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#BL
kaede🍁
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おその★
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篝火

1,430
結局、朝食を食べ終えた三人は、そのままベッドへ倒れ込んだ。
「……少しだけ寝よう。」
そう言った阿部の「少しだけ」は、まったく少しではなかった。
目が覚めた時には、病室の窓は夕焼け色に染まっていた。
「やば。」
深澤が時計を見て苦笑する。
「夕方じゃん。」
「昨日ほとんど寝てなかったしね。」
阿部もまだ眠そうに目をこする。
渡辺は大きく伸びをした。
「久しぶりにちゃんと寝た気がする。」
三人は顔を見合わせ、小さく笑った。
___________
夕食を済ませたあと。
病室のテーブルや椅子を端へ寄せ、小さなスペースを作る。
「本当にやるの?」
深澤が腕を組みながら尋ねる。
渡辺は満面の笑みだ。
「もちろん。」
「あべちゃん。」
「約束だから。」
阿部は苦笑いしながら立ち上がった。
「分かった。」
「でも無理はしないよ。」
「うん。」
スマートフォンから音楽が流れる。
二人は顔を見合わせ、小さく頷いた。
「いくよ。」
イントロに合わせて身体を動かす。
久しぶりのダンス。
身体の重心が以前とは違う。
歩幅も違う。
腕を振る感覚も少し変わっている。
それでも。
何年も踊り続けた振り付けは、身体が覚えていた。
渡辺が笑う。
阿部も笑い返す。
一番のサビまで踊り切ったところで――
「はぁ……!」
「む、無理!」
二人はほぼ同時に床へ倒れ込んだ。
「疲れたぁ……。」
「息切れする……。」
仰向けになって天井を見つめる二人。
深澤は慌てて近寄る。
「大丈夫か!?」
「水飲む?」
阿部は肩で息をしながら親指を立てた。
「……生きてる。」
渡辺も笑いながら頷く。
「足がもう動かない。」
深澤は呆れたように笑う。
「だから無理するなって。」
少し休憩して呼吸が落ち着いた頃。
深澤が二人へ尋ねた。
「実際どうだった?」
阿部は少し考えて答える。
「体力的には、かなりきつい。」
「前の身体とは筋肉の使い方がちょっと違う感じ。」
渡辺も頷く。
「でも。」
「踊れないわけじゃない。」
「トレーニングと筋トレをちゃんとやれば。」
「時間はかかるけど戻せそう。」
深澤は真剣な表情で聞いている。
阿部は今度は歌について話した。
「歌はね。」
「思ったより歌いやすかった。」
「え?」
「声が少し高くなったからかな。」
阿部は喉へ手を当てる。
「まだコントロールは難しいけど。」
「ちゃんとボイストレーニングをすれば。」
「もっと歌いやすくなるかもしれない。」
渡辺も驚いたように目を丸くする。
「俺もそう思った。」
「高音が前より自然に出る。」
「まだ違和感はあるけど。」
「可能性はある。」
病室が静かになる。
その静けさを破ったのは渡辺だった。
「……なぁ。」
二人が顔を向ける。
渡辺は少し照れくさそうに笑った。
「俺たち。」
「女のままでも。」
「復帰できるかもしれない。」
その一言に、誰もすぐには返事ができなかった。
ほんの数時間前まで、「もう終わりだ」と思っていた。
けれど実際に歌って、踊ってみた。
もちろん以前と同じではない。
課題は山ほどある。
それでも。
「できない」ではなく、「工夫すればできるかもしれない」と思えた。
阿部は静かに微笑んだ。
「うん。」
「今日、初めてそう思えた。」
深澤も二人を見ながら笑う。
「だったらさ。」
「退院したら照に筋トレ頼もう。」
「鬼コーチになる未来しか見えないんだけど。」
阿部が笑う。
「絶対そう。」
渡辺も笑いながら頷いた。
「でも、そのくらいの方が復帰は早そう。」
三人の笑い声が病室に響く。
未来はまだ不確かだった。
それでも今日初めて、その未来に小さな光が差し込んだような気がした。
コメント
1件
うわぁ、この第29話、心がじんわり温かくなりました……!身体が変わっても「踊れないわけじゃない」「歌いやすい」って実際に動いて確かめたからこその希望の言葉ですよね。“身体が覚えていた”振り付けの描写にぐっときましたし、「女のままでも復帰できるかもしれない」って言葉に三人のこれからの可能性がぎゅっと詰まっていて、未来に小さな光が差したラスト、とても美しかったです。