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戦場から逃げ出し、捕らえられたユリスとアマリス。
二人は厳重に拘束された上でデュッセルに差し出された。
「……ユリス。申し開きがあるならば聞くが」
デュッセルの剣呑な視線を受けたユリス。
彼は縋るように弁解した。
「あ、兄上! ご無事で何よりです! 俺は、その……知らなかったのです! ゲリセンが山賊団を雇っていて、兄上や聖下に反旗を翻すなど……」
「なるほど。お前は山賊団については知らなかったと。では、失政に次いで王都から逃げたことはどう説明する?」
「それは……」
たしかにユリスはゲリセンの計画を知らなかった。
だが、王都から逃げ出したことは紛れもない事実。
今回の大騒動の原因はユリスの怠慢にある。
「それは、アマリスのせいです!」
「……は? ユリス殿下、何を言ってるの?」
「アマリスはゲリセンが山賊団を有していることを知っていました! それに、ウンターガング家に逃亡することを提案したのも彼女です! 婚約者であるアマリスの頼みを、俺が断れるでしょうか? 俺は誘導され、利用されていたに違いありません!」
「あ、あんた……私に全部責任を押しつけるつもり!?」
デュッセルは呆れた。
隣に立つフェアリュクトもこれはダメだと首を振る。
いかにもな責任転嫁だ。
今回の一件はどちらにも罪がある。
それを自覚できていない時点で、情状酌量の余地はないだろう。
「こんなことになるなら、シャンフレックとの婚約を白紙にしなければよかったんだ。アマリスは政務もできないし、こんな事態を起こすし……」
「一生愛してくれるって約束したでしょう? 真実の愛はどうしたの!?」
「真実の愛ってなんなんだ? 俺は疑問に思えてきた」
そもそも、アマリスは自分を愛していたのか。
今更ながらユリスはそんな疑問を覚えた。
「兄上。シャンフレックと婚約を戻すことはできませんか?」
「おい、貴様。それ以上馬鹿げたことを言うなら斬るぞ」
鬼気迫る様子のフェアリュクトを何とか宥めるデュッセル。
今にも剣を抜いてユリスを斬り殺しそうだった。
「悪いが、シャンフレック嬢は……ああ。新たに愛する人を見つけたのを知っているだろう?」
「教皇聖下、ですか……」
「そうだ。そもそも、自分を誘拐した者を婚約者にしたいなどと……シャンフレック嬢が思うわけないだろう。もう少し常識を覚えるんだな」
弟に常識がないことは知っていた。
だが、ここまで度が過ぎるとは。
デュッセルは頭を抱えた。
「ユリス。王族として、周囲に利用されないように振る舞うのが正しき姿ではないか?」
「反省はしています……以後、気をつけて……」
「以後はない。処分は父上と話し合って決めるが、廃嫡が濃厚だろう」
「はっ……? 廃嫡、ですか?」
すなわち、王位継承権を失うということ。
そして王族としての扱いも受けない。
デュッセルの重い言葉に、ユリスは絶句した。
自分はただ……ちょっとしたことで逃げただけ。
まさか戦争が起こるなんて思っていなかったし、結果として廃嫡されるなんて考えすらしなかった。
「廃嫡って……ユリス殿下は王族じゃなくなるってこと!? じゃあ近づいた意味がないじゃない!」
アマリスもまた喚き散らす。
男爵家の令嬢であるアマリスは、父から積極的に上流貴族に接近するよう言われていた。
ユリスに近づいたのも自分と家のためだったのに。
「アマリス嬢、君も他人事ではない。ゲリセンの告解によると、今回の一件は君の実家も噛んでいるそうだな。君の家の爵位も剥奪だ。これは間違いない」
「そ、そんな……どうにかお考え直しを! デュッセル殿下、私はあなたに尽くします! 当家も全力でデュッセル殿下を支援することを約束しましょう!」
ユリスからあっさりと鞍替えし、デュッセルに媚びるアマリス。
顔色を蒼白にしたユリスは信じられないものを見るような目で、隣のアマリスを見ていた。
「フッ……わざわざ不穏の芽を引き入れるつもりはない。私は信ある者だけを傍に置く。悪いが、君の家は全力で潰させてもらうとも」
有無を言わさぬデュッセルの気迫。
アマリスは黙り込んだ。
これは説得できない相手だと。
「そして、ユリス。王族としてではなく……兄として言いたいことがある」
「…………」
デュッセルは立ち上がり、床に座らされたユリスと目を合わせる。
視線を逸らさずに諭すように言い放つ。
「お前は、人として成長しなさい」
ただ一言だけ告げて、デュッセルはその場を去った。