テラーノベル
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浴衣の入った袋を持ってリビングに入る。ソファーに座っていた零斗が不思議そうに俺を見た。
「おぉ。陽雅。買いもん?」
「うん」
俺はそう答えたあと、袋から浴衣を取り出し、零斗に見せる。
「じゃ〜ん」
「おぉ。買ったのか。って事は行くんだな」
「うん。恭也となら大丈夫な気がするから」
「俺も何となくそう思うわ」
零斗がニコッと笑うと、後ろの扉が開く。
振り向くと泰輝が中に入って来ていた。
「泰輝。お風呂?」
「はい」
泰輝はそう答えた後、浴衣を見つめる。
そんな泰輝に浴衣を見せた。
「今買ってきたの。恭也と祭り行くんだ」
「そうなんですね。楽しんでください」
「ありがとう。泰輝は兄ちゃんと行く?」
「いや。俺、ああいう賑やかな所苦手なんで行かないです」
「そっか」
俺の言葉を聞いて泰輝は歩き出す。
「じゃあ、風呂入ってきます」
「うん。いってらっしゃい」
俺は浴衣を持って二階に上がり自分の部屋に入る。
そして、クローゼットに浴衣をしまい、部屋を出る。
(楽しみだな…)
俺は笑顔になりながらも階段を降りた。
次の日の夜、リビングでソファーに座っていると、泰輝と一緒に兄ちゃんが入ってきた。
「陽雅」
兄ちゃんはそう言って俺に近付く。
「何?」
「ちょっと話したい事あってさ」
「うん。いいよ」
「ちょっと部屋行かない? ここじゃ話しづらくて」
「分かった。俺の部屋でいい?」
「うん。そうだと助かる」
そして俺達は部屋に向かった。
部屋の扉を閉めると、兄ちゃんの方を見る。
「どうしたの?」
「恭也くんの事で話があってさ」
「恭也?」
「うん。一緒に祭り行くんだって?」
「あぁ、うん。そうだけど」
俺の言葉に兄ちゃんは一瞬表情を曇らせる。
「そっか。それで、恭也くんと付き合うつもりなの?」
「うん。そのつもりだよ」
「…優真くんの事、忘れたの?」
「忘れてないよ。俺も今までは恋人を作っちゃいけないって思ってたよ。でも、恭也が俺の束縛、一緒に乗り越えようって言ってくれたの」
兄ちゃんに微笑むと、兄ちゃんもニコッと笑う。
「そっか。それは嬉しいね」
兄ちゃんはそう言った後、表情を変える。
「でも、そんな簡単にいかないと思うよ」
「そうかもしれないけど、俺は恭也となら大丈夫な気がして。恭也と一緒に乗り越えるって決めたの」
俺の言葉を聞いて、兄ちゃんはフッと笑う。
「乗り越える? 陽雅が恋人を束縛しないように?」
「そう。俺も変われるかもしれないでしょ?」
「陽雅は変われないよ」
兄ちゃんは真顔でそう言う。
「そんなの分かんないじゃん」
「分かるよ。陽雅は変われない。それに、陽雅は幸せになっちゃいけないんだよ。悪い事をしたから」
「うん。でも、零斗が陽雅は悪い事より良い事の方が多いから幸せになっていいって。だから俺も幸せになっていいのかなって思えて」
そう言うと、兄ちゃんがボソッと呟く。
「余計な事…」
「えっ?」
「…たしかに、陽雅は良い事の方がたくさんしてるかもね。陽雅はいい子だもんね」
兄ちゃんがニコッと笑い、俺に近付く。
「陽雅はいい子だから俺の言う事もちゃんと聞けるよね」
兄ちゃんにそう言われると、頭の中が真っ白になる。
気づけば「うん」と頷いてしまう。
例えそれが嫌な事でも。
兄ちゃんは俺の手を握った。
「ねぇ陽雅。陽雅は幸せになろうなんて思っちゃいけないんだよ。陽雅は悪い事したの。例えいい事を沢山してても、悪い事をした事には変わりないでしょ?」
兄ちゃんの言う通りだ。
俺はいくらいい事をしても、優真を死に追いやってしまった事実は消せない。
だから、幸せになっちゃいけない。
「いい子になりたいなら俺の言う事ちゃんと聞かないと」
「兄ちゃんの言う事…」
「そう。陽雅、俺の言う事聞ける?」
「うん。もちろんだよ」
俺の言葉に兄ちゃんはニコッと笑う。
「やっぱり陽雅はいい子だね」
兄ちゃんはそう言いながら俺の頭を撫でた。
夏祭り当日、俺は部屋着のままソファーに座ってテレビを見る。
しばらく見ていると、後ろから声がする。
「なぁ陽雅、お前準備しなくていいのか? もう祭り始まるぜ?」
振り向くと、青い浴衣を着た零斗が立っていた。
「…いいの。俺、行かないから」
「あ? 何でだよ。この前は行くって言ってただろ」
「あの時は考えが甘かったの。俺はやっぱり幸せになっちゃいけないから」
「今更何言ってんだよ。いいから行けって。あおも待ってんだろ」
「…俺は行かない」
「お前…」
零斗がそう言いかけると、チャイムが鳴る。
そして、モニターから声が聞こえる。
「零斗さ〜ん。準備出来てますか〜」
「うおっ、やべっ…」
零斗はそう呟いてモニターの方へ駆けていく。
「あー、もう出来っからちょっと待ってろ」
「はーい」
快くんの声が聞こえた後、零斗が洗面所へ駆けていく。
零斗は少ししてリビングに戻ってきて、駆け足で言う。
「お前も早く来いよ。幸せになっちゃいけないとかめんどくせぇ事言ってんなよ。な?」
零斗の言葉に俺は俯く。
「とにかく、あおは待ってんだから、あんま待たせんじゃねぇぞ。じゃあ、先行ってんぞ」
零斗はそう言って家を出ていった。
テレビに視線を戻すけど、頭の中では恭也の事を考えていた。
本当は恭也と夏祭りに行きたいし、恋人にもなりたい。
恭也と一緒に幸せになりたい。
(考えない様にしないと…)
俺はテレビのチャンネルを変えた。
それでもやっぱり恭也の事が頭に浮かんでしまう。
テレビを見るのをやめてスマホをいじって見るけど、気付けば恭也の事を考えてしまう。
(早いけど、もう寝ちゃおう…)
俺は自分の部屋へ向かい、ベットに寝転ぶ。
寝てしまえば、今日が終わればもう、恭也との事も終わるから。
俺は静かに目を閉じた。
_________
夕方の道を浴衣を着て歩く。
神社に近づくに連れ、祭りへ向かう人の楽しそうな声が聞こえてくる。
そんな中俺は少し重い足取りで歩いていた。
神社の前にある橋の上で足を止める。
端に寄ると、カバンからスマホを取りだし、陽雅さんのDMを開く。
『神社の前の橋の上で待ってます』
そう送って静かにスマホを閉じる。
「はぁ…」
陽雅さんが来るかどうかなんて分からないし、最後に会った日、”さようなら”と言っていたから来る可能性の方がきっと低い。
だけど俺は小さな希望を胸に、ただ橋の上で立ち尽くした。
_________
赤の浴衣を着た快と屋台の並んだ道を歩く。
快は浴衣がとても似合っていて、ずっと見ていたくなる。
少し前を歩く快を見ていると、快がこっちを見る。
「美味しそうな物沢山ありますね」
「あぁ…そうだな」
「あっ、零斗さんは甘い物しか興味無いですかね」
「まぁ…でも、快となら何食べても美味いと思う」
「そうですか? なんか嬉しいです」
快が微笑み、俺も微笑み返した。
快ばかり見ていたが、ふと前を見る。
友達と来ている人も多いけど、カップルも多いみたいだ。
カップルは手を繋いでいるからすぐに分かる。
(手…)
そういえば付き合ってしばらく経つけど、まだ手を繋いだ事がなかった。
俺は快の手を見つめる。
(手繋ぎてぇな…)
でも、いつ手を繋いだらいいかなんて、分からない。
俺は快の手を見つめたまま、歩き続けた。
コメント
1件
うわあ……この第36話、重いわ……。陽雅、やっと恭也と前に進もうとしてたのに、兄ちゃんの「お前は幸せになっちゃいけない」って言葉で全部崩れちゃったんだな。零斗の「めんどくせぇ事言ってんな」ってツッコミは正論すぎるし、恭也が橋の上で待ってるシーンも切なすぎる。陽雅の「考えないようにしないと」って自己防衛、読んでて胸が締め付けられたわ。彼のトラウマの根深さを感じる回だった😢