返信は私が下駄箱に着くまでにあった。
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今外だから、学校のある駅までいくよ。
改札前で待ってて
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『了解!』と指を動かし、私は日差しの照り付ける通学路を歩く。
真夏の真昼。
気温は35度ほどあるだろうか。
ハンドタオルで汗を押さえつつ駅に向かえば、すでに拓海くんは到着していた。
丸い柱にもたれて、スマホをいじっている。
「わ、拓海くん早い!」
慌てて駆け寄ると、拓海くんは笑って顔をあげた。
「お疲れ、澪。
あっちーな。
大阪も暑いけど、こっちもなかなかだな」
「ごめんね、待たせて」
「あのさ、今テキトーにネットで昼飯食べる店調べたんだけど、そこ行っていい?」
「うん、もちろんだよ!」
二つ返事で頷き、私たちは東京方面の電車に乗った。
拓海くんが連れて行ってくれたのは、店の前に黒板がある、レンガ造りのおしゃれなカフェだった。
「こんな店入ったことないんだけど、澪が好きそーだなと思って」
ドアを引きながら、拓海くんはちょっと照れくさそうに言う。
拓海くんはラーメンとか、焼肉とか男子らしい食事が好きだから、今まで一緒に行くならそういった店ばかりだった。
「私もこんなお店入ったことないよー。
なんか緊張するね!」
そう言って笑いながら、私たちはクーラーのよく効いた壁際の席に座った。
「……拓海くんがそんなの食べてるところ、初めて見るかも」
私はアイスティーを片手に、笑いをかみ殺す。
向かいの拓海くんは、アボガドとエビのクラブハウスサンドをかじりながら、じろりとこちらを見やった。
「……んだよ。
澪がこれにするから、俺もそうしただけじゃん」
「そうだけど、てっきりカツサンドにするのかと思った」
「言うなよ。
そうすればよかったって、注文した時から後悔してんだから」
その言葉に、堪えていた笑いが吹き出した。
やっぱり拓海くんとの時間は楽しい。
拓海くんのお兄さん、良哉くんも揃えば、私たちはずっとくだらない話ばかりだ。
「そういえば、良哉くんは夏休み帰ってくるのかなー」
「さー、適当に帰ってくるんじゃねーの?
……って、今帰って来られても、兄貴の寝る場所ねーけどな」
私は苦笑した。
たしかに書斎じゃ、大きな男の人ふたりが寝るには狭すぎる。
「あぁ、それで思い出した。
あいつに今朝言われたんだけど、今日は遅くなるから掃除はいいって」
「あぁ、わかった」
あいつというのはレイのことだ。
今日は夕飯もいらないみたいだし、どこか遠くまで出かけているのかもしれない。
(……いつも、どこに行ってるんだろ)
レイのことを考えていると、ふいに言葉を切った拓海くんは、少し迷ったような目をした。
それから、声音を落として言う。
「……なぁ澪。
澪はあいつのこと、かっこいいとか思わねーの?」
「え?」
アイスティーを飲もうとしていた私は、驚いてグラスへ伸ばした手を止めた。
「いや、なんつーかさ……。
言いたくねーけど、あいつすげー見た目いいし、ふつうの女なら惚れそうだしさ。澪はどう思ってんのかと思って」
内心ドキッとした。
そんなことを聞かれると思わなかったし、へんな動悸が襲う。
拓海くんが色恋に興味を示したのを見たことがないのに、急にどうしたんだろう。
まさか……私がなんとなくレイが気になっていることを、見透かされているんだろうか。
「……レイのこと、かっこいい人だとは思うよ。
けど、だれでもそう思うんじゃないかな」
探るような眼差しを受け、私は無難な返事をした。
すると拓海くんは、「そうなんだけどさ」と歯切れの悪い相槌を打ち、黙り込んでしまう。
(えぇ、ほんとにどうしたんだろ……)
なんだかわからないけど、不安になってきた。
どうしてそんなことを聞くのかわからないけど、私だってレイへの感情は整理がつかないのに、これ以上聞かれてもうまく答えられない。
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