あれからしばらく時がすぎていた。
季節は4月頭。
4月だと言うのにまだ寒い日が続く。
場所によっては桜が咲いてる地域もあるらしいがこの地域はまだだ。
あいつのいた3日間が一体なんだったのか。
毎日の様に考える
最初から全て夢だったのでは…なんて
俺らしくない。
あの日一緒にここへ帰って来た後俺は家に入る所まで見送られたのであの後あいつがどうなったのか知らない。
そしてあの日からちょくちょく変な夢を見るようになった。
莉犬の出てくる夢。
考えまいとしても考えてしまうのはきっとこの夢のせいだ。
あいつの存在自体が忘れようとしても忘れられなさそうなインパクトではあるが、、
夢がそれを助長させているということだ。
時の流れは早いもので高校1年だった俺は3年になった。
夢の中でいつも莉犬は泣きそうな顔をしていて、
俺が何かを言うと信じてると笑うのだ。
「….久しぶりに行ってみようかな、あそこ」
思い至ったらすぐ行動で簡単な服を着てお金を持って家を出た。
電車を乗り継いで目的の場所へ着く。
電車から降りてすぐ綺麗な桜の花弁が舞っていた。
少し寒いけれど暖かい。
冬の終わり、そして春の始まりの季節。
2つの季節が混ざったようなどちらとも言えない時期。
駅のホームをでて海へ向かって歩いた。
砂浜へと辿り着き見覚えのあるベンチへと辿り着く。
年季と言うと多少ましな気はするが包み隠さず言うならボロボロのベンチだ。
背もたれへと手をかけると少し揺らいだ。
揺れた拍子に裏に刻んである何かが顔を出す。
「なんか書いてあるのか」
こちらへと向かい始めた時刻が遅かった為にもう日がほとんど落ちきっている。
ライトでもなければしっかりと見えなそうだ。
スマホのライトで照らしながら壊さない範囲でその背もたれを前へと倒すとそこに刻まれていたのは名前だった。
「さとみ…りいぬって、」
このベンチの裏には防波堤が建っていてこの裏の文字など普通にしていたら見えやしない。
さとみってあいつが呼んでた名前だよな。
それにりいぬって。そんな変わった名前他にいるとは思えない。
きっとこれは偶然なんかじゃない。
でもなんだ。
俺はこれに刻まれた名前のことを知っている。
気がする。
莉犬に連れられて来たあの日。懐かしい気がしたのは気のせいじゃない。
夢に出てきた風景とこの場所が一致する。
壊れかけのベンチへ腰を掛けて隣を見た。
誰もそこには座っていない。
けれど、誰か隣にいつも。
それは今まで感じたことの無いような衝撃で、莉犬の発した言葉の答えがここにあるような気がして
何か、。
俺は何かを忘れている。
覚えている範囲で彼の言った言葉を思い返す。
何か。なにかヒントは。
….春の始まりの海。ちょうど今のことだ。
ベンチから一直線に歩き海沿いへとついた。
波が寄せては帰っていく。
その中で1箇所岩のような大きな石が砂地浜に埋もれて出っ張っている。
藁にもすがる思いでその石の周りを掘った。
けれど何も出てきやしない。
そんな全てが上手くいくなんてありやしない。
何してんだ俺。
漫画でも読みすぎたかなと自嘲した。
急に全てがバカバカしくなって頭を掻きむしったまま再びベンチへと足を向けた。
道中飛び出た木の枝に気が付かないでみっともなく転けた。
ベンチの奥側の足に何かが括り付けてある。
「なんだあれ」
それは赤いリボンのようなもの
砂の中へと繋がっている。
リボンを引いてその周りを掘った。
中から出てきたのは瓶だった。
手紙の入った。口の錆びた瓶。
錆びてて開かないそれを防波堤へと投げ割中身の手紙を取り出した。
そこに書かれていたのは莉犬からさとみへ向けられた手紙だった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
君は全てを忘れている。
俺と交わした言葉も触れた記憶も俺の外見も君の褒めてくれたこの声も。
それは遥昔の話で、でも俺にとってはつい最近まであった温もりで。
君が言ったから信じたんだ。
もし生まれ変わって記憶がなくなっても俺は莉犬を見つけるって。
死ねない俺に君は言った。
死なない俺に君は言葉を掛けた。それは呪縛だ。
俺はもう何千年と生きている。
他者との関わりを避けていた俺に、同じく他者との関わりをあまり好まない君が俺を口説くだなんておかしな話。
いつからか成長も退化も止まった。
増える年齢に見合わない外見。
元々変わった見た目をしていたんだ。
それ故に村の住民は俺を恐れた。
社会が変わる。人は移り変わる。
同じ魂が別の容器に入って日々を過ごしていく。
また君を見つけてまた恋人になってそれで、それで君だけが年老いて君だけが死んでいく。
何百年何千年と尽きることないこの命に、投げ捨てることの出来ないこの人生にきっと俺は疲れていたんだ。
初めてだった。誰かに好きだと言われたのは。君が初めてだったんだ。
俺が何千年生きているのか知っても尚変わらぬ顔で俺に好きだと君は言った。
何度も何度も。初めましてを繰り返した。
君の優しさに絆されてつい信じてしまう。またどうしようもない夢物語を。
次は君から見つけくれるだなんて。
けれど君は1度も見つけてくれたことは無い。
過去の記憶も覚えていない。
約束だって君は知らない。
君は死んだ。
人間だから。
俺は死ねない。
人間なのに。
生まれ変わりが確かに存在することを俺は知っている。
だからまた君を探す。
きっと君はまた俺を覚えてはいない。
1つ前の君は初めて出会った時と同じ名前をしていた。
ピンク色に染めたその髪とても似合っていたよ。
思い出作りにこの海でベンチを作った。
2人の名前を刻んだ。
完成したベンチで2人色々な話をした。
輪廻転生の話をした時。君はそれを素敵だと言った。
俺の膝で眠る君。
君は言う。初めて出会った時に言ったことと同じことを。君は俺を見つけてくれるって。
嬉しかった。信じてた。
けれどこれも君は死んだら忘れてしまうのだろうね。
だから次で最後にしようと決めた。
いや決めずとも次で最後になってしまうのだろうから。
あれだけ老いも退化もしなかった体が最近ようやく壊れてきた。
たまに別の人の身体の中で目が覚める。
まだ赤子の体の中で。
そろそろ君も生まれ変わっている頃かな。
次また生まれ変わった君が俺の事を思い出せなかったらきっとまた俺は泣いて仕舞うのだろうね。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!