テラーノベル
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それでは
どうぞっ!!
🧡「動かないでね。」
美咲ちゃんの囁くような声が、私の耳元でふわりと溶けた。
薄暗い楽屋の部屋、2人きり。
机の上にはアルコール、消毒綿、氷、そして銀色のピアッサー。
心臓は、さっきからいつにも増してずっと騒がしい。
初めてのピアスを開ける緊張なのか、それとも美咲ちゃんがこんなにも近くいいるせいなのか。
いずれにせよ、答えは分からないし、わかりたくもなかった。理解した途端に、自分の惨めさを痛感してしまうだろうから。
🧡「怖い?」
🩷「…、ううん。」
本当は怖い。けれど、それ以上にこの瞬間が嬉しい。
ファーストピアスを美咲ちゃんに開けてもらうこと。
それは今までよりも、特別な儀式のようだった。
最悪な思考を巡らせながら、私はただ待っている。
耳たぶに当てられた氷。ひやりと冷たい感覚が走る。
段々感覚が鈍くなっているのを感じながら、私はそっと美咲ちゃんを見上げる。
長い睫毛、少し伏せられた瞳。
全てが私を惑わせてるようだった。
🧡「未渚美はさ、どうして私に頼んだの?」
美咲ちゃんの問いかけに、少しだけ息を詰まらせる。
本当のことを言えたらどれだけ楽なんだろう。
ただ、美咲ちゃんに触れて欲しかったから。
ピアスを開ける痛みを通して、“美咲ちゃん“という存在を刻んで欲しかった。
だけど、そんなこと言えるわけもなく__。
🩷「美咲ちゃんなら、…ちゃんと開けてくれそうだから。」
それは、嘘ではない。
でも、本当でもない。
美咲ちゃんは『ふーん』とだけ呟いて、耳たぶを消毒綿で拭う。
指先が微かに震えているような気がした。
全て悟ったような口ぶりはデビュー当時から変わっていない。
優しいけれど、どこか掴みどころがないそんな声。
🧡「じゃあ、開けるね。」
🩷「…はい。」
息を詰める。
カチリと鈍い音がして、瞬間、痛みが走った。
けれど、けれど。
指先が、まだ私の耳に触れていることが気になった。
まるで確かめるように、そっと。
🧡「痛い?」
🩷「ちょっとだけ。」
美咲ちゃんは何も言わず、じっと私を見つめる。
私は次第に耐えられなくなり、目を逸らしてしまった。
耳の奥に、熱がこもっている。
それが痛みのせいなのか、それとも___。
🧡「、綺麗に空いたね。」
美咲ちゃんの声はどこか優しくて、けれどどこか寂しそうだった。
ファーストピアス。
美咲ちゃんが選んでくれたものをそっとつけてくれる。
本当に美咲ちゃんの存在を近くに感じたかったから、刻んで欲しかったから。
態々自分でつけなければいけないものを選んだのだ。
🩷「ねえ、美咲ちゃん。」
🧡「ん?」
私は、息を飲む。
向けられた目線はとても優しいものだった。
そっと、美咲ちゃんの手を掴む。
🩷「、美咲ちゃんにも開けてあげようか。」
美咲ちゃんの目が微かに揺れる。
今度は自分が、この熱を刻みつける番。
美咲ちゃんが拒めないのを、私は知っている。
それは、優しさなのか。それとも、別の意図があってなのか。
美咲ちゃんはどうせ気付いてる。なら、その優しすぎる性格を少しくらい利用してもいいよね。私、やっぱり変かもね。でも、全部美咲ちゃんのせいだけど。
静寂の中、2人の呼吸が重なっていた。
end…
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