テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
残っているのは――黄金の戦士。
圧倒的な存在感。
爆炎が消える。
完璧な勝利の姿。
――のはず。
肩が、小さく揺れる。
一歩。
足音が重い。
二歩。
視界の端が白く滲む。
パラドの声が、奥で響く。
「……もう限界だ、永夢」
黄金の装甲に、微細なノイズ。
ピシ、と小さなひび割れの音。
飛彩が息を呑む。
「……まずい」
エフェクトが乱れる。
光が明滅。
そして――
ゆっくりと、変身解除。
金色が剥がれ落ちるように消え、
永夢の姿が現れる。
その瞬間。
膝が折れる。
前のめりに倒れる身体。
飛彩が全力で駆ける。
「研修医!!」
間一髪で抱き止める。
軽い。
嫌なほど軽い。
呼吸が――
浅い。
…いや。
止まる。
胸が、動かない。
世界が凍る。
飛彩の声が低く落ちる。
「……心停止」
貴利矢が血の気を失う。
「は……?」
飛彩はすでに永夢を地面に横たえる。
胸骨圧迫開始。
力強く、迷いなく。
ドン、ドン、ドン。
骨の軋む感触。
止めない。
「戻れ!!」
額に汗が滲む。
貴利矢が震える手でデバイスを展開。
「チャージ……完了……!」
声がかすれる。
「離れろ!」
衝撃。
永夢の身体が大きく跳ねる。
無音。
波形――フラット。
飛彩の喉が鳴る。
「もう一度だ」
圧迫再開。
強く。
速く。
「戻ってこい……!!」
貴利矢が叫ぶ。
「永夢!! お前がいねえと、このゲーム終われねえんだよ!!」
もう一度、ショック。
衝撃。
一瞬の静寂。
――ピッ。
微弱な波形。
飛彩の目が見開く。
「……来た」
もう一度圧迫。
「呼吸を取り戻せ!」
波形が大きくなる。
不安定。
それでも。
ピッ……ピッ……
リズムが戻る。
永夢の胸が、わずかに動く。
浅い吸気。
かすかな、空気の音。
飛彩が息を吐く。
「……戻った」
だが。
永夢の意識は、まだ遠い。
まぶたが震える。
長い沈黙。
そして――
ゆっくり、開く。
焦点が合わない瞳。
酸素マスク越し、かすれた声。
「……あれ……」
小さく、困ったように笑う。
「また……?」
貴利矢がその場に座り込む。
「心臓止まってんのにそのノリかよ……!」
飛彩は永夢の額に手を置く。
まだ冷たい。
でも、生きている。
「……二度とやるな」
低い声。
震えが、混じる。
永夢は目を閉じかけながら、小さく呟く。
「でも……クリア、できたでしょ……」
飛彩は一瞬、言葉を失う。
そして。
「……馬鹿が」
だがその声は、もう怒りではない。
夕陽が差し込む。
戦場の煙が、ゆっくりと晴れていく。
パラドの声が、意識の奥で小さく響く。
「……死ぬなって言っただろ、永夢」
誰もそれを聞いていない。
でも。
永夢の指が、ほんの少しだけ動いた。
それを見た飛彩の視線が、わずかに揺れる。
確かに、生きている。
それでも。
まだ安心はできない。
呼吸は浅く、不安定。
吸うたびに喉が細く鳴る。
ヒュ……ッ
……ヒュ……
貴利矢がそっと息を吐く。
「ほんと……ギリギリすぎるだろ」
夕陽が、傾いていく。
赤い光が、永夢の頬を染める。
まるで何もなかったかのように、街は静かだ。
さっきまでの爆炎が嘘みたいに。
飛彩は、永夢の手首に指を当てたまま動かない。
一定ではない。
まだ、弱い。
だが確かに打っている。
トク……
……トク……
飛彩が小さく言う。
「搬送する。ICUだ」
怒鳴らない。
焦らない。
ただ、静かな決意。
永夢のまぶたが、もう一度わずかに震える。
「……ひ、い……ろ……さん……」
ほとんど息だけの声。
飛彩が顔を近づける。
「喋るな」
永夢は、ほんの少しだけ笑う。
本当に、かすかに。
「……だい、じょうぶ……」
全然大丈夫じゃない。
それでも。
その言葉に、誰も反論しない。
遠くでサイレンが近づく。
赤色灯の光が、地面をかすめる。
貴利矢が空を見上げる。
「……クリア、か」
飛彩は答えない。
ただ、永夢の額に触れたまま。
パラドの声が、深い場所で響く。
「……良かったな、永夢」
永夢の意識は、また沈んでいく。
だが今度は、暗闇ではない。
ゆっくりと、穏やかな沈み方。
救急隊が駆け寄る。
ストレッチャーが広げられる。
飛彩は手を離す直前、ほんの一瞬だけ強く握る。
「次はない」
それが医者としての言葉か。
仲間としての言葉か。
もう分からない。
夕陽が完全に沈む。
夜が、静かに街を包む。
――END――