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#💛💜
愛日
1
その日、特務調査局の事務所は目まぐるしかった。
依頼が警察からも一般の方からも舞い込んでいて、警察からの立て籠り事件の要請は岩本と宮舘、浮気調査を深澤と渡辺、迷子探しを目黒とラウールというチームで行っており、向井はカフェ、阿部は電脳空間へ行き、佐久間がお留守番をしている。
電脳空間に入っている間、阿部は現実世界の事がまるで分からなくなってしまう。
だから阿部一人にしないように、必ず誰かが事務所に残るようにしていた。
🩷「あ~、暇だな~」
一人になると、途端にやることがなくなってしまう。
🩷「アニメ見てぇ~」
けれどアニメを観るには三階にあるモニタールームに入らなければならない上に、没頭してしまうと周囲の音が何も聞こえなくなってしまう。
それだと、何のための留守番なのか分からないし、確実に怒られる。
ここは三階建てのビルにある。
一階が、向井が営むカフェ【スノードロップ】。
建物の中ではあるが、カフェの外から続く階段で上がった二階が、事務所。入ってすぐに応接間、その奥に執務机があり、そこから備品庫、休憩室、給湯室、阿部がいつもいるコントロールルームへと行く事が出来る。
休憩室とコントロールルームの間から伸びる階段から三階に行く事ができ、リビングルームとモニタールーム、誰かが寝泊まりできる用のベッドルームとシャワールームがある。
🩷「阿部ちゃん、は、まだかかりそうだよな~」
どうしようかなと考えていると、スマホが鳴って電話に出る。
🩷「にゃ。どした?」
🧡『ごめんやけど、カフェのお客さんで依頼ある言うてる人いてな、話聞いてくれへん?』
🩷「あ~、行きたいけど今、事務所に俺しかいなくてさ~。阿部ちゃん、電脳空間から戻って来てないし」
🧡『俺、他にもお客さんいて手が離せないねん。急ぎみたいやねんけど、無理かあ』
🩷「んー……話だけでも聞いてみよっかな! 5分くらいなら大丈夫でしょ。一階だしね」
🧡『せやね。手短にできるよう言っとくわ』
🩷「ほーい!」
通話を切って、佐久間は阿部がいるコントロールルームを見る。
メモを置いて行った方がいいかとも思うけれど、すぐに戻ってくるから大丈夫かと思ってそのまま事務所から出て行った。
それからわずか1分後のことだった。
事務所のドアが慌ただしく開いて、中に入ってくる一人の男。
息を切らし、焦った様子だ。
中から入口のドアに鍵をかけ、ドアが開きかけている奥のコントロールルームに辿り着くとドアを開けて、阿部の姿を見止めて驚いてナイフを取り出した。
阿部にナイフを向けているけれどすぐに、阿部が全く動かない事に気付いて近づく。
すぐ隣に立っても阿部が反応することはなく、男は背負っていたリュックを下ろすと中からロープを取り出した。
いつものように電脳空間で作業をしている阿部だったが、不意に、何かに弾かれたように電脳空間から現実世界へと引き戻された。
💚「っ?」
一体、何が起こったのだろうか。
こんな風に、自分の意思ではなく戻って来たのは初めてだ。
一体なんで、と動こうとして、体が動かないことを知った。
💚「んっ、んんっ?!」
声を出そうとしても出ない。
💚(え、何で俺、縛られてんの?! 口も塞がれてるし、何が……いや、それより、異能も使えない……!)
何が起こったか分からないけれど、とにかくみんなに知らせないと、と思ったのだが、どうやっても異能が使えない。
💚(あっちに行けたら、なんとかなるのに……)
電脳空間に行くことができれば、現状を伝える事も、どうしたらいいのか話し合う事もできたというのに。
💚(首に違和感がある。多分、異能封じの首輪を付けられてるんだ。っ、佐久間は?! 今日は佐久間だけ残ってた筈)
そう思って辺りを見回しても、佐久間の姿はない。
そこで、自分の近くに人がいるのが分かった。
その手にナイフが握られていて、阿部は目を丸くした。
「やっぱ、別のとこに行く系の異能か。ま、それなら別に封じなくても怖くないけど、念には念を入れて、な」
💚(なんで……一体、何が目的……? 俺を捕まえたって何もないのに)
男をじっと見る。
少し汚れた服。使い古されたリュックと、余裕のない狂気的な目。けれど、少しホッとしているような感じも受け取れる。
「目的? しばらく居させてくれればいいよ」
💚(えっ、今の……考えとか心が読めるのか……)
「そ。察しがいいね……疲れた……ちょっと休む」
その場に座り込んで、モニター側のパネル下に体重を預けて目を瞑る男。
体をよじってみるけれど、手首が擦れるだけで緩む感じはない。
すると、スッとナイフが頬に当てられる。いつの間にか、目の前まで来ていたらしい。
「変な事したら刺すよ。大人しくしててくれればいいから」
そう言うと再び同じ場所に戻って片膝を立てて座り、男は目を瞑った。
💚(……俺がここにいて、佐久間はいないしこの人もずっとここにいる……多分、佐久間は大丈夫だ……また、みんなに心配かけちゃうな……)
カフェで依頼を聞いてみたところ、隣人トラブルだった。
今すぐどうこうできるものではなかったので一旦保留にし、改めて依頼に来てくださいという話で終わって、佐久間は二階の特務調査局の事務所へと向かった。
🩷「はあ、思ったより時間かかっちゃったな……阿部ちゃん、もう戻って来てるかな? いやでも、阿部ちゃん一回入ると長いからな~」
まだ戻ってないことを期待して事務所のドアを開けようと、レバーハンドルを下げるのに力を籠める。
🩷「あれ? 動かない……え? 鍵かかってる? 俺、かけてったっけ?」
すぐ下だからと思って、かけなかったような気がする。
🩷「じゃあ、阿部ちゃんがかけた? 何で?」
ドンドンとドアを叩く。
🩷「阿部ちゃ~ん! 帰って来たよ~! 開けて~!」
しかし、中から声は聞こえてこない。
🩷「うーん、またコントロールルームに戻っちゃったのかな~。しょうがない。ここは俺の異能で入るか!」
またくだらないことに使って、と言われるかもしれないけれど、入れないものは仕方ない。だから粒子になって瞬間移動をしたのだが。
バチッと何かに弾かれて粒子化が解けると、ドアの前でお尻から落ちた。
🩷「いって~……え、なに……入れない?」
そこに、階段を上って来た深澤と渡辺が不思議そうな顔で佐久間を見ている。
💜「佐久間? 何してんだ? そんなとこで」
💙「んなとこで転ぶとかあるか?」
🩷「違うって! 入れないんだよ! 事務所に!」
💜「えっ? 何で?」
🩷「わっかんないのっ! ドアは鍵かかってるし、阿部ちゃんは返事しないし、瞬間移動は弾かれるし!」
💙「阿部ちゃん、いないの? 連絡は?」
スマホを耳に当てている深澤は首を横に振った。
💜「ダメだ、繋がらない。向こうに行ってたら通常の電話じゃ聞こえないし……ってか、弾かれたってなに?」
🩷「カギ掛かってるから、異能で中に入ろうと思ったんだよ。そしたらさ、押し返されたっていうか飛ばされたっていうか、気付いたらここにいたって感じで」
そうして話していても、一向に進まない。
ただ時間だけが流れている中で、更に岩本と宮舘も階段を上って来た。
💛「あれ、お前らそんなとこで何してんの?」
💜「照と舘も帰って来たの? そんな早く解決したんだ」
💛「それもあるけど、強盗殺人犯がこの辺に逃げ込んだらしい。特務調査局もあるから、周辺の捜索してくれないかって……って、なんだよ、その顔」
岩本の言葉を聞いて、佐久間も深澤も渡辺も「あちゃー」という顔になっている。
💜「絶対ソレじゃん。どう考えてもソレじゃん」
💛「え、なに?」
❤️「ソレって?」
💜「事務所に鍵がかかってて、阿部ちゃんに連絡取れなくて、異能が弾かれたってさあ。絶対、中に犯人いるじゃん」
💛「え……マジ?」
🩷「いや、それ以外ありえなくない?」
そこまで話してから岩本が全員に下に行くように指示をし、一階の向井のカフェに入ると向井が驚いたようにみんなを見る。
🧡「なんかあったん?」
💛「康二、悪いけど店閉めて。翔太、目黒とラウールに連絡。すぐ康二の店に来てって」
🧡「お、おう? なんやわからへんけど」
💙「わかった」
すでに誰も客がいなかったので、店の外側のドアにCLOSEの札をかけてきて、渡辺がラウールに電話をしてすぐ帰ってくるように伝えている。
それが終わって、皆が店のカウンターの方に集まる。
💛「で、ホントに強盗犯がいるのか? うちの事務所に?」
🩷「いやだって、事務所に阿部ちゃんいるのに鍵掛かってる事なんてないじゃんか」
❤️「確かに。依頼人が来るかもしれないしね」
💙「ってか、今日って留守番すんの佐久間じゃなったか? 何でお前ここにいんの」
🩷「こーじから、カフェに依頼者がいるからって話があってカフェに来たんだよ。ちょっとなら大丈夫かなって……」
💙「はあ? お前、事務所離れたの!? 留守番してろよ!」
🩷「ご、ごめん、急ぎだって言うし、ちょっとだけなら大丈夫かなって……ごめん」
💜「言いたいことはいっぱいあるけど、それは後にしよ」
💛「佐久間は後で説教な」
🩷「はい……」
今回は全面的に佐久間が悪いので、素直に従う。
❤️「康二もね」
🧡「……はい……」
事務所内に人がいないにもかかわらず、佐久間を呼び出した向井も同罪だ。
💜「で、阿部ちゃん、捕まってると思う?」
❤️「電脳空間に行ってたらアウトだよね。現実世界のこと、何にも分かんなくなるし」
💛「それと、異能使おうとした佐久間が弾かれたってやつ。異能封じが使われてるかも」
🧡「異能封じ?」
💛「犯人も異能持ちだから、警官が持ってたんだけど奪われたって」
💜「ってことは、確実に事務所内に設置されてるね。もしかしたら阿部ちゃんに装着型のも使われてるかも」
💙「そしたら、阿部ちゃん電脳空間に行けないんだ」
💜「てか待って。逃げ込んだ犯人、強盗殺人犯って言わなかった?」
💛「そう。三人家族の家に強盗が入って、住民が刺されてるって通報が入ったんだ。警察が駆け付けたら、ナイフを持った男が逃げてくのを目撃して、その逃げた先がこの辺だったって。三人ともめった刺しだったらしい」
🩷「それ、ヤバいじゃん」
🧡「時間かけとったら、阿部ちゃんの命も危ないってこと?!」
❤️「とにかく、ラウが帰ってきたら鍵作って開けてもらおう。中に入ればどうにかなるかもしれない」
その時だった。
ピコンとラインが届いた音が響く。それは深澤のスマホからで、その中身を見て深澤が目を見開いた。
💜「阿部ちゃん!」
慌てて他のメンバーも深澤のスマホを覗き込んだ。
そこに映っているのは、手を後ろにして椅子に縛り付けられ、口に黒いガムテープを貼られて首輪をつけられている阿部の姿。
阿部にはナイフが向けられていて、その写真の下には、入って来たら殺すという文字。
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