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昼のスーパーは、
人の生活がそのまま並んでいる。
値段。
量。
栄養。
期限。
誰もが、
今日を生きるための選択をしている場所。
——だから。
そこで会うのは、
いちばん誤魔化しがきかない。
野菜売り場で、
わたしは立ち止まっていた。
玉ねぎ。
にんじん。
糸こんにゃく。
(今日は、軽めでいい)
かごに入れた瞬間、
少し離れたところで、
聞き覚えのある声がした。
「……肉じゃが食いてぇー」
低くて、間延びした声。
視線を向けると、
新じゃがを手に取っている男がいる。
——ジュン。
夜じゃない。
ネオンもない。
昼の照明の下。
髪は整っているのに、
服はやけに普通だ。
「あ」
目が合う。
一拍。
「……どうも」
昨日の夜とは、
まるで別人みたいな間。
ジュンは、
新じゃがを手の中で転がす。
「自炊、苦手なんだけどさ」
独り言みたいに言う。
「最近、体調落とすと
一気に売上に響くんだよね」
わたしは、
かごの中を一瞬だけ見る。
ちゃんと、
食べる気のある中身。
「……意外」
そう言うと、
ジュンは鼻で笑った。
「よく言われる」
新じゃがを、
もう一度見てから、
かごに入れる。
「肉じゃがくらい、
作れないとヤバいだろ」
その言い方に、
余裕はない。
レジに向かう途中、
すれ違う。
それだけ。
でも。
この人、
“生活”を
ちゃんと怖がってる。
それが、
仕事の顔よりも、
ずっと正直だった。
外に出る。
昼の風。
「……なあ」
ジュンが、
少しだけ声を落とす。
「昨日の動画」
言葉を、選んでいる。
「別に、
責めたかったわけじゃない」
わたしは、
立ち止まらない。
「分かってる」
短く答える。
ジュンは、
それ以上、何も言わなかった。
別れ際。
「R」
名前じゃない呼び方。
でも。
それは、
この人の“仕事の癖”。
呼び名で距離を測る。
——商品名で。
わたしは振り返らない。
心の中で、
静かに言う。
ああ、この人も——
名前を、商品として生きている。