嘘偽りのない言葉。考えるより先に口からすらすらと自分の気持ちが出てくる。
普段なら、こんなことあり得ないかもしれない。プライドが邪魔して気持ちにブレーキをかけてしまうだろう。
店長も私と話したかった。その事実が分かっただけで、そんなブレーキなんて壊れてしまったようだ。
「えーと、それってどういう意味…」
「焼きもちを妬いてしまったんです。」
真っ直ぐと店長の横顔を見つめて言う。
――ドキドキ――
「……」
車内は一瞬だけ沈黙に包まれたあと…
「…へ!?」
店長のふ抜けた声が響き渡った。
まるで思春期の少年のような反応に、こっちまで恥ずかしくなってくる。
それでも構わずに続けた。
「店長は、私といるよりも雛瀬さんといる方が楽しいのかなって。そう思ったらつい…あんなひどいことを言ってしまいました。」
淡々と話す私とは対照的に、店長は挙動不審になっている。
額からほのかに汗が滲んでいるのが暗くてもよく分かった。
きっと、私の言葉の意味を必死に考えているのだろう。
そんな様子がおかしくて、からかいたい衝動に駆られた。
「店長…?何か言ってくださいよ。女の子にここまで言わせてるんですよー?」
「えっ!?あ、あー…ごめんごめん…そうか、焼きもち…うん、焼きもちね…」
噛み締めるように何度もその言葉を繰り返す店長。
そんな様子を見ているとどこか歯がゆいような、もどかしい気持ちに襲われた。
これが今の私の精一杯の言葉。これ以上先を言おうとしても、喉の奥につっかえて、出てこない。
「まあその…安心したよ。じゃあこれからまた、よろしくね。」
「…はい。普通に、話しましょうね。」
いつかの間にか私の家が近づいていた。もうそんなに時間がたっていたことに驚く。
「あ、それと…」
車が停止する。私は、シートベルトを外すと店長に振り向いた。
「雛瀬さんといる方が楽しい、とかそんなことは思っていないからね。俺にとっては、みんな同じくらい大切な部下だから。」
優しい笑顔に胸の奥が暖かくなる。小さな痛みを残しながら。
(同じくらい…か。)
心の声とは裏腹に、私は精一杯の笑顔で頷いた。
「はい。ありがとうございます。お疲れさまでした。」
過ぎ去る車を、ずっと見送る。見えなくなるまで…。
だけど胸の痛みは消えてくれなかった。頭の中ではさっきの言葉が残っている。まるでしこりのように。
どうやら私は自惚れていたみたいだ。店長がこんなにも私を気にかけてくれたのは、少しでも私のことを特別扱いしているのだと。
だけど違ったんだ。
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