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青を照らす、幸せのマジック

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青を照らす、幸せのマジック

1 - 青を照らす、幸せのマジック

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2025年04月03日

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私は、いつでも「青」を選んでしまう。

悩みに悩んで買った筆箱も、毎日のように触るスマホケースも、よくよく見れば全部青色だ。でも、これらを買ったなにか特別な理由とかはない気がする。ただ、好きだからとか、その時の気分に合ってたからとか、そんな単純な感じで買ったんだろうな。


「彩って持ってるものだいたい青系の色してるよね」

「そうなんだよね〜、特に青に揃えたいって意識してる訳でもないんだけど〜…」

いや、本当に意識はしてないんだよね。

「無意識に青を選んでるってこと?」

「そうなるよね」

「取り憑かれてんじゃん」

「まぁ実際青好きだから、それが理由だと思うんだけどね。好きなものって無意識に集中しちゃわない?」

「うーむ、例えば、好きな人がいたらすぐに目で追っちゃうとかそーゆーことかな?」

心の中で、私は理解できない悲しさを感じた。本当は分かってるのに知ってるのに

「ま、まぁ例えとしてはそうなんじゃないかな?私はわかんないけどさ」

「え〜!!彩、好きな人いたりしないの!?この前だって靴箱にラブレター入ってたじゃん!!」

「気持ちは嬉しいんだけどね…」

そう、私は誰かと付き合ったりするのが苦手になったのだ

小学生の時だって2回くらい告白された。その時は付き合うなんてこともよく分からなくて、ただ自分のことを気に入ってくれてるのが嬉しかったからなんとなくでOKしてたけど、正直自分の好きじゃない人と常に繋がってるのってなんか居心地悪いし、何より、私なんかと繋がってて幸せにできてるのかな、なんて責任を勝手に感じ始めちゃったんだ。だから私は、「付き合う」ということも、自分が恋愛感情を抱くことももうやめたんだ。


もう、あんな恋なんて失恋ごっこなんてしたくないから。


昼過ぎの爽やかな青空の下、私と咲希は広場でお弁当を食べていた。3月らしい涼しげな風が、咲希の髪を少しばかり揺らした。

「はぁ〜、やっぱり青空っていいねぇ」

「そうだね、なんか心もすっきりする」

「でしょでしょ!?昨日のお昼は雨降っててここで過ごせなかったもんね〜」

「やっぱりこの時期って天気不安定だからね」

「でもね、私、この青空もいいけど、放課後に見れるピンク色の空もいいよね〜、なんかこう…そう、空なのに空じゃないみたいなさ!!」

「わかるわかる、なんかゆめかわ?だよね」

「そう!!それが的確!!」

私は地下鉄で家に帰っている時間帯だから、あまりその空は見たことがない。そっか、咲希は居残りしてるから、その空が窓から見えるんだね。

その空を、咲希はよく見てて、私は見てない。

「あの空に名前つけたいくらい!!」

「んー、いつも青い空がピンクになるって不思議だから、マジックとかどう?」

「おぉ、いいね!!じゃあ、私はその空を見た時、幸せな気持ちになれるから、『幸せのマジックアワー』とかどうかな!?」

「アワーって、どっから来たのよ」

「あの空、1時間くらいしか見れないんだ!!だから、1時間の魔法、ってこと!!」

「へえ、センスいいじゃん」

「私はいつでもセンスいいもーん!!」

なるほどね、「幸せのマジックアワー」、か。もう一度、見てみたい。


「えぇ、居残りですか!?」

「ええ、私、今日の放課後に臨時 の職員会議があってさ〜!学級委員の田中さんなら、戸締まりとか任せられると思って」

そんな言い方されたら断れないじゃん…

「はい、わ、わかりました…」

「助かる〜、じゃあよろしくね♪」

居残りっていっても、私特にやることないんだよね、まぁ咲希と適当に喋って時間潰せばいいか。


「…じゃあ特に連絡することもないから、終わろうか。はい、じゃあ号令」

「起立」

ガタガタガタガタガタ

「礼」

「ありがとうございました〜」

あ、そういえば居残りすること、咲希に伝えておこうかな

「咲希〜」

「ん?どうしたの彩」

「私実は今日居残りするんだ」

「え!?残念だなぁ、…私、今日から体験入塾で3日間居残りできないんだ」

え、嘘

「だから、ちょっと早めに帰るね!!彩、また明日〜!!」

え、じゃあ本当に私2時間暇なだけ?

クラスメイトがどんどん帰っていく中、居残りをしそうなのはあの教卓の目の前の男子だけ。前同じクラスならまだしも、今まで話したことのない人と2時間。気まずすぎる…


咲希が教室を出てから話す相手もいない。ましてや一切知らない男子と同じ教室にいるんだ。あぁ、咲希と話したいな。

ふと教室の窓を覗くと、あのピンクに近い紫色の空が広がっていた。あんなに濃い青だった空が、こんな紫になるなんて、やっぱり不思議。

窓を見ながらそんな事を考えていると、あの男子から声をかけられた。

「ねぇねぇ、君って前どこのクラスだったの?」

「…え、よ、4組ですけど…」

「あ、そうなんだ!!もしかして、ユウがいたクラス?」

「知ってるんですか?伊藤のこと」

「うん!!ユウとは部活同じだからさ」

「へ、へぇ…」

「えーっと君の名前は…田中 彩、さん?いい名前だね!!俺は渡辺 透(わたなべ とおる)。呼び方はなんでもいいよ!!」

「あっ…よ、よろしくお願いします…」

「ねぇねぇ飽きないの?2時間も誰とも話さずにさぁ」

「え、あ、飽きない…というか、つまんないなーとは思いますけど」

「そうだよね!?なな、仲良くなってくんない?俺と」

「え?い、いや私なんて」

「このクラスに来た時から可愛いと思ってたの!!だから話してみたくってさ」

「…!!」

少し空いていた窓からふっと風がやってきて、少し熱くなった頬を冷やした。

「あ、ありがとう…ございます…」

「…って、俺、急になんてこと言い出すんだよ!!バッカじゃねーの本当!!と、とりあえずよろしくな!!田中!!」

「うん…」

久しぶりだ。こんな甘酸っぱい感情に浸るのなんて。この青くてどこか寂しい心にピンク色の光が灯ったような、心地よい感じ。でもなぜかこれに懐かしさを感じて、私はマスクの下で自分でもわかるくらいにっこりしていた。

空はもうすっかり、咲希が言ってた「幸せのマジックアワー」になっていた。

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