今までのあらすじ。
推しの担当の産婦人科医になった。妊娠してたショックでゲボ吐きそうになった。
それで出産予定日にストーカー見つけて追い掛けてたら崖から突き落とされて死んだ。
そして。
目覚めれば天国に居た。
「いい子でちゅねー!あくあまりーん!☆」
とりあえず、すげえ名前を付けられた。
今俺は、天才アイドル星野アイの娘として生きている。
なぜと聞かれても困る。俺だって、現実を受け入れるには時間がかかった。
これは生まれ変わり?今風に言うなら転生というべきか。
なぜ前世の記憶が残っている?
一体どういう原理で……
一応これでも医者の端くれ。いずれ仕組みを解き明かすつもりだ。
にしても俺が女なのは本当になぜ?大抵は男は男、女は女に生まれ変わるんじゃないのか?
……だが、今はこの赤ちゃんライフを堪能したい。
推しのアイドルが、思いっきり甘やかしてくれるこの環境が、疲れた社会人の心に、思い切り染みる。
「ば、ばぶー…「うぇえぇ!!えぇぇぇえ!」
「むっ……」
「はーい、」
そうだ。この家にはもう1人住人がいる。
「なんでちゅかー?ルビー!」
「うっ、うぅぅ……」
星野瑠美衣。俺の双子として産まれた子供だ。
こっちはややダメージの少ない名前をしている。今からでも交換して欲しいくらいだ。
「うぁぁえぅぅう!!えぁうぅぅ!」
「どうしたのアクアー」
「そっちはルビーだろ、それでも母親か…」
「人の顔と名前覚えるの苦手なんだから、仕方ないでしょー。いやでちゅねー!日本の男は母親を幻想視しすぎて〜」
「パスポートも持ってない奴がグローバルなこと言うな、第一、海外ロケNG入れてんだろ、お前」
「でも私才能あるなって思った人の名前は覚えられるよ?佐藤社長」
「惜しい、俺の名前は斎藤だクソアイドル…」
この人は前世から関わりがある。アイの所属してる事務所の社長さんだ。
_____と、その夫人ミヤコさん。
〜
「とにかく!アイドル『アイ』は、本日復帰となる!!」
「今後の活動について、話し合うぞ。」
「復帰第1弾は、今夜の歌番組。生放送だけど、行けるよな?」
「もちろんっ!」
「アイが仕事の間、子供の面倒は妻が見る。」
「、はぁ……」
「奥さん若いよね〜。社長の若い子贔屓には他のメンバーもマジで引いてるよー。」
「初耳だ、気を付けよ…」
「この子達、現場連れてっちゃダメ?」
「ダメに決まってんだろ!?」
「肝に銘じろ!アイドルのお前が!16歳2児の母なんて世に知られたら、アイドル生命即終了!監督責任問われて、俺の事務所も終わり!!」
「全員まとめて、地獄行きだ……」
「役所の手続きも買い物も、全部子供連れはNGだ!!どうにもならない火急の用事がある際は、『俺達の子供を預かっている』という設定で出る事!!」
「え〜、めんどくさいねー。ルビー、」
「そっちはアクアだ、」
「あっははははははは!あははははははは☆」
アイは母親としては、相当ダメな部類になるだろう。
だけど、社長達のフォローは手厚いし、案外何とかなるかもしれない。
「もうすぐリハだ。移動するぞ。」
「はーい。____おっと、」
!?!?!?
_______っ!!!!!??(声にならない叫び)
「あっぶなー☆w社長におっぱい晒すところだったよー☆w」
「外ではちゃんとしまっとけよ……」(慣)
いやダメだ、危なっかしいこの子……!!
ーーーーー
「……っっはぁ…ベビーシッターなんて経験ないのに……なんで私がこんな……」
『本日活動再開となったアイさん!』
『大丈夫?ちゃんとご飯、食べてる?』
『はい!☆いっっぱい食べてます☆』
良かった。ちゃんとやれてるね。
『そうそう!ご飯と言えばこないだうちの子が___』
「ぶふっっっ!?!?!?けほっけほっ、おぇっ、かはっ、こほっ、」
『じゃなくて!!!うちの子猫がね!休養中に飼い始めたんだけどー!』
『ほぉー』
『あははは!☆なんかいっつも変なこと言っちゃうなー☆』
やっぱりダメかもしれない…
〜〜〜♪♪
あの社長も酔狂だよな〜、アイのことがバレたら全て失うリスクあるのに……
でも分かるなぁ…狂わずにいられないんだ、
あまりに強い光の前で、人はただ焦がされる…まるで、火に群がる蛾みたいに吸い寄せられて、羽を焼け落ちると気が付いても尚止まれない。
僕だって例外じゃない。こうしてアイを近くで見守れるのが嬉しい。
僕を殺してくれたやつに、感謝しちゃってるくらいなんだから。
もしこの生まれ変わりが、彼女に対する幾つもの執念がもたらした奇跡だとしたら。とても腑に落ちる。
本当は、普通の子を産ませてあげたかったんだけど……不可抗力だ。超常現象には勝てない。僕は僕で、楽しくやらせてもらう。
「……ん、…待って?」
「Mステもう始まってるじゃん!!どうして起こしてくれなかったの!?!?」
「っはぁーーやっばー!!ママ可愛すぎーーーっ!!視聴者全員億支払うべき!!!ターンの時の表現力まじヤバない!?鬼気迫りすぎてむしろ鬼!!!やっばぁぁ、おむつ替えたばっかなのに失禁しそぉー、顔良しスタイル良しで歌も上手い!うちの母マジのマジで逸材すぎるーっ!!速攻録画見返さなきゃ…!」
「…、生放送はリアタイに意味あるってのにどうして起こしてくれないかなぁ!?この体無駄に眠いんだからお互いに協力し合おうよ〜っ!」
「俺は何度か起こしたぞ、」
「__え、マジ?」
…このアホも、俺と同じく誰かの生まれ変わり。それに気付いたのは、割と早い段階だった。
ーーーーーー
「はぁ!?死ねよ!!ママの才能と美を理解しない猿人類が!!パフォーマンスの質で格の違い明らかでしょ!?運営に贔屓されるのはもはや必然なんだけど!!!どうせてめぇブスのババアだろ!!!鏡みてから同じこともう1回言ってみろブーーーース!!!!!!っはーーーマジで信じらんない!てめぇはアイに勝てるんですかーー!?」
こいつは、B小町 アイと検索し、アンチと壮絶なリプ合戦を繰り広げていたのである。
「うぅぅぅー…!!!!!!!」
「お前……」
「…え」
「もしかして俺と同じか、?」
「赤ん坊が喋った!!!!きっもーー!!?「お前もだろ!」
「てかなんで『俺』?」
「色々あんだよ」
ーーーーーー
つくづく思う。本当にアイには、普通の子供を産ませてあげたかった。
「っはーーやっばー!!♡1回録画したら永遠に見れるとか鬼コスパーー!!きゃはー!!!」
こんなおかしい双子じゃなく………
ーーーー
「アクアー、お腹減った?おっぱい飲む?」
「_______っ!?!?ーーーー?!?!?」(声にならない叫び)
「え?嫌なのー?」
「アクアは哺乳瓶が好きだねー」
「……すっげ飲み方」
さすがにアイドルに授乳させるのは、大人としての一線を超えてしまう気がする。
「ふぇぇぇぇええぇえ!!うぇぇええぇ!!」
「!、はいはいー!またおっぱい?」
「ルビーはおっぱい好きだね」
「……♪」
こいつ……っ!?
「仕事の時間だ。」
「はーい」
「行ってくるね。」
「行ってらっしゃーい、」
「いってきまーす」
「……お前、ちょっとは遠慮しろよな、」
「?なんで?娘の私がママのおっぱい吸うのは自然の摂理なんですけど。当たり前の権利なんですけどー。」
「……い、ちおう聞いておくけど、お前前世では女?」
「?うん。、」
「………ならまぁ、ギリ許せるけど……」
「、オタクの嫉妬キモーーーい!まぁ?中身いい歳した男が授乳とか倫理的にやばいもんねー!!良かったー合法的におっぱい味わえる女に生まれて〜」
「……俺の倫理観だと、それもアウトなんだけどな……というか俺一応今世女だし、、」
「…ママも可哀想、自分の子供が自分のオタとかマジキモイもーん、はーママ可哀想ー、私が一生守ろー、「絶対お前の方がキモイよ」
「…っ、オムツ交換したいから、向こう行って!」
「……はいはい、」
「えぁぁぁうぅぅ!!うぁぁうぅぅあ!!」
「、あ、…はぁ、」
ーー
「なんで私がこんな仕事……、一応私、社長夫人じゃないの、?美少年と仕事出来ると思ってあいつと結婚したのに、与えられた仕事は16歳アイドルの子供の世話ぁ?そんで父親不明の片親とか、闇すぎんだろ、っっ!!!」
「そもそも私は、ベビーシッターやる為に嫁に来たんじゃねぇぇーーーーっ!!!!!」
「…はぁ?ママに尽くせるのは幸福以外の何者でもないでしょ。頭おかしいんじゃない?」
「…いや、彼女の言っていることに以外と正当性が見受けられる……」
「……あーー、ていうかこれって、不祥事の隠蔽よね…?……ふふふふ、そうだぁ、週刊誌とかにこのネタ売ったら、金持ちに……??」
「っもう全部どうでもいい!!やったるかぁ!!!」
「あーやっばぁ、!!?どうする、?殺す!?」
「…無理だ、、体格差がありすぎる…」
「、こっちは冗談で言ってるけど、もしかしてそっちは本気、?」
「……ほっといたら危険なのは間違いない、だけど……」
「あっ!!どうすんの!?あいつ母子手帳めっちゃ取り始めたけど!!」
「、!むしろこれはチャンスだ、俺に考えがある。」
「…ふふふふ、これを売ったお金で本担を月間1位に押し上げるのよ…「哀れな娘よ」
「ッ、!?」
「貴様の心の乾きはシャンパンでは癒えぬ。」
「っ、誰、!?」
「わ、っ我は、神の使いである!貴様の狼藉、これ以上見過ごす訳には行かぬ!」
「……神の使い…?っ、ていうか、赤ちゃんが、しゃべっ……嘘だぁ、!!」
「、っ貴様の常識では赤子は喋るのか??信じよ!」
「っいやいや!さすがに神とか言われても、私そういうの信じないし…!」
「あっ!わかったぁ、!!これドッキリでしょ!?、アイさんの出る番組で、マネージャードッキリとか、!!あるある〜、!!手が掛かってるな〜!、どこかにカメラあるんでしょ!?、」
く、さすがに無理があるか…?
「ほらほら、ルビーちゃーん、?テーブルの上に乗っちゃ危な____、ぅえっ、」
「…慎め。我はアマテラスの化身。…貴様らの言う神なるぞ。」
「…神、っ……」
「貴様は目先の金に踊らされ、天命を投げ出そうとしている。」
「…っ天命…??、」
「星野アイは芸能の神に選ばれた娘。そしてその子らもまた、大いなる宿命を持つ双子。それらを守護するのが、汝の天命である。」
「その行いは神に背く行為…このままでは天罰が下るであろう。」
「っ天罰!?!?天罰ってなんですか!?!?具体的には!?」
「具体的に、…具体的には…!!」
「死ぬ」
「そう死ぬ!!!!」
「いやぁぁぁ…超具体的…」
「…っ私…どうすれば……」
「簡単な事。母と我々の秘密を守ることじゃ。そしてこの子らを可愛がり、ぜーんぶ言うこと聞くのじゃ…☆」
……全部…
「さすれば、イケメン俳優との再婚も夢ではないぞよ」
「マジですか!?!?やります!!なんでも言うこと聞きます!!!靴の中敷でも舐めます!!「そこまではせんで良い」
ーー
「〜〜♪イケメンとさっいっこーん♪」
「「……はぁ、」」
「これで良かったのかなぁ?」
「どの道乳児の活動範囲には限界がある、これで外にも出られるな」
「!、っやった♪」
「…しかし、中々迫真の演技だったな?どこかで演劇やってたのか?」
「?…ううん。初めてやった。」
「…初めて?学校で劇とかやらなかったのか。」
「……私、ちょっと変わったところで育ったから、」
「…ふーん、じゃあ才能だ。将来は女優かな」
「……将来…考えたこと無かった、」
ーーーーーーー
俺に妹ができた。アイドルオタの変わった女だ。……しかし。
_____『アイちゃんはね!ダンスキレッキレ!マジカリスマなの!』
_____『アイちゃんのことは世界で一番好きだけど、せんせのことも、同じくらい好きだよ!』
「アイについて語る時の熱量は君にそっくりな子だよ、…さりなちゃん、」
「…ん、んん、?…なに、?なんかよんだ、?」
「悪い、起こしたか。別に呼んでねぇ。寝るなら布団で寝ろー。」
ーーーーー
アイがアイドルに復帰して、数ヶ月。
B小町は、それはもう快進撃を____
遂げている訳では無かった。
「今月の給料20万……ねぇ、うちの事務所給料渋いよ〜。、こないだ出したシングル、オリコン3位だったよね?中抜きえぐすぎない?」
「今更どうしたの?製造から流通までやってる大手と違って、うちはただの弱小芸プロ。利益が薄いのは承知の上でしょー?」
「……世の中、結局お金だってことに気付いたの。」
「嫌なことに気付いちゃったね。」
「アイドルはやってて楽しいし、私一人なら、今のままでも別に良かったんだけどさー?」
「だけど、この子達をいい学校に入れたり、習い事させたり。色んな選択肢をあげるには、私がもっと売れて、バシバシ稼がなきゃダメなんだよねー。」
「…今のままじゃ、この子達を幸せにできない。」
「はーあー、CMとか映画の仕事、来ないかなー。それも大手が!」
「いやまずその高いアイスをやめなさい」
「はぁ、レッスン行ってきまーす。いい子にお留守番しててねー!」
「あぁぅ!」
「…ねぇ、アイドルって月給100万とか稼ぐものじゃないの?」
「んなわけないだろ、」
「んなわけないの!?」
「歌唱印税もテレビ出演も、メンバーと山分け。ライブは物販が売れなかったら余裕で赤字。そして衣装代は天引き…。月100万はマジで1握り。」
「はぁ!?なにそれ!頑張ってる人にお金が行き届かないなんて、世も末ね!あ、そうだ!」
「オタク全員が持ち回りで肝臓をアイに捧げて、それを売って…「お前の考えが世も末じゃねぇか。核戦争で文明が滅びた後の宗教観やめろ」
…歌って踊れて、めちゃ顔が良い。レッスンにボイトレ、夜も家で振り入れする努力の子…B小町だって売れてるアイドルグループなのに。
「っ、おい!マネージャー!どうしてうちのアイに仕事が来ない!!」
「このクソ運営!!もっと営業掛けろー!!」
「、そんな事言われても……アイドルグループって結局、数十人が束になって、たった一人の芸能人と仕事を奪い合う業態なわけですよ、セット売りでやっと仕事が取れる現状で、単体で勝負ってなると、やっぱ壁は厚いですよ?
個人の仕事がしたくてアイドル卒業したものの、1人じゃ仕事が取れず、六本木の高級飲食店でバイトしてたり、港区女子になってギャラ飲みで食い繋ぐ元アイドルも、めちゃくちゃいるじゃないですか。」
「知らないけど…?」
「東京って怖い街だな、」
「アイが凄いのも私は認めてる。でもそれは、アイドルという分野に限った話。芸能界ってのは、1人でも戦える何かがないとやって行けないところなの。儲かる仕事って、B小町の誰かじゃなくて、『アイ』にお願いしたい仕事なわけだから。」
「アイドルとして優等生なだけじゃ、ダメなのよ。」
ーーーーーーーー
「販促イベント!ミニライブ!抽選でしか当たらないやつ〜〜〜っ!!!ママのステージちゃんと見るの初めて…!」
「…いいですか?どうしてもって言うから連れてきましたが、こんなの社長にバレたら、怒られるのは私なんですからね?」
「推さない駆けない喋らない!」
「おしゃぶりつけて、大人しくしといてくださいね?」
「ぁぅっ」
「そうらぞるふぃー、目立つことだけはぜったいだめらからなー。」
「アイとの関係性を匂わせるようなことはそ「いわれなくらって、」
「…見たでしょ、ママが落ち込んでるところ。これでも私はママが心配で来てるの。遊びに来たわけじゃないって。、」
『本日は!B小町の皆さんに来ていただきましたー!!』
🎼.•*¨*•.•*¨*•.¸¸🎶🎼.•*¨*•.•*¨*•.¸¸🎶
「「ばぶばぶばぶばぶばぶばぶばぶばぶ!!!」」
「なんだあの赤ん坊!!」
「オタ芸踊ってるぞ!?」
「幼児とは思えないキレだ!?」
(何が心配してきたですか!?誰よりもエンジョイしてるじゃないですかー!?)
((つい本能で…っ!!!))
ーーーーーーーーー
「21万リツイート……転載動画も既に200万再生…赤ちゃんコンテンツはバズりやすいとはいえ、これはさすがに………」
「ちょっと来い…」
「…………」
「…、!…なるほど…これがいいのね〜、?覚えちゃったぞ〜、?」
ーーーー
それから1年。
俺たちは、立ったり喋ったりしても怪しまれない程度には大きくなり、妹は___
「ママママ〜っ!♪」
「♪よしよしして〜?」
「よぉーしよーし☆」
アイドルをママ呼ばわりして甘えるヤバいファンを、見事に体現していた。
「はっはぁ〜〜♪♪極楽浄土〜♪」
「…そんな難しい言葉、どこで覚えたの?……もしかして」
「「っ!」」
「え〜っとぉ〜…」
もしかして……アイは俺たちを怪しいと…
「ヤバいくらいの天才っぽいな」
疑うことも無く、平穏な日々を過ごしている。
「遺伝だね☆」
「えへへ☆」
モデルにラジオアシスタント、アイは着実に仕事を増やし、今日はその集大成とも言える仕事の日だ。
「ママの初ドラマ、楽しみだね!」
「ちょい役だけどね〜」
「…いいですか2人とも、どうしてもと言うから連れていきますけど、現場でアイさんのこと、ママなんて絶対に呼ばないでくださいよ?『私の子供』という設定を忘れないでください。」
「ハイハイママママナデナデシテー。」
「私もしてー!ママー!☆」
「ママーお小遣いちょうだーい。」
「ぐぐっ……」
〜
「苺プロのアイです。本日はよろしくお願いします!」
「「「よろしくお願いしまーす」」」
「………」
「……、どうかしました?監督、」
「いや別に」
「なんか怖いね、」
「顔がな」
「……ん?この子供は?」
「「っ!?」」
「あ、私の子なんです!」
「…マネージャーが子連れで現場にねぇ。」
「「「っっっ!!」」」
「…はっ、働き方改革ってやつか?」
「時代だなぁ……。まぁ現場に犬連れてくる人も居るし、」
「「「「……はぁ、」」」」
「双子ちゃん?かわいー!」
……ん?確かこの子、グラビアの…!あっちは、可愛すぎる演技はとか言われてる若手女優!
「ばぶー♪ばぶー♪♪」
可愛こぶってんじゃねぇよ
……ダメだ、体が持たねぇ、
「…はぁあ……」
「ん?」
「マネージャーのガキじゃねぇか。…居るのは構わねぇが、泣き出して収録止めたら締め出すからな」
「あ、っ!?いえ!!我々赤ん坊ですが!そのような粗相はしないよう務めますので!!!現場の進行を妨げないのは、最低限のルールと認識しております!!弊社のアイを今後とも何卒ご贔屓に…っ!!!!!」
「めちゃくちゃ喋るなこの赤ん坊!?」
「どこで覚えたそんな言葉!?」
「ゆ、YouTubeで少々……」
「すげぇなYouTubeって!!時代だなぁ〜!?」
「、早熟の子役は結構いるが、ここまでのは初めて見た…、お前も、演技とかするのか?」
「…いや演技とかそういうのは……」
「画面としておもしれぇな、何かに使いたい。」
「これは俺の名刺だ。どっかの事務所入ったら電話しろ。」
「…いえ、仕事を振るならぼk…私じゃなくてアイの方に…」
「あぁ、あのアイドルな、…顔は抜群にいい。運が良けりゃ生き残るだろ。」
「、顔が抜群にいいのに運?」
「……いいか。役者ってのは3つある。」
「あいつら見てみろ、ひとつは看板役者。客を連れてくることをまず求められる。広告塔の役割もあるから、ギャラもいい。
次に実力派。作品の質を担保する役割。レーベルとしてのブランドを保つことが仕事だ。
最後に新人役者。ここに演技力なんて期待してない。画面に新鮮さを出してくれりゃ及第点。次のスターに経験を積ませる目的もある。まぁ業界全体での投資だな。
つまり、あそこにいる新人達は全員投資を受けてる段階。客に寄れるか現場に好かれるか。どっちかがなけりゃ次の新人に席を奪われる。この現場にいる新人全員の中で、誰か1人でも生き残りゃ大成功。そういう世界だ。」
「生き残るのは何かしらの一流だけ。」
「…ふーん……じゃあ平気だね。アイはアイドルとして一流だから。」
「…いやアイドルとして一流でも仕方ないだろ、」
「監督!本鉄準備出来ました!」
「、おぉ、ここで見とく。」
「よーいっ!」
「な、に言ってんの?」
「冬馬くんに聞いてあげよっか?☆」
「ちょっと、絶対やめてよ!?」
「あっ、ははははw」
「ずーっと一緒にいるじゃん!」
「…演技は並だが、嫌に目を引く。」
「でしょ?さっき言ってたんだ。」
____『ステージの上だと、どの角度からもみんなに可愛くしなきゃ行けないけど、ここではたった一人!カメラに可愛く思ってもらえばいい。MVと同じ要領でいいなら、むしろ得意分野だよ!』
「MV感覚かよ……時代だなぁ、」
「あ!めっちゃ出来良いから絶対見た方がいいよ!!!??なんならDVD貸すから!!!!!」
「声がでけぇよ、」
ーーーーーーーー
「ママの演技楽しみー♪」
「結構撮ったからねー☆」
…いよいよだ、
「!始まった!」
『なんか機嫌悪い?』
『、別に』
『私何かした?』
「あ!!このシーンだ!」
『なんなの、』
『、おはよ!』
「あ〜ママ〜!!」
「もっと大きく写せ、!!」
『あれ?どうかした?』
『待って、冬馬!』
『美希、なんでここに、』
『だから俺達は会っちゃいけなかったんだよ!』
『、それって、どういうこと?』
「えっ!?これだけ!?」
「ワンシーンちょびっとじゃん!!」
「カットされ過ぎ!!」
「、私、演技下手だったのかなー、」
「そんな事ないよ〜、」
『、はい』
「ちょっと監督!!!どうなってんの!!」
『ん、おぉ、早熟ベイビー』
「アイ全然使ってないじゃん!!」
『あー、あれな、いい仕上がりだったのに残念だったな』
「じゃあどうして!!」
『主演の女優は、「可愛すぎる演技派女優」で売り出してる子だ。』
『なのに同じフレームの中にそれ以上の顔あったらどうだ。イメージ戦略的に問題だろ?アイは、あの画面において可愛すぎたんだよ。そんでまぁ、上からの希望で、編集の段階で限りなく削ることになった。』
「なにそれ、」
『出演時間の尺は会社間のパワーバランスで決まりがちだから、事故にあったと思って受け入れろ』
「納得いかない、」
『………芸能界を夢見るのはいいけど、芸能界に夢見るのはよした方がいい。ここはアートじゃなく、ビジネスの場だ。』
『…だがまぁ、そっちの主張も分かるし悪いとは思ってる。代わりと言っちゃなんだが、アイに仕事を振りたい。映画の仕事だ。文句は無いだろ。』
「マジで!?」
『ただし!…お前も出るのが条件だ。』
ーーー〜〜〜ーーー
「いいか?早熟ベイビー。日本の場合、キャスティングってのは上の方で粗方決まってるもんなんだよ。」
「金が掛かってる企画ほど、コケる訳には行かねぇ。確実に客を呼べる役者を抑えるため、上は上の戦いがある。キャスティング権がある監督はごくごく1部の超大物監督か、超低予算でやってる小規模映画の監督くらいだ。…さぁ、俺はどっちに見える?」
「……超大物監督…「はーぁい外れ〜〜。ここは低予算の現場ですよっと」
「……」
「監督、本日はアクアがお世話になります。」
「いやいや、…例の件、話は通ってるんだよな?」
「一応、アクアは今月から苺プロの所属になっています。」
「事務所入ってない子役使うと怒られるからよ、」
「……演技なら多分、うちの妹の方が上手いですよ?」
「いや、お前だ。お前の出演と引き換えにアイを使う。これを業界では『バーター』っつうんだ。基本だから覚えておけ。」
「………アイさんが息子のバーターって…あの怖そうな監督、だいぶアクアさん気に入ってますね。一体何をしたらこういうことになるんです?」
「、別に大したことしてないよ。ジジイは若者に砕けた態度取られるのを何故か喜ぶ傾向にあるから、あえて仰々しく接してないだけ。」
「すげー嫌な赤ちゃん…」
じじばばも相手に仕事してたから、年配の扱いは心得ている。妙なスキルがここに来て活きるとは、
〜
「ママぁぁ!!ママぁぁぁ!!ママのところに帰りたいぃ!なんでママ居ないのぉぉ!?」
「アイとは撮影日が違うんだよ」
「早く帰ってバブりたい!!ママの胸でおぎゃりたいよぉお!!私をオギャバブランドに帰してぇ!!!」
いい歳して恥ずかしくないのか…中身何歳か知らんけど。
「ここはプロの現場なんだけど!」
「遊びに来てるんなら帰りなさい!!」
「……えっと…」
「有馬かな。この映画の女優よ。」
「…あ!この子あれじゃない?んーとなんだっけ…重曹を舐める天才子役?」
「10秒で泣ける天才子役!!」
「ドラマでの泣きっぷりがすごいってみんないってるの!凄いんだから!」
「私この子あんまり好きじゃないのよね…なんか作り物っぽくて生理的に無理」
「たまに子役に対して異様に厳しいやつって居るよなー、お前みたいに」
「知ってるわよ。あなたコネの子でしょ。本読みの段階じゃ、あなたもアイドルの子も居なかったのに。監督のゴリ押しってママも言ってた。そういうの行けないことなんだから!」
「いや、そういう訳じゃ……」
「こないだ監督が撮ったドラマみたけど。あのアイドル全然出番なかったじゃん!」
「「は?/あ?」」
「どうせカットしなきゃ行けないほど、ヘッタクソな演技してたんでしょ?『媚び売るのだけは』上手みたいだけど。」
「ADさん。かなのカバン持って」
「えぇ〜っと、ちょっと待ってねー?」
「お兄ちゃん?」
「分かってる相手は『ガキ』だ。殺しはしない……」
〜
映画のあらすじをざっくり言うと、自分の容姿にとことん自信の無い女が、何故か山奥にある怪しい病院で整形を受けるって話。僕らは、その村の入口で出会う、気味の悪い子供達。
「ようこそ、お客さん。歓迎します。どうぞ、ゆっくりしていってください。」
さすがに天才子役、上手い。
同じことをしても、実力の差で目も当てられないことになるな。ズブの素人でもそれくらい分かる。
ならどうする?普通に考えれば、気味の悪い子供の演技をすればいい。けど求められてるのそれじゃないよな〜、監督が欲しい絵は、きっと……
「この村に宿はひとつしかありません。1度チェックインしてから、村を散策すると良いでしょう。」
このシーンは、急遽追加された部分。俺の事を知ってから、監督が加筆した宛書きだ。その意図を汲むなら、むしろ演じないでいい。演出の意図に答えれば十分。言葉にはしなかったけど、監督が言いたいのは、つまり……
『演じなくても、お前は十分気味が悪い。』
「では、ご案内します。」
「っ、……」
「カット!!OKだ!」
「いい感じですねぇ」
「いつものお兄ちゃんだったね」
「…」
「…はぁ、」
「凄いねぇ!お姉さんゾクって来ちゃった!」
「そうですか?良かったぁ、」
「次の頭撮るぞー」
「はい!」
「…監督、撮り直して」
「?…いや、問題無かったから」
「っ、問題大ありよ!!!!」
「、っ、今のかな、あの子より全然ダメだった、……っやだ!!もっかい、っ!!!おねがいだからっ、!!!次はもっと上手にやるから…っ!!!もっかい…っ!!!!ねぇっ!!!」
ー〜
「…早熟、役者に大事な要素ってなんだと思う?」
「んー…実力とかセンス?やる気と努力の量?」
「…まぁ、それも大事だけどな。結局のところ、コミュ力だ。他の役者やスタッフに嫌われたら、仕事なんてすぐ無くなる。小さい内から天狗になって、大御所気取りしてたら未来はねぇ。」
「あの子にお灸を据えたかったの?」
「、そんな偉そうなことを考えちゃいねぇけどよ、こういうのも栄養だ。」
「…お前の演技、俺の想像にピッタリの演技だったぜ」
「……あの子の方が凄かったよ、おr…私ははいつも通りの私やっただけだし、」
「でも、そうしろとは一言も言ってない。意図を読み取るのも、ひとつのコミュ力だ。」
「もちろん演出や意図を理解して演じるのは役者の基本だ。だけど言語化できない意図まで読み取ってくれる役者ってのは、貴重。演出家の頭の中には、正解の絵があるんだからな?お前は、すごい演技よりピッタリの演技が出来る役者になれ。」
「……いや、役者にならないし、」
こうして僕は、この業界に片足を突っ込んだ。
〜
アイの子供として生まれ変わってから、3年が経過した。監督が撮った映画はそこそこ評価されたらしく、なんかの賞の監督賞にノミネートされた。今思えば、俺の演技は中々冴えていたと思う。
……けど、あのえいがは結局、アイが全部持っていった。それがきっかけなのか分からないけど、仕事も結構増えてきて。今のアイを一言で言うなら、『絶賛売り出し中のアイドルタレント』、という所だろうか。
アイはもうすぐ20歳になる。今の所、僕らは世間の目に晒されることなく、日常を過ごしている。それと_____
『俺』の死体は、まだ発見されていない。
ー
「ん〜っ!今日も可愛い!可愛いよっ!」
「まぁトータルではママの方が可愛いけどね」
「…なんの対抗意識?」
俺達は幼稚園に入園した。
「そういえばお前って生まれ変わる前は何してたんだよ。というか本当は何歳?」
「……えっと、…あっ、」
「わ、私大人の女性なんだけど!?女性の年齢尋ねるとか?デリカシーの無いガキね!てゆーか前世とかどーでもいいし!余計な詮索しないで!!」
「………まぁ、それもそうだな、」
前世のことを考えると気落ちする。僕はそれくらい、今の生活が気に入っていた。
自分が女性であること以外は。
激務の日々に比べれば園児の毎日なんて、食って寝て適当に本でも読んでればいいし、楽なもんだ。
にしてもあいつ、よくあんなに本気で遊べるな、
「え、園児が京極夏彦のサイコロ本読んでる……」
〜
「みなさーん!お遊戯の時間ですよ!今度、みんなの踊りをお家の方も見に来てくれるから、一生懸命練習しましょうね!」
「「「はーい!!」」」
「…っ、いやだ、っ!!私やらない!!」
「!?ルビーちゃん!」
ー
「…なんで逃げ出すのさ。」
「私ダンス下手だから、ていうかしたことない、」
「はぁ?はぁ……いつも部屋に閉じこもって遊んでたのか?現代っ子め。」
「……」
「どうせ引きこもりみたいなもんだし、何度か挑戦したけど出来なかった。運動はできる気がしない、」
「…これまでの事は知らんけど、それでいいの?…お前の人生、これから長いんだぞ」
ーーーー
〜〜〜♪♪♪♪
「……こいつ、」
演技だけじゃなかったのか?
ダンスのセンス、そして、母親譲りのルックス……
「……怖い想像をしてしまった、」
〜
「なるべく考えないようにしてる事だけど、俺達の父親って一体誰なんだろうな。」
「……ぁ”…考えるだけで心が沈む……」
「バカね、そんなレベルの低いことで落ち込んでるの?」
「処女受胎に決まってるでしょ?男なんて最初から存在してない」
ーーーーーーーー
「全く酒がうめーなぁ〜っ!!!」
「ははっ、ほれ!進級祝いの酒だ!飲め〜!」
「わ〜森伊蔵だ〜」
「ダメですよ。アイさんは20歳になるのは来週。もうちょっと我慢してください。」
「あ〜〜そうだったそうだった!!!」
『アイさんの主演だった______』
「「「ん?」」」
「?」
「…アイの主演ドラマも視聴率上々!B小町の仕事もびっちり埋まって!!いよいよ来週は!ドームだぁ〜〜〜っ!!はははァっ!!!」
「ぅむぐっ、、、」
「上機嫌だね〜」
「社長、自分が育てたアイドルをドームに連れていくのが夢だったから。…社員みんなの夢でもあるけど!」
「……ドームって、そんなに凄いの?」
「他の箱とは意味合いが違うのよ〜。専門の会社挟まないと枠すら抑えられないし、大人数の観客をさばけるスタッフの練度や実績。ドームに相応しいアーティストか厳重な審査もある。」
「長い時間とスタッフの努力が必要な会場なの。お金があればできる場所じゃない。選ばれた1握りだけが登れる舞台。」
「ドームはみんなの夢なのよ!」
「へぇ〜」
「大事な時期だ!スキャンダルなんて無いように!くれぐれも父親に会おうとかするなよ〜?」
「もちろん!」
「ママ〜?よしよしして?」
「ん〜?よーしよーーし♪」
「んはぁぁ〜〜♪」
ーー〜〜ーー
「……ん、社長達かな?」
「はーい!」
「?……っ!?」
「……っ…」
「はは、っ、痛いかよ、!?」
「アイっ!!!」
「俺はもっと痛かった、っ!!苦しかった!!っ、、アイドルのくせに子供なんて作るからっ、!!!」
「アイっ!!!」
「ファンを裏切るふしだら、っ」
「アイっ!!!アイ!!!!」
「ファンのこと蔑ろにして、裏ではずっと笑ってたんだろ!?!?この嘘つきが!!!散々好き好き言って釣っておいてよぉ、ッ!?!?!」
「全部嘘っぱちじゃねぇか!!!!!」
「私なんて、元々無責任で、純粋じゃないし…っ、ずるくて汚い、し…人をあぃするっ、て、ょく分からなぃから、っ私は、代わりに…みんなが喜んでくれるような、綺麗な嘘を着いてきた、っっ、いつか、っ嘘が本当になると信じて…っ頑張って、どりょくして……全力で嘘をついてたよ、」
「ゎたしにとって嘘はあぃ、私なりのゃり方で、愛を伝えてたつもりだよ、、っいつかそれが、本当になることを願って…っぃまだって、君のこと、あぃしたいっ、て、思ってる…」
「嘘つくんじゃねぇ、っ俺の事なんて覚えても居ないんだろ、っ!?見逃してもらおうと…っ!!」
「リョースケくん、だょね、?よくぁくしゅかぃ、来てくれてた……っ、ぁれ、?っ違ったぁ、?ごめんゎたし、人の名前覚えるの苦手なんだぁ、…っお土産でくれた、星のすな……ぅれしかったなぁ…っ」
「ぃまもリビングに、かざってぁるんだよ…?」
「……んだよ、っそれ……!!そういうんじゃ…っ!!あ”ぁぁあぁぁぁあ”ぁあ”!!!!」
「っ、いいからすぐ来てくれ!!!」
「っ!!?アイ!!!!救急車呼んだから、っ!!!!」
「ぁー、油断したねぇ、っこぅいうときのためにどあちぇーんってぁるんだ……施設では、ぉしえてくれなかったな……」
「喋るな!!!!」
出血が……っ、!?腹部大動脈か、クソッ、!!
「っ、…はぁっ、、、、っ?、」
「ごめんねぇ……たぶんこれ…むりだぁ……」
「大丈夫、?ぁくあはけがとかしてない、?」
「…っ、して、ない……っ」
「……きょうの、ドームは中止かなぁ…みんなにもぅしわけなぃなぁ……ぇいがのすけじゅーるも本決まりしてたのに……監督にあゃまってぉいて、、」
「……ねぇ、っどうしたの……、?そっちで何が起きてるの…っ、」
「…来るな、っルビー、」
「っっ、ねぇってば、ぁっ!!!!」
「ルビー、?…ルビーのおゆぅぎかいのおどり、よかったよー、?私、もしかしたらこのさきるびーも、あぃどるになるのかもー、っ、て、おもってて、、おゃこ共演みたいなさ、たのしそぉだよねぇ、〜、」
「アクアは役者さん、?ふたりは……っっ、どんなおとなになるのかなぁ、ッ、ぁー、ぁらんどせるすがた……みたぃなぁ……じゅぎょう参観とかさぁ…?るびぃのママ、わかすぎなぃ、?とか、ぃゎれたぃ……☆」
「2人がぉとなになってくの、そばでみてたぃ……ぁとは……ぁ、これはいゎなきゃ……」
「るびぃ、あくぁ……愛してる…、っ」
「…あぁぁ、やっと言えた…っごめんね……いぅの、こんなに遅くなって…っ、よかった…この言葉はぜったい……ぅそじゃない……」
「………ぁぃ、…?」
あい……っ、
『アイドルグループ、B小町アイさんが殺害されました。本日未明、都内の自宅マンションにて、男が女を刺していると通報がありました。
警察官が駆けつけると、アイさんと思われる人物が、腹部を刺され血を流して倒れており、搬送先の病院で死亡が確認されました。
容疑者と思われる男は、アイさんの熱狂的なファンであり、数時間後に自殺を図り、病院にて死亡が確認されました。
警視庁によるとアイさんは、引越しを行ったばかりであり、協力者が居る可能性があるとして、捜査を行う方針です。
ドームで行われる予定だったライブ公演は中止が発表されており、会場の前では、大勢のファンが悲しみに暮れています。』
アイドルがファンに殺傷され、犯人は自死というセンセーショナルなニュースは、1時間も置かずに出回った。
世間の反応的には概ね同情的な意見が多かった。だが案の定と言うべきか、死者をおもちゃにして他人の注目を浴びたい連中はそこらにいて、多くの勝手な憶測や怪文書があれば、中には真実に近いものもあって。
「しゃーなしって何…?ねぇ、アイドルが恋愛したら殺されても仕方ないの!?ねぇ!!!んな訳ないでしょ!!!自分は散々アイドルにガチ恋しておいてさぁ!!それを否定するのって虫がよすぎない!?!?自分に彼女が居ない怒りを女にぶつけてるだけだろうがきめぇんだよ死ね!!!!」
「なんでネットってこうなの…?ママは死んじゃったのに、こうも死にたくなるような事ばっかり…有名だったら何言われても仕方ないの…?有名税って何…!?お客様は神様みたいなこと言ってさぁ、っ!!!それはお前らの使うセリフじゃねぇんだよ!!!!!っ傷付けられる側が、っ!!!自分を納得させるために使う言葉を…っ!!!!!」
「人を傷つける免罪符に使うな……っ!!!」
3日も経てばアイの死亡というコンテンツは消費され尽くし、少し早い雪で交通網が麻痺としたというニュース以降、話題に挙げられることも無くなった。
雪が、アイの死を覆い隠すように。
僕らについては、社長夫妻が戸籍を移していたようで、ニュースの中心に移されることは無かった。
犯人が既に死んでいることと、俺の年齢もあり、警察の取り調べは簡素なものに終わったが、被害者向けのカウンセリングは長く続いた。
「…本当に、うちの子になりませんか…?」
「もちろん、2人の母親はアイさんしかいない、私のことを母親だなんて思わなくてもいい…でも私は、あなた達のことを自分の子供のように、思ってる……」
「……どう…?」
「……っ、!」
「……」
ーーーーーーー
「ママ言ってた、私がアイドルになるんじゃないかって。アクアは私なんかでもなれると思う?」
「なってもしょうがなくない?儲かりたいなら別の仕事の方が手っ取り早いし、ファンは常に見張ってて、男が出来れば袋叩き。」
「うん。それでも。ママはキラキラしてた。」
ルビーは立ち直っていくのだろう。良くも悪くも純粋な奴だと、数年一緒に過ごして分かった。
けど俺は、どうせ1度死んだ身だ。アイがいないならこんな世界……
あのストーカーと俺を殺した奴は同一人物だ。なぜアイが入院した病院を突き止められた?なぜ引っ越したばかりの新居に来た?犯人はなんのスキルも持たない学生だった。そんな探偵みたいなことが出来たとは到底思わない。情報提供者が居る。それも、アイの相当近いところに。病院のことを知っていたのは俺の知る限り社長だけだ。けれど、あれだけ大事にしてた自社の看板にそんなことするか?同僚?いや、B小町の仲はそこまで良くないし、アイに友人らしき人を見たことがない。アイに親族が居ないのは分かりきってる事だし、連絡先も知らない様子だった。だとしたら残るは……
『僕らの父親』。
社長たちも頑なに秘密にしていたが、アイの交友関係の狭さを考えれば相手は同業者の可能性が高い。そいつと俺に血縁関係がある以上、毛髪から遺伝子検査でわりせる。
アイをあんな目に合わせたやつが、芸能界に居る。
俺はまだ死んでられない……
必ず見つけ出して、俺の手で殺すまでは……っ!!
ーー
「……監督。」
「おぉ、早熟。」
「…あぁ、この度は…なんつったらいいか……」
「別にそういうのはいいよ。」
「ん?」
「代わりにちょっとお願いごとがあるんだけど…」
「なんだ?」
「…俺を育てる気は無い?」
「…!?」
「おい、まだ掛かるのか?ルビー」
「もー、ちょっと待ってってばお兄ちゃん!この制服可愛いけど複雑なんだもん……」
「でもホントかーわいっ♪」
「初日から遅刻は勘弁してくれよ、………スカート短すぎないか?」
「お兄ちゃんって昔からおっさん臭いよねー、…あ、そうだ。」
「……ママ、行ってきます」
「……」
かくして、プロローグも終わり。新たな物語の幕が上がる。そして、
俺は俺の、復讐劇を始める。
「さて、このパターンは初めてだけど……どうなるかなぁ。八咫烏ちゃん。よろしく。」
「……ほんと、神使いが荒いよね。」
コメント
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アクア女体化キタ━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━!!!!!