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#💛💜
愛日
1
🩷「れーん! 阿部ちゃーん!」
瞬間移動で川まで来てみたけれど、二人の姿が見当たらない。
まだ来ていないのか、別のところに行ってしまったのか……けれど、ここ以外に手がかりはない。
だから河川敷に降りて辺りを見回していると。
🖤「ぷはっ!」
川の中央付近から顔を出した目黒。
🩷「蓮!? なんで川ん中?!」
🖤「襲われて阿部ちゃん落とされて、阿部ちゃん泳げないから飛び込んで」
🩷「阿部ちゃんは?!」
💚「ゲホッゲホッ。めめに、助けてもらった……」
むせこんでいる阿部は目黒にしっかりと抱きしめられている。
🖤「阿部ちゃん、すぐ川から出るから、もう少し我慢してね」
💚「待って。みんなに先に伝えさせて。わかった事があるんだ。今すぐ翔太を止めないと大変なことになる」
🩷「お、おう……なんか分かんないけどヤバそうだな。って、阿部ちゃん、水の中でも異能使えるの?」
💚「電気信号でみんなの思考を繋ぐからこの方が都合いいのっ。電子の異能が使い物にならなくて電気の異能が強まってるし、水の中にいる今がチャンスだから!」
🖤「えっ、それヤバいんじゃ!」
🩷「その言い方、めっちゃリスク高そうで止めたいんだけど!」
💚「ごめん、今は聞けない! 一刻を争うからやるよ!」
有無を言わせない強い物言いにそれ以上のことは言えなくて、阿部の目が碧色(みどりいろ)に光ると脳に電気が走ったような感覚が佐久間と目黒を襲った。
💚『翔太! 舘様! 聞いて! 今追ってるその人に外部から衝撃を与えたら、翔太と舘様が爆発しちゃう! 自分への衝撃を、見たものに移すことができるんだ。だから、視界を奪わないと倒せない! お願い、ふっかが到着するまで耐えて!!』
頭に血が上っている状態の渡辺に、この言葉が届くかは分からない。けれど、もうそこにかけるしかなかった。
💚『俺は翔太が大事なのっ! だから!』
💙『……はぁ……阿部ちゃんにそこまで言われたら断れねえじゃん』
💚『……翔太……』
💙『とりあえず足止めしとく。ふっか、早く来いよ』
💜『お、おう! 最速で向かっちゃる!』
💚『阿部。翔太のことは俺が責任もって見張っとくから、安心して』
❤️『ありがと、舘様』
それから宮舘が現在地を伝えてくれたところで、ぶつりと音声が途切れた。
先ほどまで繋がっていたものが切れた感覚に、目黒はハッとして腕の中の阿部を見る。目を瞑り、ぐったりとした様子の阿部。
🖤「阿部ちゃん!」
🩷「蓮! 蔓伸ばして! 触れたら一緒に飛べる!」
🖤「わかった!」
出現させた太い蔓を腕に纏わりつかせ、それを佐久間の方へと長く伸ばす。その蔓を掴み、佐久間の手を通して蔓も阿部と目黒も粒子に変化した。
次の瞬間には宮舘が言っていた住所の近くまで来ており、阿部を抱いたまま目黒は公園の芝生の上に座り込む。
🖤「阿部ちゃん、阿部ちゃんしっかり!」
腕の中の阿部を揺さぶるけれど起きる気配はなくて。
🩷「苦手な水の中で異能使ったから限界きたんだね。無理しすぎだって……」
はあーっと佐久間から大きなため息が漏れる。
🩷「阿部ちゃん倒れたって知ったら、翔太、自分のこと責めちゃうよ。あと、止められなかった俺らがガチギレされそう」
🖤「まあ、さっきの切れ方だとバレてそうですけどね。しょっぴーも、阿部ちゃんには過保護だから」
🩷「え、それお前が言う? 一番の過保護じゃん」
🖤「佐久間くんにだって言われたくないですー。あ、ふっかさんと岩本くんにも」
🩷「いやいや、最近は涼太もなかなかだよ。知ってる? もうなんか、目が完全にお兄ちゃんなの」
🖤「わかります。舘さん、阿部ちゃんにお菓子作る時、めっちゃ生き生きしてますよね」
🩷「俺らには作ってくれないもんなー」
🖤「阿部ちゃんはみんなに愛されてますから」
🩷「まー、お前の愛が一番重いのも、みーんな知ってるけどな」
🖤「えっ?!」
🩷「だってさ、蓮って阿部ちゃんにだけ甘々じゃん。全肯定だし、絶対、阿部ちゃんの不利になること言わないし。なんなら普段ぜんっぜん喋んないのに阿部ちゃんに関する時だけめっちゃ声でっかいし。俺とかこーじには抱き着くけど、阿部ちゃんには優しくsecret touchだし。あとお前、阿部ちゃんのこと見過ぎな」
言い出したらキリがないくらい、出てくる出てくる。
途端に恥ずかしくなって手を顔に当てる。マズい。こんなにバレてるという事は、阿部にもバレてしまうのではないだろうか、と。
🩷「あー、多分大丈夫。阿部ちゃんは気付いてないよ。基本、俺らからの愛の方が重いから」
🖤「そこも含めて、可愛らしいんですけどね」
一体、なんの話をしているのだろうか。
今、他のメンバーは強敵と戦っているというのに、こちらでは呑気に阿部の可愛さやみんながどれだけの愛情を向けているのかを話しているなど、普通だったら信じられないだろう。
けれど、阿部が情報を掴んで伝え、それを皆が実行しようとしている。その状況で負けるわけがないと信じているから。
だから大丈夫だと、目黒も佐久間も確信している。
🖤「そういや、佐久間くん、よく倒せたね」
🩷「何が?」
🖤「あの黒い靄の人。だって佐久間くん、無傷じゃん」
🩷「何それ?」
🖤「え……?」
🩷「あ、あー! あれか! 蓮たちが襲われてたってやつ!」
🖤「そうそれ。えっ、じゃあ、なんでこっち来たの? ラウールから聞いたんじゃないの?」
🩷「聞いた聞いた。そんで助けに来たんだけど、誰もいなかったし。そしたら、お前ら川から出てくるから、すっかり忘れてたわ」
🖤「……いなかった?」
🩷「そう。だーれも。だから俺、蓮も阿部ちゃんも別のとこに行ったんだと思ってたんだよ」
佐久間の言葉に、目黒は顎に手を当てて考え込む。
黙り込み、考え込む目黒は珍しい。
🩷「どった?」
🖤「いや。外から矢が飛んできて、それが阿部ちゃんに当たりそうだったからここまで逃げて来たんだけど……そいつ、阿部ちゃんのこと川に落としていなくなったってこと?」
🩷「ん? 何がしたかったんだ?」
🖤「……さあ……」
連絡を受けた時、渡辺と宮舘は広い陸上競技場を走っていた。
阿部からの連絡を受けて頭の冷えた渡辺は、すぐ後ろにいる宮舘に声を投げかける。
💙「悪い、涼太。巻き込んで」
❤️「いいよ。俺が自分から来たんだから。阿部の言いたいこと、分かったね?」
💙「分かったって。もう、一人で突っ走ったりしねーよ」
❤️「なら良かった。あいつの動きを止めるよ」
言って、宮舘が右手を下から上に振り上げると、追っている配達員の数メートル先に巨大な氷の壁が出現した。
急ブレーキをかけて止まる配達員の男。
黒い配達員の制服を着た人物が振り返ると、黒い仮面に白い模様が入っているものをつけている。事務所に入ってきた時は普通の男性だった筈だから、逃げている最中に着けたのだろうか。
💙「今すぐやってやりたいとこだけど、阿部ちゃんの為に我慢してやるよ!」
言って、渡辺が手を前に出すと無数の花びらが舞いながら配達員の体を取り巻いていく。
花びらがぶつからないように距離を置いているため、完全に拘束する事はできないけれど、抑止力にはなるに違いない。
このまま深澤達の到着を待てれば―――そう思っていると、配達員が指をパチンと鳴らした。
直後、二人の傍に落ちていた空き缶が爆発し、二人は衝撃で飛ばされる。
💙「ぅあっ!」
❤️「くっ!」
ゴロゴロと地面を転がる。
攻撃を受けた事で集中が途切れ、壁となっていた宮舘の氷も、配達員を取り巻いていた渡辺の花びらも解除されて消えてしまった。
💙「あいつ、他の物も爆弾に出来んのかよ……」
❤️「何か条件があるんだろうね。だから荷物も爆発したんだよ」
💙「っハッ! じゃあ、結局ふっか達来るまで戦うってことか」
❤️「けど、攻撃を当てられないんじゃこっちが圧倒的に不利だ」
向こうは条件付きだったとしても爆発でこちらを攻撃できるのに対して、渡辺も宮舘も足止めしかできないのであれば、消耗する一方だ。
💙「だからって何もしないわけには!」
立ち上がろうと手に力を込めたところで、視界に映った鉄パイプが光ったのが分かった。
爆発が起きるかもしれないと身構えて。
けれど、やってくる筈の衝撃はなかった。
💙「あれ?」
🧡「お待たせやで!」
声のする上空を見れば巨大化したふーちゃんと、そこに乗っている向井、深澤、岩本の姿。
目の前には岩の壁ができている。
💜「いくぜ! ふーちゃん!」
深澤の声を合図にふーちゃんが大きく翼を広げると、舞い散る鋼の翼が一気に配達員に向かって行って、一瞬の後に鋼のドームが形成された。
💜「舘さん!」
名を呼ばれ、宮舘が手を前に出すと巨大な氷の結晶が鋼のドームを包み込み凍らせる。
❤️「翔太!」
💙「お膳立てどうも!」
見えないけれど、配達員の周囲に落ちていた花びらを浮遊させて暗闇の中で、白いキョウチクトウを形成すると、その茎を男の体に突き刺した。
瞬間、ドーム内部で大爆発が起こった。
しかし、鋼のドームと氷で覆われていた為に外に衝撃が漏れる事はなく、数秒してから能力を解除すると、もう配達員の姿はなく、黒い仮面の破片だけが落ちていた。
💙「……やったか」
🧡「お疲れさん!!」
上空から降りてきたふーちゃんから飛び降り、向井が渡辺に抱き着く。
💙「くっそ、やめろ!」
🧡「ええやん。勝ったんやし!」
❤️「緊張感ないね」
💛「いつもどおりなのはいい事だろ」
💜「今回はこれで一件落着、だね」
目が覚めたら、白い天井が見えた。
💚(あー……やっちゃったー……)
川の中で電気の異能を無理やり使ったところで記憶が途切れているから、あのまま気を失ってしまったのだろう。
電子の異能を使っている状態で水に入ったことで、ショートしかかっていた。
それに、電波の出ていないものと電気信号を繋ぐ事は、阿部の体に多大な負荷を与える。だからいつもなら絶対にしないけれど、緊急事態だったことと、水が電気を通しやすく普段よりも扱いやすかったのも事実。
もう二度と同じことはできないだろうけれど。
💙「阿部ちゃん」
聞こえてきた声に右の方を見ると、渡辺が不安そうな顔でこちらを見ている。
💚「……翔太……大丈夫だった?」
💙「それはこっちのセリフ。倒れたって聞いて……ごめん、俺が先走って勝手なことしたから」
その言葉に、がばっと上半身を起こす。
💚「俺の方こそ、ごめん。余計なこと言って、翔太のこと、危険に晒した」
💙「いや、阿部ちゃんは悪くないよ。俺のせいで倒れちゃったし……」
💚「俺が倒れたのは水に入ったせいだよ。翔太のせいじゃない……ふふっ。なんか、同じことで謝ってるね、俺たち」
💙「ふはっ。だな」
💚「……ねえ、翔太。一つ、お願い聞いて貰える?」
💙「ん?」
💚「翔太の歌が聴きたい」
お願い、と手を合わせてコテンと首を傾けると、渡辺は顔をクシャっとさせて笑う。
💙「好きだねー、阿部ちゃん」
💚「うん、好きだよ。翔太の歌、力強くて綺麗で、ずっと聴いてたいくらい」
💙「褒めすぎだって。で? 何がいい?」
💚「んー……じゃあ、We’ll go together」
💙「りょーかい」
息を吸い込み、歌い始める渡辺。
💙―――どんな言葉を紡げば 笑顔の花が咲くのだろう―――
よく通る声で、耳に心地よく響く。それでいて、声には力があって芯が通っていて、心が震える。
気付いたら、阿部も旋律を奏でていた。その声は綺麗なハーモニーとなって事務所内に響き渡る。
二人の歌声に、皆が顔を綻ばせていた。
翌日、吹き飛ばされたドアと、爆発による被害箇所を向井とラウールで修繕していき、倒れた阿部とケガをしている深澤は特務調査局の事務所で待機している。
諸々の作業が終わったのは14時頃だった。
向井が淹れたコーヒーでブレイクタイムをとっていると、目黒と宮舘が戻って来た。
🖤「戻りましたー」
💚「おかえり」
🧡「めめと舘もコーヒー飲むんなら淹れるで」
🖤「飲むー」
❤️「じゃあ、俺ももらおうかな」
はいよ!と元気よく返事をする向井。
目黒と宮舘の姿を見て、阿部はそういえば、とずっと気になっていても聞けていなかった事を質問する。
💚「結局あの犯人からは何も聞けなかったんだよね?」
💜「しょうがないっしょ。爆散しちゃったわけだし」
🖤「ふっかさんの鋼と舘さんの氷で囲ってから、しょっぴーのキョウチクトウでトドメ、でしたっけ」
💜「そ。念には念を入れてね。キョウチクトウは猛毒で、翔太のは強化されてるから瞬殺レベルになってるね」
🖤「こわっ」
💜「爆発はあいつ自身の異能だけど。捕らえられそうな異能じゃなかったしねー」
あのまま生かしておいたら、もっと被害が出ていたかもしれなかったのだから、異能者の捕縛はできなかった。
❤️「あ、でも、喋ってないのはずっとだよ」
💚「え?」
❤️「あいつの声は聞いてない。追いかけても追いつめても一言も発してなかった」
寡黙で物静かなタイプの人だったのだろうか。
けれど、全く喋らないことなんてあるのか?と阿部は首を傾げる。
❤️「それと翔太が、あの人は自分を誘拐したのとは別人だと思うって言ってた。嫌な記憶だったから曖昧だけど、多分違うって」
💜「え、じゃあなべ、なんで追いかけたの?」
❤️「最初は同じ犯人だと思ってたから。でもきっと、事務所を襲撃したあいつと、命の霊薬を捜してる人とは違うと思う」
🖤「じゃあ、なんで特務調査局は襲われたんですかね。それに、阿部ちゃんのことを襲った靄の人のことも分かんないし」
💜「阿部ちゃんを川に落として消えたんだっけ?」
💚「うーん。別の目的があったんじゃないかな。ただの恨みなのか、命の霊薬を狙っている人物の仲間か依頼されたか……」
🖤「あ」
急に、そう呟いて目黒が口をぽかんと開ける。
💚「めめ、どうしたの?」
🖤「そうだ。俺、ここ襲った犯人を見た時に思った事があったんだ」
💚「え、なに?」
🖤「あの人、影がなかった」
💚「影が、ない?」
🖤「何か少しでも情報がないかなってよーく見てたら、影がないのに気付いて。なんかヒントになったらなって」
そこまで聞くと、阿部が難しい顔をして手を口元に当てて考え込んでしまった。
聞いた情報を頭の中で整理し、更に推測を繰り返しているのだろう。何かを考える時、阿部はいつも頭の中で繰り広げるのでこうして黙り込んでしまう事が多い。
そこへ、コーヒーを淹れ終えた向井が戻ってくる。
🧡「まあまあ、俺のコーヒー飲んで今はまったりしとき」
それぞれの前にカップを出すと、それぞれ飲み始めている。
🧡「阿部ちゃんのは、ラテにしといたで」
💚「ありがと」
💜「え、阿部ちゃんだけズルくない?」
🧡「阿部ちゃんには糖分とってもらわなあかんて言うたん、ふっかさんやろ」
💚「お、キャラメルの香りがする」
🧡「今日はキャラメルラテにしてみてん。感想ちょうだい」
一口飲むと、阿部から「うまっ」と声が出て向井がガッツポーズをする。
💚「ん? なんか、キャラメルだけの香りじゃない? うーん……バニラ?」
🧡「正解! 舘さんのバニラビーンズつこたんよ」
💚「ホッとする味……康二のコーヒーは美味しいけど、これ結構、上位かも」
🧡「っしゃ!」
💜「いや、どんだけ阿部贔屓なの? 俺もそれ飲みたい!」
🧡「また今度な」
命の霊薬編Ⅰ 終