テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「高校時代は、春香さんの視界に入れなかった。なんとか先輩のそばにいて、かろうじて存在アピールをしていた感じですから」
こんなに素敵な男性が好意を寄せてくれていたのに、今までどうして気がつかなかったんだろう。
「池田先輩にだけ見せる笑顔を僕だけのものにしたい、近藤先輩にだけ見せる砕けた表情も僕だけのものにしたい。それから誰にも見せたことがない春香さんの一面を僕だけのものにしたいーー独占欲の塊ですよね。すみません」
確かに言われた言葉はすごいものかもしれない。しかし春香はそれが心地良いとすら思ってしまった。
それは瑠維の本心だが、別に押し付けられたわけではない。むしろこんなふうに愛されるのを求めていたのかもしれない。
すると体の奥から熱くなり、瑠維に触れたい衝動に駆られる。
「……ねぇ瑠維くん、すごく嬉しいからキスしていい?」
「えっ、い、今ですか? いいですけど……」
珍しく照れたように狼狽える瑠維に唇を重ねれば、カレーの味がする。だけどそれすら愛おしく感じた。
「瑠維くん、好きだよ、大好き。私ね、ヒロくんには卒業式の一回しか"好き"って言ってないの。まぁフラれちゃったけど……私の言いたいこと、わかる?」
「……あの、僕にわかるようにはっきりと教えてください」
「じゃあよく聞いてね。何回好きって言っても止まらないくらい、瑠維くんが好きなの。それに……瑠維くんしか知らない姿だってたくさんあるでしょ? 例えば……べ、ベッドの中での私とか、瑠維くんしか知らないよ?」
瑠維の顔が赤く染まっていく。彼が自分を好きだと言ってくれていることが奇跡だと思えるくらい、瑠維の深い沼にハマっていた。
もっと欲しい、もっと近付きたい、もっともっとーー心はどんどん欲張りになっていく。
「瑠維くんは私の"特別"だってこと、ちゃんと覚えておいてね」
瑠維の顔がみるみるうちに綻ぶのがわかった。ヤキモチは嬉しいけれど、こうして言葉にすることで、春香の中で瑠維が一番であることを知って欲しかった。
「ありがとうございます。すごく嬉しいです」
彼の笑顔を見るだけで、こんなにも幸せな気持ちになれるのだから不思議だ。
「あの、春香さん。明日は休みですよね。良かったら一緒に出かけませんか?」
「お出かけ? うんうん、行きたい!」
「良かった。実は気になるイベントをやっていて、鮎川さんにお願いしてチケットをいただいたんです。良かったら一緒に行きませんか?」
瑠維は立ち上がると、チェストの引き出しからチケットを二枚持って戻ってくる。それは春香が以前から好きな画家の展覧会だった。
「うわぁ、この人すごく好きなの! この展示会もずっと行きたいって思っていて……ってもしかして、私が好きだってわかってて言ってる?」
怪訝な顔で目を細めた春香に対し、瑠維はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。これは肯定としか捉えられない。
「さぁ、どうでしょう。でも確かに春香さんの持ち物、昔からこの作家のグッズが昔から多いですよね」
瑠維は楽しそうにそうはぐらかす。
完全に確信犯ねーー彼が自分のことを見ていてくれたと物語っている。
「ついでに何かスイーツ食べようよ」
「いいですね」
「実は今日ヒロくんのところで食べた抹茶のプリンアラモードがすごく美味しかったの。瑠維くんにも食べさせてあげたかったな」
白山小梅
12
#借金
1,754
その時、瑠維の口の端がピクッと動いたように見えた。何かを堪えるように、ふぅっと息を吐く。
何か気になことでも言っただろうか。彼の表情からは何も掴めない。自分の言葉を振り返った春香はある一つの言葉に行き着き、それを確かめるため、瑠維の顔を覗き込んで問いかけた。
「もしかして……嫌だった?」
瑠維は口籠ってから、頭を掻きながら口を開く。
「嫌というわけではないんです。僕も名前で呼んでもらえているし、今は何とも思ってはいないです」
瑠維は春香の手に自分の手を重ねると、その手を口の辺りまで持ってきてキスをする。
「ただ……やはり思い出すんです。池田先輩を好きな春香さんをずっと見ていたあの頃のことをーーでも春香さんが好きだと言ってくれるたびに自信がついていく。だから気にしないでください」
遠い目をして寂しそうに微笑んだ瑠維の首に回し、ぎゅっと抱きしめる。
「瑠維くん」
「はい」
「明日が楽しみだね」
「僕もです」
二人は顔を見合わせて笑うと、再びカレーを食べ始めた。