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霞花怜
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図書室を出た後、夕暮れ時の校舎はすっかり静まり返っていた。
「……なぁ橘、そろそろ手、離してくれないか」
校舎裏の影になった通路で、蓮は困り果てたように呟いた。図書室を出てからというもの、ゆうは周囲の目を盗んでは蓮の制服の裾や指先をそっと掴んでは離さず、とうとう二人きりになった途端に正面から通せんぼをしてきたのだ。
「ダメです。蓮先輩、また僕から離れようとするから」
夕日に照らされたゆうの表情は、どこか幼く甘えるようでありながら、その瞳の奥には深くて重い情熱が揺らめいている。
「離れようとしてるわけじゃないだろ。……ただ、お前といると調子が狂うんだよ」
蓮は頭をかきながら溜息をついた。
中学時代、どんな相手にも怯まず拳を振るっていた自分が、自分より小さな後輩の視線ひとつに動揺させられている。その事実がどうにも面痒く、そして恐ろしかった。
「調子が狂うって……どういう風にですか?」
ゆうがぐっと一歩踏み込んでくる。
距離が縮まり、相手の体温とほのかなシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。蓮は思わず後ずさろうとしたが、背中は冷たい校舎の壁に当たってしまった。いわゆる「壁ドン」のような格好になり、蓮の顔にカッと熱が昇る。
「っ……、お前な、距離が近いって言ってんだろ!」
「先輩の顔、赤いですね。僕のせいですか?」
ゆうは蓮の反応を楽しむように、くすりと小さく笑った。その顔は校内で見せる「おとなしい後輩」のそれではなく、完全に蓮を追い詰める男の顔だ。
「……ほんと、タチ悪い奴」
「ふふ、でも逃げないでいてくれるんですね」
ゆうはそっと手を伸ばし、蓮の頬に優しく触れた。粗暴な振る舞いを一切見せない、驚くほど丁寧で温かい手つき。そのギャップに、蓮の抵抗する気力が削がれていく。
「僕は、先輩の全部が欲しいんです。昔の強かったところも、今の真面目に頑張ろうとしてるところも、僕に翻弄されて赤くなってる顔も……全部」
まっすぐで容赦のない告白に、蓮の胸が激しく鳴り響く。
「……勝手なことばっか言うな」
口ではそう言いながらも、蓮はゆうの手を振り払うことができなかった。
元ヤンとしての強さもプライドも、この可愛くて恐ろしい後輩の前では、何の意味もなさないことを悟りながら。
コメント
1件
おお、第3話、ようやく二人の距離がぐっと詰まってきたな! ゆうの「壁ドン」からの追い詰め方がえげつない(褒めてる)。表面は甘えてるのに、目が全然笑ってなくて、昔の蓮先輩を「全部欲しい」って言い切る強さが最高だわ。 対して蓮は「調子が狂う」って正直に零しちゃうし、手も振り払えない。そのギャップがもう、尊いとしか言いようがない🔥 続き、絶対逃したくないわ!