず、日差しを遮る障害物もないことから、猛々しい直射日光が遠慮なく俺達へと照りつけてくる。
しかも現在俺が装備しているのはミスリル金属製の鎧。
鎧内部に熱がこもってきただけじゃなく、鎧自体も熱を帯びつつあるあたりも、俺を苦しめる大きな要因だ。
ゲームでは暑さなんて気にしたことも無かったし、気にする必要だってなかった。
思い返せば、初めて小鬼の洞穴を訪れた際、洞穴内が肌寒かったことから「ゲームと違ってこの世界では、気候に合わせた服装をしなければならない」と俺は肝に命じたはずだった。
だがいつの間にやらすっかり頭から消えていて……今になって後悔しても、時すでに遅しというやつだろう。
はっきり言ってツラい。
何だか頭もくらくらしてきたような気がする。
でもここで立ち止まったら、今日中に宿場町へ到着するのは厳しくなってしまう可能性が高い。
とりあえず頑張らないと……。
そんなことを考えながら、必死にうだるような暑さに耐え歩いていると。
テオが焦った顔で俺を強制的に停止させる。
そして素早く街道脇に『ニルルクの究極天蓋』を準備し、ふらつく俺を中へと押し込んだのだった。
風の魔導具の効果で、テント内はすぐに涼しくなった。
入るなりぐったり倒れ込み転がるしかできなかった俺も、数十分も休むと、何とか動けるまでには回復したのだった。
体を起こした俺は、まずはテオに声をかける。
「……すまんテオ。もう大丈夫っぽい」
「ほんとかよ? 下手に無理したらまた倒れるかもしんないし、もうちょっと休んでもいいんだぞ?」
心配そうなテオ。
俺は首を横に振って答える。
「いや……日没までに宿場町に着けなかったら、今夜は野宿決定だよな。このあたりは視界を遮るものも無いし、野宿向きの場所じゃないんだろ? そのほうがキツい気がする」
テオは少し考えてから「わかった」とうなずき、言葉を続けた。
「ああ。ちなみにこの世界だと、一般的な暑さ対策ってどんなのがあるんだ?」
「ええっと……」
テオによれば、この世界での暑さ対策は、まずは地球と同様に服装が重要となってくる他、暑さを軽減する装備・スキルを使うのが一般的なのだという。
そしてテオ自身は『気温に反応して自動発動する習得スキル』が勝手に暑さ寒さの対策をしてくれることから、現状は平気だとのこと。
近年は基本ソロパーティで活動していたため、自分が平気な以上「暑さ寒さなどの気候に対して、対策が必要だ」ということも、そして自身が布服系の防具装備を愛用しているため「金属製の鎧は、特殊加工をしない限り暑さに弱い」ということも、テオはすっかり失念していたらしい。
「そもそも気候に合わせた服装をしなきゃって俺だって分かってたはずなのに……しかもミスリルメイルに関しては『金属製の鎧を着たい』って自分で選んで買ったわけだから、責任もって自分の装備について勉強しとくべきだったんだよな……」
説明を聞いた俺が自責の念に駆られていると、テオが笑顔で言った。
「しょうがないよ、なんだかんだでタクトはまだ冒険初心者なんだからさ! まぁ今日中に宿屋に着こうと思ったら、時間けっこーギリギリだぞ? 反省は後にして、さっさと準備して出発しちまおーぜっ!」
「……そうだったな」
俺は頭のスイッチを切り替えることにした。