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愛日
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阿部のポケットから取り出されたスマホを操作していた男。そこからシャッター音が聞こえて、更に操作してからスマホを乱暴に床に投げた。
💚(何、したの……?)
「さっき電話してきた奴に釘刺しといた。変なことされても困るからね」
💚(……ここにずっといても、何も変わりませんよ。何か理由があって、立て籠ってるんですよね?)
「何でそう思う?」
💚(あなたが何か悪いことをしてたとして、俺のことを捕まえる必要ないかなって。それこそ、刺して殺した方が楽でしょう? でもそうしなかった。時間をかけたら何か変わるのかと思ったんです)
「へえ。ただの気まぐれかもしれないのに?」
口角を上げて阿部に近づくと、ナイフを首筋に当てる。
💚(今も、刃は当ててないですよね。ずっと俺に向いてるのは、刃じゃない方。殺す気ならそんなことはしない……何があったか聞かせてもらえませんか?)
「はっ、お前に?」
💚(ここ、特務調査局っていうんです。異能力の調査をしていて、探偵みたいなものですね。なので、力になれると思います)
「……解放はしない。お前のこと、信用できないからな」
💚(それでもいいです。とにかく、お話だけでも聞かせてもらえませんか)
「……わかった」
そうして男は話し始めた。
男の名前は西矢肇(にしや はじめ)。仕事に関しての話があると中野圭壱の家を訪ねたところ、中で揉める声がしたから慌てて入ると、中野の妻が中野を刺し、娘の由梨が母を刺し、こちらに向かって来た由梨は自分の腹を刺した。
そしてそのナイフを自分で引き抜くと西矢に押し付けてきた。
思わず受け取ってしまってナイフを持っているところを、到着した警察官に目撃されて逃げ出し、この特務調査局の事務所に入り込んだという。
💚(……警察の到着が早すぎる……多分、犯人が通報したんだ。あなたに罪を着せる為に)
「……信じるのか?」
💚(嘘をつくとは思えないから。何か、恨まれるような覚えは?)
「……ない、わけじゃない。けど、分からない……」
💚(う~ん……相手も異能持ちだと思うんだよね。家族で殺し合ったっていう事なら、多分、洗脳系……相手にするのは厄介だ)
「俺もそれを警戒して、狙われないように異能封じを使ってる」
💚(でも、あなたを恨んでてあなたに罪を着せたいなら、あなたを洗脳した方が早い。けど、そうしてない……もしかしたら、あなたに異能を使えないのかも)
「使えない? 俺に?」
💚(恐らく。精神系の異能は特に、発動条件が細かく存在してる。その発動条件があなたは合致しないのかもしれない。何か、他の人と違うところはありませんか?)
「違うとこ……特に思い当たらないけど」
💚(なんでもいいんです。どんな小さなことでも、ヒントになるかもしれない)
「あ……少し、耳が悪いくらい。日常生活に支障はないけど、聞き取れる音域が狭くて、そこから外れると聞こえない」
💚(耳、音……音を使って洗脳してる可能性がある。つまり、音にさえ気を付ければ、対抗できるかも……うん、なんとかなりそうだ。あの、みんなに電話させてもらえませんか? あなたの無実を証明します)
「……」
💚(縛られたままでいいです。あなたが、それで安心できるなら。喋れるようにさえしてもらえれば、電話をスピーカーにしたまま話します。そうすれば、俺が変な事を言ってないってわかるでしょう?)
「……わかった。ただ、16時まで。それに、異能封じは解かない」
💚(それでいいです)
真剣な目で見ながら阿部がコクンと頷くと、西矢が近づいて来て、口のガムテープを剥がしてくれた。
💚「ありがとうございます。じゃあ、深澤に電話してもらっていいですか?」
手が使えない阿部の代わりに、西矢がスマホを操作していく。
🤍「えっ!? 阿部ちゃんが!?」
戻って来た目黒とラウールに、現状を説明した。
そして、深澤のスマホに送られてきた阿部の写真を見せると、途端に目黒の周囲に黒く染められた蔓が出現した。いつも見ている蔓とは違い、葉っぱはギザギザとしている。
🩷「うおっ、なんだソレ!」
🧡「どす黒いな……」
💙「こえーよ!」
💛「感情ダダ洩れじゃねえか」
❤️「目黒、どうどう。話、進まないから」
🖤「あ……すみません」
目黒の気持ちに呼応するように蔓がシュルシュルと床に消えていく。
💜「阿部ちゃんの事だからしょうがないけどね」
💛「とにかく、阿部を助け出すのにどうするか……」
🤍「鍵があれば中に入れるんでしょ?」
💜「バレないように動かなきゃならないからなあ……」
どうしようかと思っていると、深澤のスマホに着信が入った。
表示されている名前は阿部。
皆に緊張が走る。
💜「……もしもし」
💚『……ふっか、俺だよ』
🖤「阿部ちゃん! 大丈夫?!」
💚『うん、大丈夫。心配しないで』
💜「逃げれたの?」
💚『ううん、まだ一緒にいる。みんなに頼みがあるんだ』
💛「頼み? なに?」
💚『これは正式な依頼。真犯人を見つけて、西矢肇さんの無実を証明してほしい』
🩷「真犯人? って、強盗殺人の?」
💚『そう。今、俺が一緒にいるのが西矢肇さん。教えてもらったことを共有するね』
先ほど聞いた話をそのまま伝え、そこに阿部が考察したものもプラスしていく。
犯人に捕まりながらもそこまで導き出したのかと思うと、本当に頭が下がる。
💚『ラウ、急ぎでみんなにイヤホンを作ってくれる?』
🤍「イヤホン?」
💚『うん。真犯人が洗脳の異能を使える可能性が高くて、そのトリガーが音みたいなんだ。聞こえる音域を狭めてほしい』
🤍「音程は?」
💚『えっと、下はこのくらい、上はこのくらい』
このくらい、と音程を変えて伝える。
🤍「イヤホンなら作り慣れてるから、すぐできるよ」
💚『ありがとう。できれば、落ちにくいようにしてほしい』
🤍「おっけー! 作ってくるね! 康二くん、奥の部屋貸して!」
🧡「ええで。好きに使い!」
ダッシュでいなくなったラウール。
💚『ここからなんだけど、カフェの外に出るのはラウのイヤホンが出来てからにしてほしい。誰かが洗脳されたら終わりだと思う。だから、絶対にイヤホンは外さないで。やってほしい事は三つ。現場を見に行く、西矢さんの護衛でここに残る、通報に関して警察に確認する。メンバーの選出はみんなに任せるよ』
💛「わかった」
💚『それと、時間は16時まで』
『それ以上の時間をかけたら、裏切ったと見做す』
🖤「……お前。阿部ちゃんに何かしたら許さないからな」
💚『めめ、大丈夫! 俺はみんなのこと、信じてるから。わかったことがあったら俺にも共有してほしい』
💜「わかったよ、阿部ちゃん。必ず真犯人を見つける」
💚『お願いね』
ブツっと切られた電話。
暫し画面を見つめて、ぐっと拳に力を入れる。
🩷「……阿部ちゃん……」
🧡「16時って、あと6時間しかないやん」
💜「5時間だよ」
🧡「ぅえっ?」
💛「あんま時間ねえな。でもま、阿部の情報から犯人は絞れそうだ。現場には目黒と翔太と佐久間で行ってほしい。ラウと康二とふっかでここの守り。俺と舘さんで警察に行ってくる」
そこに、奥の部屋からラウールが出てきた。
🤍「お待たせー! 出来たよ!」
カウンターにワイヤレスイヤホンをバラバラと置く。
🤍「みんなの耳の形に合わせてるから、自分の色のを付けてね。右と左も間違えないように!」
イヤホン系のアイテムを作ってもらうことはよくある為、ラウールはみんなの耳の形を全て把握している。作り慣れているから早かったのだろう。
💛「とにかく、時間が惜しい。すぐに動き始めよう」
事件現場に向かうと、まだ現場検証をしている最中だった。
規制線の前にいる警察官に特務調査局の者であることを告げるとすぐに通してくれて、中に入るとそこは、凄惨な現場だった。
渡辺は怖がって遺体を見れないので、目黒と佐久間が現場を確認する。
中に入れない渡辺はその分、家の外を探っている。
🩷「うーん。あんま変わったとこはなさそうだな」
🖤「ですね。ただ、家族で殺し合ったのに手加減は全くないですよね。阿部ちゃんが洗脳って言ったの合ってるっぽい」
🩷「だな。やっぱ阿部ちゃん凄いわ。操られてるだけだったら抵抗するもんな」
🖤「あのサボテンいけるかな。ちょっと記憶、見てみますね」
リビングの端に置かれているサボテンに近づいて手を近づけて、目黒の手が止まった。
🩷「どした~?」
🖤「トゲがちょっと怖いなって」
🩷「なっはっは! めっずらしい。それしか手がかりないんだから頑張れ~。阿部ちゃんが待ってるぞ!」
🖤「……よしっ」
気合いを入れてゆっくり触る。気を抜いたらトゲに刺されそうだ。
目を瞑る目黒。
数時間前の出来事だから、見るにはあまり時間がかからないだろう。
無防備になっている目黒をそのままにしておくわけにはいかず、佐久間は家の中で調べられることがないか注視する。
すると、庭の方から声をかけられて窓を開ける。
🩷「翔太? なんかあった?」
💙「こんなん落ちてた」
🩷「にゃ? なにこれ、服のボタン?」
💙「だと思うけど」
🩷「うーん、とりあえず持ってよっか。阿部ちゃんに知らせた方が良さそうだし」
💙「だな」
🖤「あー……やっと終わった……」
🩷「おかえり~。どうだった?」
🖤「うーん……しょっぴーには聞かせらんない内容。めっちゃグロかった」
💙「いい、いい! 聞きたくない!」
🖤「でも家の中には、聞いてた家族三人と、西矢って人しかいなかった。事件より前も見たけど、このサボテンから見えるところにはいなかったかな」
🩷「じゃあ、収穫はなしか」
🖤「あ、でも、事件の日の朝だったかな。誰か家に来てたよ。こっからじゃ玄関見えないし声も聞こえなかったけど、普通に出てったから知り合いとかじゃないかな」
💙「それ、ヒントになりそうだな」
🩷「阿部ちゃんに報告することは二つか。家に来たって人と、翔太が拾った服のボタン。これを伝えたら、何か導き出してくれそう」
🖤「もう1時間以上経ってる……急ぎましょう」
警察署にやって来た岩本と宮舘。顔なじみの刑事に話をし、中野家の通報について聞く事にした。
けれど通報を受けているのはここではないから、その部署に通してもらって直接聞く事になった。
正直、あまり時間をかけたくはないけれど、又聞きだと逃してしまうかもしれない。
だからここは我慢して、覆面パトカーでその場所へと送ってもらう。それから担当部署に案内してもらって、その人に直接話を聞く事ができた。
💛「通報は、事件発覚の10分前って言ってたな」
❤️「特に怪しいところはなかった。けど、なんか変な音が聞こえたらしい」
💛「変な音……笛みたいな、鳥の鳴き声みたいな、って言ってたけど……ヒントになるか?」
❤️「どうだろうね……で、近くの交番勤務の警官が駆け付けて、ナイフを持ってる西矢さんを見つけた。そこで、持ってた異能封じを盗まれて、警官一人がケガもさせられて逃走を許した……どうする? その、駆け付けたっていう警察官に話、聞いてみる?」
💛「そうだな……今で1時間半……少しでも情報は多い方がいいよな。行ってみるか」
ここから現場近くの交番まではそう遠くはない。
いつものように阿部が電脳空間に行けていれば情報収集はお手の物だが、今日はそうもいかない。だから、いつもよりも細かい情報を得られるかが重要になる。
何がヒントになるかは分からないから。
🤍「みんな大丈夫かなあ……」
🧡「心配しててもしゃーないねん」
🤍「僕たちなーんにもできないもんね」
💜「お前ら、気を抜くなよ。ラウのセンサーがあるとはいえ、いつどっから来るかもわかんねえんだから」
真犯人が別にいるという話を聞いてから、誰かが事務所への階段を上ろうとしたら反応するようにセンサーを仕掛けた。
光学迷彩になっていて背景に溶け込んでいるから、見つけられる者はいないだろう。
🤍「来るかもわかんないけどね~」
💜「それでも、西矢さんを狙ってるとしたら、ここに来る可能性高いだろ。これ以上、阿部ちゃんを危険な目に遭わせるわけにもいかないし」
🤍「それはそう! ホントは今すぐ助けに行きたいんだけど、阿部ちゃんの部屋奥にあるし、異能封じあるし、ナイフ持ってるし……」
🧡「できることするしかないんよな」
そうして話していると、コンコンコンとカフェのドアがノックされた。
何だろうかと思って向井が入口のドアを開ける。
🧡「すんません、今日はもう店じまいしとって……って、お巡りさん?」
「あ、突然、訪ねてすみません。例の強盗殺人犯について、何か進展ありましたか?」
そこにいたのは女性の警察官。佐久間と同じくらいの身長だろうか。
訊ねられて向井は中にいる深澤を振り返る。
🧡「ふっかさん。ちょお来てや。話してもええかわからんねん」
💜「ん? どした?」
「強盗殺人犯の事件について、確認して来いと言われてしまいまして……」
💜「あー……一応、犯人がどこにいるかは分かってます。ただ、調査中なのでもう少し分かってから説明しますね」
「わかりました。それにしても、こちらのカフェに皆さんがいるのは珍しいですね」
💜「今ちょっと、上が使えないもので。またこちらから連絡しますね」
「よろしくお願いします」
一礼すると女性警察官は出て行った。
💜「ふぅ……確証がない状態で話す事じゃないからね。まあ、頼まれてるから気にはなるだろうけど」
🧡「助かったわ。俺、どこまで言っていいもんかわからんくて」
🤍「康二くんは全部言っちゃいそうだもんね」
🧡「ラウに言われたないわ」
🤍「えー、なんでー」
💜「もー、お前ら緊張感ないなー……あれ? 今、ラウの警報、鳴らなかった?」
🤍「カフェにはみんな帰ってくるから付けてないよ。全部鳴ってたら煩いじゃん」
💜「そっか」