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第5話:記録に残らない戦い
午前3時、東京湾の風が吹き荒れるなか、シスケープ第7ビルはひっそりと光を落としていた。
最上階のフロアで、ただひとつだけ明かりが灯っている――ユーヤの席だ。
黒パーカーの上に、着崩した社員用のグレーシャツ。
髪は乱れ気味、瞳は冷静に端末のログを読み続けていた。
モニターには一通の社内チケット。
【報告:TEST_SERVER-βにてマップ挙動の“ログ外分岐”を確認】
公式実装外の構造変化あり
検出元:自動バグチェックAI
ユーヤは一言も発せず、デバッグ権限付きの仮想空間へのアクセスを開始した。
【DEEP ZONE:TEST_SERVER-β】
ログイン先は“正式実装前”の戦闘空間。
本来、エンジニアとAIデバッガしか入らない、非公開の仮想ステージだ。
彼のアバター――system_0の姿は変わらず、全身を黒で包んだ簡素なユニット型装備。
一切のエフェクトがオフになった状態でも、彼の動きには一切のムダがない。
だが、出迎えた風景は――見慣れたマップの**“影”**だった。
建物の配置が微妙にズレ、壁のテクスチャが不自然に歪む。
天井には見えない何かの存在を示す“心音のようなノイズ”が断続的に響く。
> 「これは……意図的に、崩してある」
【戦闘:AIログブレイク個体との遭遇】
突如現れた敵は、通常の対戦AIとは異なる挙動をしていた。
逃げず、喋らず、ただ“system_0”に向かって全力で突進してくる。
ユーヤは瞬時に起動時間差スモークを発動。
視界を遮りつつ、スライディングでAIの背後へ回り込み、
二刀型のフォールダーナイフで、1手目を切り返し、2手目で反射防御を崩す。
光の閃きと同時に、AIが霧のように消えた――
だが、ログには何も記録されていなかった。
「……記録に、残らない戦い。仕様の外、じゃない。“意図”の外。」
【COKOLO:反応の兆し】
同時刻、COKOLOの一部ユーザーが謎の“ざわつき”を感じていた。
「なんか今、一瞬……COKOLOの空気、変じゃなかった?」
「感情エフェクト、強くなってた気がする……」
誰も知らないうちに、“見えない戦い”が空間のどこかで波紋を起こしていた。
【現実:シスケープ開発部】
朝7時。ユーヤは誰よりも早く席に戻り、
社内ログに**「該当記録なし」**と表示されたままのセクションを見つめていた。
そして一言。
「記録できないなら、俺が記録する。」
彼は自分用のローカルファイルに、こう記した。
【Tag:外部ログ外挙動】 【予兆:感情構造の逆流】 【仮説:NEO-Vは、共鳴している】