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#医療系
しらすのお部屋
残っているのは――黄金の戦士。
圧倒的な存在感。
爆炎が消える。
完璧な勝利の姿。
――のはず。
肩が、小さく揺れる。
一歩。
足音が重い。
二歩。
視界の端が白く滲む。
パラドの声が、奥で響く。
「……もう限界だ、永夢」
黄金の装甲に、微細なノイズ。
ピシ、と小さなひび割れの音。
飛彩が息を呑む。
「……まずい」
エフェクトが乱れる。
光が明滅。
そして――
ゆっくりと、変身解除。
金色が剥がれ落ちるように消え、
永夢の姿が現れる。
その瞬間。
膝が折れる。
前のめりに倒れる身体。
飛彩が全力で駆ける。
「研修医!!」
間一髪で抱き止める。
軽い。
嫌なほど軽い。
呼吸が――
浅い。
…いや。
止まる。
胸が、動かない。
世界が凍る。
飛彩の声が低く落ちる。
「……心停止」
貴利矢が血の気を失う。
「は……?」
飛彩はすでに永夢を地面に横たえる。
胸骨圧迫開始。
力強く、迷いなく。
ドン、ドン、ドン。
骨の軋む感触。
止めない。
「戻れ!!」
額に汗が滲む。
貴利矢が震える手でデバイスを展開。
「チャージ……完了……!」
声がかすれる。
「離れろ!」
衝撃。
永夢の身体が大きく跳ねる。
無音。
波形――フラット。
飛彩の喉が鳴る。
「もう一度だ」
圧迫再開。
強く。
速く。
「戻ってこい……!!」
貴利矢が叫ぶ。
「永夢!! お前がいねえと、このゲーム終われねえんだよ!!」
もう一度、ショック。
衝撃。
一瞬の静寂。
――ピッ。
微弱な波形。
飛彩の目が見開く。
「……来た」
もう一度圧迫。
「呼吸を取り戻せ!」
波形が大きくなる。
不安定。
それでも。
ピッ……ピッ……
リズムが戻る。
永夢の胸が、わずかに動く。
浅い吸気。
かすかな、空気の音。
飛彩が息を吐く。
「……戻った」
だが。
永夢の意識は、まだ遠い。
まぶたが震える。
長い沈黙。
そして――
ゆっくり、開く。
焦点が合わない瞳。
酸素マスク越し、かすれた声。
「……あれ……」
小さく、困ったように笑う。
「また……?」
貴利矢がその場に座り込む。
「心臓止まってんのにそのノリかよ……!」
飛彩は永夢の額に手を置く。
まだ冷たい。
でも、生きている。
「……二度とやるな」
低い声。
震えが、混じる。
永夢は目を閉じかけながら、小さく呟く。
「でも……クリア、できたでしょ……」
飛彩は一瞬、言葉を失う。
そして。
「……馬鹿が」
だがその声は、もう怒りではない。
夕陽が差し込む。
戦場の煙が、ゆっくりと晴れていく。
パラドの声が、意識の奥で小さく響く。
「……死ぬなって言っただろ、永夢」
誰もそれを聞いていない。
でも。
永夢の指が、ほんの少しだけ動いた。
それを見た飛彩の視線が、わずかに揺れる。
確かに、生きている。
それでも。
まだ安心はできない。
呼吸は浅く、不安定。
吸うたびに喉が細く鳴る。
ヒュ……ッ
……ヒュ……
貴利矢がそっと息を吐く。
「ほんと……ギリギリすぎるだろ」
夕陽が、傾いていく。
赤い光が、永夢の頬を染める。
まるで何もなかったかのように、街は静かだ。
さっきまでの爆炎が嘘みたいに。
飛彩は、永夢の手首に指を当てたまま動かない。
一定ではない。
まだ、弱い。
だが確かに打っている。
トク……
……トク……
飛彩が小さく言う。
「搬送する。ICUだ」
怒鳴らない。
焦らない。
ただ、静かな決意。
永夢のまぶたが、もう一度わずかに震える。
「……ひ、い……ろ……さん……」
ほとんど息だけの声。
飛彩が顔を近づける。
「喋るな」
永夢は、ほんの少しだけ笑う。
本当に、かすかに。
「……だい、じょうぶ……」
全然大丈夫じゃない。
それでも。
その言葉に、誰も反論しない。
遠くでサイレンが近づく。
赤色灯の光が、地面をかすめる。
貴利矢が空を見上げる。
「……クリア、か」
飛彩は答えない。
ただ、永夢の額に触れたまま。
パラドの声が、深い場所で響く。
「……良かったな、永夢」
永夢の意識は、また沈んでいく。
だが今度は、暗闇ではない。
ゆっくりと、穏やかな沈み方。
救急隊が駆け寄る。
ストレッチャーが広げられる。
飛彩は手を離す直前、ほんの一瞬だけ強く握る。
「次はない」
それが医者としての言葉か。
仲間としての言葉か。
もう分からない。
夕陽が完全に沈む。
夜が、静かに街を包む。
――END――