テラーノベル
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通知が鳴ったのは、
夜じゃなかった。
昼と夜の境目。
一番、判断が鈍る時間。
画面に表示された名前を見て、
わたしは少しだけ指を止める。
——ジュン。
既読は、つけない。
しばらくして、
もう一度、振動。
ジュン
相談がある。
短い。
続けて、もう一通。
ジュン
仕事の話。
それだけで、
内容は察しがついた。
会う場所は、
人目のあるところ。
店でも、家でもない。
ベンチのある、明るい通り。
逃げ場があって、
隠れられない場所。
「……こういうの、得意だろ」
ジュンは、
視線を合わせずに言う。
「“厄介な客”がいる」
言い切らない。
でも、十分だった。
「切っても、
ブロックしても、
逆に燃えるタイプ」
わたしは、
相槌を打たない。
「優しくすると、
期待される」
「冷たくすると、
被害者ぶる」
ジュンは、
自分のスマホを見つめている。
「……もう、
何が正解か分かんねぇ」
わたしは、
一つだけ聞く。
「名前、出した?」
ジュンは、首を振る。
「顔も?」
「出してない」
「晒した?」
「してない」
——そこ。
最低条件は、
守れている。
「じゃあ、できる」
わたしは、そう言った。
ジュンが顔を上げる。
「マジで?」
「ただし」
一拍。
「感情で動かないこと」
「同情しない」
「怒らない」
ジュンは、
少し笑った。
「それ、一番ムズいやつ」
「だから、
プロが必要」
わたしは、
彼を見る。
「恋愛は、
感情論に見せた情報戦」
「泣いた方が負けじゃない」
「分かってない方が、負け」
ジュンの表情が、
真剣に変わる。
「条件がある」
「なに」
「わたしの言う通りに動く」
「中途半端に、
優しくしない」
「相手の“期待”を、
一度、完全に壊す」
沈黙。
ジュンは、
深く息を吐いた。
「……鬼だな」
「現実」
少し間があって、
ジュンは言った。
「いくら払えばいい?」
わたしは、首を振る。
「いらない」
「代わりに」
彼を見る。
「あんたを、
一番のホストにしてあげる」
ジュンが、目を見開く。
「その代わり」
静かに続ける。
「わたしの配信の
“最高傑作”になって」
風が、
二人の間を抜ける。
「……共犯ってこと?」
「そう」
飼うでも、
飼われるでもない。
利用するだけでも、
助けるだけでもない。
「同じルールで、
同じ地獄を見る」
ジュンは、
しばらく黙っていた。
そして、
小さく笑う。
「……R」
呼び方は、
まだ商品名のまま。
「乗ったら、
後戻りできない?」
「できない」
即答。
「それが、
契約」
夜が、
静かに降りてくる。
この瞬間。
二人は、
ただの敵でも、
味方でもなくなった。
——共犯者。
でも。
その中に、
本物の感情が
混ざり始めていることに、
まだ、
どちらも気づいていない。
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