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ヤッ!
ストレートになんて言いにくいことを言うのかとびっくりしたけれど、あの夜の事は話さなければならない。
ただ、話して部長が私をどんな目で見るのかが怖かった。
『お前、負けたまま逃げんなよ』
そんな事、言ってもらえる価値が無い。
私は、いつも自分の言えない気持ちを侑哉に代弁してもらって、
侑哉にだけでも分かって貰えるならいいか、って諦めていたんだから。
諦めて……。
「触ってもらったんです。抱きしめて貰ったんです。その、女の価値が無いと言われた私を、優しく朝まで触って抱き締めて――侑哉が守ってくれたん、です」
侑哉だけが私を『女』として見てくれるなら。
神さまに見捨てられた私も、存在できるような気がしたんだ。
あの日、「姉ちゃん」から、『みなみ』と呼ばれるようになったのもその証拠。
「だ、から、その、ごめんなさい。私、部長に、追いかけて貰えるような、出来た人間じゃ、ない、です」
震える声でそう言った。顔は上げられず、履かせて貰ったのに車から降りるのも躊躇しながら、そのまま動けずにそう言った。
カチッとライターの音と共に、苦い空気が鼻を掠めた。
煙草の煙を深く吐き出す音が、駐車場中に響き渡る様な気がする。
判決を待つような、いや既に死刑囚のようにただ決まられた言葉を待つのみの私に、部長はゆっくり言う。
「お前が、あの婚約者にどんだけ傷つけられたのかは理解できた」
責めることも、同情することもせず、そう言う。
「仕方ねーんじゃねえの? もうヤッちまったことは。でも、一つだけ言わせてもらうけど」
「あ、いや、最後まではその……」
その強い口調に、胸がえぐられるかのような痛みがする。
でも未だ私は処女ではあるから。
「お前が、完璧で出来た人間なら俺は迎えになんか来なかった」
っち。
部長はバツが悪そうに舌打ちすると、まだ吸い始めたばかりの煙草を携帯灰皿に押し付けた。
「俺にも、言えよ、本音」
「あの、姉弟でそんな気持ち悪くない、ですか?」
「最後まで踏み切れないなら、んなの可愛いもんだろ? ――いいから、そっから出て来いよ」
ん、と右手を差し出された。
いつも以上にぶっきらぼうな部長の声や言葉に、恐る恐る顔を上げる。
「今のお前は、あの夜があったからいるんだから、そう悪く考えなくていいんじゃねーか?」
その言葉に、胸の奥からじわっと温かいものがこみ上げてくる。
否定されないで、受け止めようとしてくれる部長が優しくて、優しくて。
人に言えない疾しいことだと思っていたあの夜が、綺麗に思い出に包まれていくような。
――部長は弱い私を受け入れてくれるんだ。
な、んで私なんかに。
そう思っても、また悪い性格がでて聞けなかったけど、
伸ばして掴んだ部長の手は、――温かかった。
優しくて、温かくて、私の手を握り返してくれた。
「ん。ほら、せっかく来たんだから向こうの景色見て帰るぞ」
まるで、中学生みたいな、手を繋ぐだけでドキドキするこの気持ち。
私は、部長に甘えても良いのだろうか。
こんなに何でも受け止て許してくれる部長に、もう一度だけなんて都合良すぎる、のに
――止まらない。
「部長、熱は?」
「ああ。神さまに祈って貰ったら治った」
「あ、部長の家のホテルが見えますよ。綺麗ですね」
左手をポケットに突っ込みながら、少し落ちつかない素振りを見せる。
キラキラ輝く景色に、さっきまでの事が全て夢の中だったよう気持ちに襲われる。
ふわふわとネオンに溶け込んでいくような、気持ち。
部長の温かい手だけが、現実を繋ぎとめてくれている。
「なんで高速のパーキングに連れてきたか分かる?」
ふっと意地悪げな笑みを私に向けると、部長はそう言う。
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