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八雲瑠月
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#変身ヒロイン
食べながらラノケンメンバーと話し込んだせいか、ワクドナルドの陸橋出入口から出た時には夜となっていた。街のビル群に明かりが灯り、帰宅の学生達やサラリーマン達は幅が広いタイル床の陸橋を行き交っていた。
「あー! もう夜じゃない! プロットを書かないといけないのに!」
友美が両手で頭を押さえて言う。
「ん~? 君の家は菜々里駅の近くじゃなかったかな? 王宮駅からなら十分で到着するのではなかったかな?」
友美のぼやきに理香が首を傾げる。
「自転車通勤に変えたのよ。自転車だと二十分もかかるし」
「それじゃあ、電車を使えばいいと思うのだがね」
「定期代が勿体無いじゃない! 買いたいラノベとかいっぱいあるし、それで母さんからこづかいを高くしてもらってるんだから」
その友美の言葉に理香は呆れ顔になる。
「君はまったく……無駄に小説馬鹿というか……」
理香が喋っていると、ワクドナルドの裏にある陸橋に繋がる百貨店から鐘が鳴り響いた後、独特なBGMが聞こえてくる。恐らくはからくり時計の七時を知らせる鐘とBGMだろう。
「何よ! いけない!? あっ、もう! プロットの執筆時間が無くなるじゃない!? それじゃあ、みんな明日の部活で!」
友美はスマホで時間を確認した後、ワクドナルドの駐輪場がある階段へと駆け降りていった。
「まったくせわしない……アリスの白ウサギのようだね。まあ、プロットが気になるというのは私も同じだがね」
「理香先輩は王宮の近くなんでしたっけ? 徒歩ですか?」
「徒歩だね。徒歩十分といったところだ。このへんは歩行者で混雑する歩道ばかりで自転車では走りにくいというのが難点でね」
「大変ですね」
「電車通勤が長い君らの方が大変だろう。まあ、気をつけてゆっくり帰りたまえ。明日のプロット、楽しみにしているよ」
そう言って理香は手を振ると、歩道に繋がる階段を降りていく。
「じゃあ、そろそろ私も帰らないといけない時間ですわね」
エロスが王宮駅前の出入口で足を止めると、スマホを操作する。
「エロスちゃんも電車通勤? 彩玉新都心の方面だよね? いつも校門前で消えちゃうから駅まで一緒に帰りたいと思っていたんだよ」
愛がエロスに歩み寄り、笑顔を見せる。
「愛さん、ごめんなさい。ターミナルの方で車を待たせていますの」
エロスは本当に申し訳なさそうに頭を下げる。
「車ならしょうがないよ。また今度ねエロスちゃん」
「ごきげんよう愛さん、皆さんも明日のプロット、楽しみにしていますわ」
書也、愛、幽美が手を振ると、エロスは会釈して、ターミナルに繋がる階段を降りていく。
「やっぱりエロス部長は、お嬢様だから高級車なんだろうな」
「エロスの車……マジヤバい……」
幽美が青ざめた表情で言う。
「何がヤバいんです? ヤクザみたいな黒い外車とかですか? それとも長いリムジンとか? 金持ちなら何を乗ってても驚きませんよ」
書也はエロスが降りた方面の陸橋の手すりから乗り出して見下ろすと、何千万もする日本車の白いレクサスが止まっていた。それは見る人によって高級車の外見を全て台無しにしてしまうほどで、全ての人の視線を釘付けにするほどの衝撃があった。レッドムーンのゲーム作品に出てくるキャラクターの少女騎士の巨大なステッカーがあらゆる方向に貼られていた。つまり高級車の痛車だった。
「エロスちゃんのあの車って……宣伝のラッピングカーか何かなのかな?」
同じように覗き込む愛が首を傾げて言う。
「会社の宣伝もあるんだろうが、趣味の範疇でもあるような気がするな」
エロスは覗き込む書也と愛に気付くと、通り過ぎる人々の視線に恥ずかしがる事もせずに再び手を振り、笑顔を向けると、ドアの音も立てずに優雅に後部座席に乗った。そしてハイブリッド車かEV車なのか、静かに走行し、歩く人々の目を引きながら去っていった。
「エロスちゃんの車、大丈夫なのかな? いろんな意味で目立ってるよね? レッドムーンの社長の娘さんって、バレちゃうよね?」
本当に心配そうに言う愛に書也は否定するように手を横に振る。
「いやいや!? レッドムーンの社長の娘さんが、宣伝の為にあんな痛車に乗るとは思わんでしょ普通は……広告のラッピングの電車や飛行機はあるけど、私用の車を宣伝カーにするのもな……普通じゃない」
『さっき、あの子達さー。痛車に乗ったJKと話してなかった?』
『うそ? マジ?』
他校の女子高生と思われる制服の二人が通り過ぎ、何度か見返していた。
「愛。は、早く帰る!? 走るエロゲー広告塔の身内と思われたくない!」
歩く人達の視線が気になるのか、幽美は周囲を見回し、おどおどしながら愛の制服の袖を引っ張り続ける。
「怪奇先輩は何処でしたっけ?」
「……岩月駅」
愛はぼそりと呟くように言う。
「人形の街でしたよね? 良い所に住んでますね。俺は粕壁駅なんですよ。愛は椙戸高野台だったよな?」
「うん。書也君が降りる粕壁駅とは少し近い駅だね。しばらく一緒だね」
愛が書也に笑みを向ける。すると、幽美はむすっとした表情で愛の制服の袖を引っ張り、ぬいぐるみのように抱き寄せた
「むう……愛は渡さない」
幽美は愛という友達を取られるとでも思っているのだろうか?
「はは……一緒に帰りましょう」
その幽美の行動に書也は苦笑いするしかなかった。
同じ方面の書也達は電車で一緒に帰る事にした。
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