テラーノベル
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イリスの行き先を掴もうとするが、彼女のレジストによりなかなか難しい。
そんなとき、フレアとシンカが何やら手助けをしてくれると言う。
彼女2人の雰囲気が変わった。
魔力が跳ね上がっていく。
「……燃え上がれ! レーヴァテイン!」
フレアの髪が炎のように燃え上がる。
「……澄みわたれ! アマリリス!」
シンカの髪が霧状になり、広がっていく。
彼女たちがそれぞれ得意とする、戦闘能力を一時的に向上させる魔法技術だな。
入学試験時の諍いでも使っていた。
少し懐かしい。
「ディノス。あなたはイリスさんを追いかけたいんでしょ。だったら、私たちが探してあげるわ。ねえ? シンカ」
「そうだね。僕とフレアが力を合わせれば、ワンランク上の探知魔法を発動できるはず……」
「ほう」
彼女たちは、少し前まではお互いを激しくライバル視していた。
力を合わせるなどとても考えられる状態ではなかったのだが……。
余の前でともに一夜を明かして、仲が深まったようだな。
感覚同期(クロティア)の影響も大きいだろう。
「お前たちの心意気を買おう。今のお前たちの力を見せてみよ」
余は探知魔法も得意としている。
だが、つい先ほどイリスの魔眼を正面から抑えつけたため、若干の消耗をしている。
その上、イリスが余の魔眼の波長を記憶してこちらからの探知を妨害しているようだ。
魔王である余が腰を据えて取り組めばいずれ破ることもできるが、少し厄介だ。
ここはフレアとシンカに頼らせてもらうことにしよう。
妻であり配下でもある彼女たちの力を余が借りることに、何の不自然もない。
「言われなくてもそのつもりよ」
「行くよ、フレア」
「ええ、シンカ」
フレアとシンカが手を繋ぎ、同時に詠唱を始める。
「「我は求める。燃え盛る炎の精霊よ。澄み渡る水の精霊よ。集いて我が力となれ。世界探知(ルドティナ)」」
二人の探知魔法の光が、空へと向かって放たれる。
先ほども言ったが、今の余の魔眼ではイリスの居場所を探ることは難しい。
しかし、彼女らの実力ならば今の余より広い範囲の探知が可能だろう。
……そして、少しの時間が経過した。
「……見つけたわ。ここから北西へ500キロほど行ったところよ」
「移動はしていない。ここで休憩しているのか、ここが目的地だったのか……」
フレアとシンカから報告を受ける。
かなり離れた場所だな。
この短時間でそこまで移動するとは、さすがはイリスだ。
「助かる。礼を言うぞ、フレア、シンカ」
余は飛翔の呪文を唱え、宙に浮く。
本来は転移魔法での移動も可能だが、イリスにより妨害されている気配を感じる。
ここは飛んでいくのが確実だ。
それに、余の魔力ならたかが500キロ程度はさほどの距離ではない。
「まったく……。ディノスは仕方のない男ね。しっかり、イリスさんも幸せにしてあげなさい」
フレアがそう言って微笑む。
「ディノス君。君の愛で僕は幸せを知った。イリスさんの気持ちにも応えてあげるんだよ」
シンカもそう言う。
「ああ。余を信じて待っているがいい」
余は短くそう答え、イリスのいる場所に向けて飛び立ったのだった。
フレアとシンカのおかげで、余は無事イリスの居所を知ることができた。
魔王城から北西へ500キロ。
そこは、余も覚えがある地点だ。
もし余が自力でイリスを探すとすれば、そこから探した可能性が高い。
「イリス……。待っているがいいぞ」
魔王城から飛び立ち、北西へ向かっていく。
そしてしばらくして、無事に目的地が見えてきた。
山脈の奥地にある小さな村だ。
今は寂れており、だれも住んでいない。
村の上空に滞空しながら、地上の様子を伺う。
「……あそこか」
気配探知の魔法は、イリスにレジストされるため使えない。
だが、この距離まで来ればもはや肉眼で捉えることができる。
イリスは、この村で彼女が住んでいた家にいるようだ。
余は中に入り、彼女に声を掛ける。
「やはりここにいたか、イリスよ」
「……! ディノス陛下!? どうして……? いったいどうやってここがわかったのですか?」
驚いたような顔を見せるイリス。
「フレアとシンカが力を貸してくれたのだ」
「あのお二人が……?」
「それにな。よく考えれば、お前が行く先のことは最初からわかっていたことだ」
「えっ? それはどういう……」
イリスがそう問う。
「お前もわかっているだろう? この地は、余とお前が出会った場所だ」
「……」
「この地で、余はお前と出会った。昨日のことのように思い出せるぞ」
余は、過去に思いを馳せながらそう言う。
「はい。同族の仲間を失い、途方に暮れていたわたしにディノス陛下は手を差し伸べてくださいましたね……」
イリスがしみじみとそう言う。。
「懐かしいな。お前は余の手を取るのをためらった。余のことを信じられなかったのだろう。そればかりか、竜としての力を余にぶつけてきたな。あれには手を焼かされた」
「……申し訳ありません。魔族と会うのは初めてで、警戒していたのです……」
当時のことを思い出し苦笑する余に対し、イリスが頭を下げる。
「構わん。魔王たる者、配下や民衆に侮られることもあるものだ。ましてや、初対面の竜種の者が攻撃を仕掛けてきた程度、想定内のことよ」
「ですが、そんなことがあったにもかかわらず、ディノス陛下は穏便に接してくださいました。そればかりか、変化の魔法の伝授まで……」
「ふ。他愛もない魔法よ。お前も数年鍛錬すれば、自力で習得可能だっただろう。余は少しばかり手助けをしてやっただけだ」
「ありがとうございます。おかげで、こうして楽しい日々を送ることができています。孤独なわたしが、まるで魔族の一員として生まれ変わったかのように過ごせてきました」
「礼など不要。余にとっても、有意義であったからな。お前は余の側近となり、そして世界を平定するのに力を貸してくれた」
「はい。わたしの恩を考えれば当然のことです。しかし、この大恩はまだまだ返しきれていません」
「うむ。恩は気にする必要はないが、これからも余の側近として力を尽くすがよい。そして、それだけでなく……」
余は、この地に来てからずっと考えていたことがある。
今こそ、その言葉を口にするときが来たようだ。
「イリス……。魔王として命じる。……いや、1人の男として頼みたい。余の妻になってくれ」
余はイリスに手を伸ばす。
彼女は驚きの表情を浮かべた。
「ディノス陛下……。それは、本気で仰っていますか……?」
「ああ。余は本気だ。余は初めて会ったときより、イリスを気に入っていたのだ。そして学園で行動をともにしていくうちに、その感情が特別なものだと気付いた」
「……」
「イリス。返事を聞きたい」
「……ディノス陛下。あなたは、本当に変わった方ですね」
イリスがくすりと微笑んだ。
彼女の答えは是か非か……。
余は若干の緊張を覚えつつ、彼女の次の言葉を待つ。
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