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ゆゆゆゆ
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朝。
何もなかったみたいに、始まる。
キッチン。
チャンスはいつも通りコーヒーを淹れている。
「起きたか」
振り向きもせず、そう言う。
「うん」
エリオットも、いつも通り返す。
“いつも通り”。
カップを受け取る。
指が触れる。
(……確認してる)
一瞬、そう思う。
チャンスの視線は落ち着いている。
でも、ほんのわずかに――
“測っている”。
「今日、仕事は?」
「昼から」
「……そうか」
それだけ。
会話は続かない。
なのに、
沈黙が重い。
(何も言わないのか)
昨夜のこと。
あの話しかけかけた言葉。
全部、なかったことみたいに流れていく。
(それでいいのか)
思考が浮かぶ。
でも同時に、
(……助かる)
とも思ってしまう。
知らなければ、
曖昧なままでいられる。
「……エリオット」
不意に呼ばれる。
顔を上げる。
チャンスが、近い。
「口、開けろ」
「は?」
次の瞬間、
キス。
突然。
強引に。
(……来た)
触れた瞬間、
“探られる”。
舌の動き。
呼吸の合わせ方。
全部が、
(確認だ)
逃げるでもなく、
受け入れるでもなく、
ただ、感じる。
(……違う)
やっぱり、
チャンスはチャンスだ。
混ざらない。
でも――
(……探してる)
チャンスが、
“何か”を探している。
自分の中に、
あいつの痕跡がないか。
それがわかる。
唇が離れる。
「……」
チャンスは何も言わない。
ただ、
ほんのわずかに眉を寄せる。
(見つからなかったのか)
それとも、
(あったのか)
どっちか、わからない。
「……行ってくる」
先に言ったのはエリオットだった。
チャンスは、頷くだけ。
そのまま、家を出る。
外の空気。
妙に軽い。
(何も起きてない)
そう言い聞かせる。
でも、
(進んでる)
確実に。
――ピザ屋。
仕事は、普通。
いつも通り注文を取って、
いつも通り焼いて、
いつも通り渡す。
でも、
(来る)
理由もなく、そう思う。
そして。
ドアベル。
振り向く前に、
わかる。
「こんにちは」
マフィオソ。
「……来たな」
思ったより、自然に声が出る。
「来るな、と言わなかったからな」
その言葉に、
わずかに息が詰まる。
否定できない。
マフィオソは、ゆっくりと近づく。
カウンター越し。
距離はあるはずなのに、
近い。
「顔色が違う」
「そうか」
「触れられたな」
一瞬、
止まる。
「……何の話」
「彼だ」
即答。
視線が、逃げる。
マフィオソは、それを見逃さない。
「確かめられたか」
「……ああ」
「どうだった」
その問い。
少しだけ、
考える。
(違う)
(でも)
「……わかる」
気づけば、そう答えていた。
マフィオソの目が、細くなる。
「何が」
「違うのは、わかる」
正直に、言葉を重ねる。
「でも」
そこで、止まる。
言っていいのか、
わからない。
でも――
「……足りない」
言ってしまった。
沈黙。
次の瞬間、
マフィオソが、笑う。
「そうか」
低く、満足げに。
「なら、もう一度だ」
カウンターに手をかける。
「今度は、もっと深く」
“選ばせない”声音。
エリオットは、
拒まない。
拒めない。
(……どこまで、同じだ)
確かめるために、
一歩、近づいた。