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第9話「痕跡」
その日は、朝から少しだけ調子が悪かった。
頭が重い。
視界が、少しだけ揺れる。
(……だめかも)
授業の途中で、保健室に行くことにした。
ベッドに横になる。
白いカーテン。
静かな空間。
保健室の先生の声も、遠くに聞こえる。
(少しだけ、寝よう)
目を閉じる。
意識が、ゆっくりと沈んでいく。
どれくらい経ったのか分からない。
ぼんやりとした中で、何かを感じた。
誰かが、来たような気がした。
足音。
それとも、気配だけ。
はっきりとは分からない。
でも。
近くに、誰かがいる気がした。
(……)
目は開けられない。
ただ、そのまま意識が途切れる。
ふと、目が覚める。
カーテン越しの光。
さっきより、少しだけ時間が経っていた。
体を起こす。
そのとき。
ふわり、と。
あの香り。
甘くて、少しだけ冷たい。
スノードロップの香り。
ゆかりは、ゆっくりと視線を落とす。
枕元。
小さなものが置かれていた。
苺味の飴。
見覚えのある、包み。
(……先生)
声には出さない。
でも、確信していた。
見ていないのに。
誰もいなかったはずなのに。
なぜか、分かる。
ゆかりは、その飴を手に取る。
少しだけ、温かかった。
(第9話 終)
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