なんで頭に綿の木が生えたんだ?
まあ、メイン(綿の精霊たちの女王)が俺の頭に植えたからなんだけど……。
「というか、成長早くないか? さっき植えたばかりなのにもう花が咲いてるぞ?」
「それはご主人の血がおいしいからだよ」
「え? 血に味ってあるの? 俺、あんまり分からないんだけど」
ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)は俺の頭に生えている綿の木を見ながら、腕を組んだ。
「味というか、綿の木が成長するのに必要な養分が多いと急成長することがあるんだよ」
「へえ、そうなのか。えっと、樹木子《じゅぼっこ》になる可能性はないんだよな?」
「え?」
その「え?」はその妖怪を知らない意のものか?
それとも別の……。
「ミサキ。ナオトはこの木が妖怪にならないのか不安なのよ。そこんとこどうなの?」
「あー、そういうことか。まあ、その可能性はないと思うよ。この世界の植物はとりあえず養分になりそうなものしか吸収しないし、結構グルメだから」
植物なのにグルメなのか。
「えっと、つまり俺の血に依存することはないんだな?」
「うーん、どうだろうねー。あんまり前例がないからねー」
そりゃそうだろ。こんな拷問、誰がやるんだよ。
「お兄ちゃん、そろそろ収穫できるよ。少し屈《かが》んで」
「え? もう? 成長速度、半端ないな」
ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)が少し屈むと、メインは彼の頭に生えている綿の木にある綿を収穫した。
「うーん……」
「え? ちょ、なんで品質チェックみたいなことしてるんだ? もしかして出荷するのか?」
「しないよ。まあ、挨拶《あいさつ》みたいなものだよ。私は一応、綿の精霊たちの女王だから」
そ、そうなのか。
でも、なんか体の一部をじっくり見られているみたいで恥ずかしいな。
「あー、これはダメだね。色を誤魔化してるよ」
「え? そうなのか?」
彼女が綿を潰《つぶ》すと綿の中から真っ赤な液体が出てきた。
「えっと、それはもしかして……」
「多分、お兄ちゃんの血だね」
「ホントにー? ちょっとそれ貸して」
「いいよー。はい、どうぞ」
「ありがとう。それじゃあ、失礼して……」
あっ、舐めた。
ミノリ(吸血鬼)はうんうんと頷《うなず》きながら俺の血(?)を飲んだ。
「あー、これは間違いなくナオトの血ね」
「そ、そうなのか。えっと、ちなみにそれを植えたらどうなるんだ?」
「うーん、多分だけど……いずれ綿じゃなくてお兄ちゃんの血を作るようになると思うよ」
「あ、あのー、メインさん。あなたはいったい何を言っているのですか?」
メインは指に少しついている俺の血を舐める。
「別におかしなことは言ってないよ。まあ、本当にそうなるのかどうかは植えてみないと分からないけどね」
「あー、じゃあ、植えない方向でお願いします」
「分かった。綿の木よ、この者から今すぐ離れなさい」
「やだ」
は? なんか今、声が聞こえたような。
「そうですか。では、せめてこの者の邪魔にならないように小さくなりなさい」
「はーい」
その後、綿の木はどこにあるのか分からなくなるくらい小さくなった。
「えっと、なんか今、声が聞こえたような……」
「気のせいだよ」
「いや、でも……」
「気のせいだよ」
か、顔が近い。
これ以上、詮索するなってことか。
「そ、そうだよなー。気のせいだよなー。あはははは」
その後、俺たちは綿の木にある綿をとにかくたくさん収穫した。
ふぅ……これでようやく服の生地を作ることができるな。
良かった、良かった。
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