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「ミナトはよ、天才だよ。人殺しの」

オッサンはそう始めた。

「この世界には、『罪』を背負った奴が落ちてくる。それは分かるな」

俺は頷いた。

「俺はここに来て、もう何年かな・・・数えてないから分からんが、全部の指合わせても足りない位の年数はいるだろうな」

軽く20年以上って所か。

「沢山見てきた。ここに来るのは大概同じような奴だ」

「・・・殺人経験者?」

俺は聞いた。俺の『罪』も、殺人になるのだろうか。そんなつもりは全く無かったのだが。

「まあ、何人か殺した奴が多いが、そこじゃ無い。『罪』を犯したという自覚の無い奴。皆自分の所為だとは思って無い奴らさ」

「・・・耳が痛いな・・・」

俺の呟きにオッサンは笑う。

「そう思うって事はよ、お前は『クリア』が近いよ」

「・・・クリア?」

「そうだ。クリアだ。償いの完了とはまた別にあるんだよ。誰にも知らされてないヤツが。それが終わらないで償い終了になるとな、もう一度この世界に戻される。何度も何度も。戻る時はここでの記憶が消えてる。だから誰も気付かない。何十年も長居する俺みたいな奴以外はな」

「・・・何が、必要なんだ?」

俺は聞いた。聞くのが怖いと思うが、聞かずに済ませる事は出来ない。

「自分が犯した『罪』を、正しく受け止める。そんな所だ」

それを、やらせているというのか?裁判所のような事を、この世界は。他人を殺させる事によって。

「自分と関係ない人間を殺す。それを何度も何度もやらされるとよ、例えやっつけ仕事と考えていても、段々その行為に『意味』を考える様になってくるもんだ。同じ作業の繰返しに、頭に嫌気が差してくんのかもな。素直に殺させる奴、抵抗する奴、条件つけてくる奴。色々いるだろ?モノにしか思って無かった対象の事が、一人一人の個に見えてくる。人間に見えてくる」

そうなっていくものなのだろうか・・・。

「給与を得る為に、償う為に、殺人という『罪』を重ねて、前の世界で犯した、過去の『罪』を思い出して来る。続ける事が苦しくなる」

「・・・」

俺は思い出していたのでは無かったか・・・。カナデを見続ける中で、条件付きの償いを行う中で、過去の『罪』を。太った女の事を。

「自身の『罪』を自覚して、苦しみを覚えて殺せなくなったらクリアだ。事務員が迎えに来る」

「・・・そう、なのか・・・」

おかしな世界だ。殺しても誰にも捕まらない。それどころか給与が貰える。それに違和感を覚えたのは最初だけ。すぐに慣れた。感覚の麻痺。それが『当たり前』で『みんなやっている』から。

だけど、ジェイに会って変な条件を出されて、カナデに会って共に過ごすようになってからは、考え方が変わってきた。ジェイの無理心中と、カナデの償い拒否。俺の中に疑問が湧いた。

「奴等は、人間の魂を『正しい方向』に向かうよう軌道修正してるのかも知れないな。なぁお前、俺はよ」

オッサンは俺の目を見た。

「俺は、ミナトに殺られて消えたら、多分クリアだ。だがな、ミナトとジェイは、クリアにはならないだろう」

「・・・」

そう、かも知れない。

「ミナトは、親に虐待されてたんだ。挙句捨てられたクセに、未だに親を求めてる。親の為に罪を犯した。自分と親以外は人間に見えてねー。だから何人でも殺せる。罪悪感も何もねー」

そうだったのか。本人から聞いていないからなんとも言えないが。だが、自分でも親でもない、ジェイに対してだけは、違う感情があったように思える。

「多分ジェイって奴も同じだ。前の世界であったイザコザで、自分と大事な人だけが特別、他の人間はどうでも構わねーって人種だ。二人は似てるんだろうな」

条件付き償いに呼ばれた時のことを考える。ジェイの、カナデを想っての発言の数々。特別な相手に対する表情。

「似た者同士、気が合って仲良くやる分には問題無いがな、この世界では危険だ。名前まで一緒ときたら、間違いなく狙われてる」

「狙われる?何に?」

「事務員やら病院関係やら、そいつらの上の奴」

『文字合わせは我等の本能ですので』

さっきの事務員の言葉が頭に浮かんだ。

『今条件付きの償いが一件発生しました。長期的な条件になりそうですが、良ければ如何でしょう?』

いつかの事務員が勧めてきたジェイの条件付きの償い。

『俺に行けそう?』

と聞いた俺に

『・・・コウさんなら』

と、言った言葉の意味・・・。

「オッサン、カナデの、いやミナトの恩師なんだろ?」

俺は聞いた。

「ああ、そうだ。アイツに全ての技を教えた」

「ミナトの為に、自分の命を差し出す程に、ミナトが大事なのか?」

「・・・そうだな。大事だな。この辺鄙な世界で一番大事だ」

「ミナトを、助けたい。狙われてるならそいつから。俺に出来るのなら」

オッサンは片方の眉を上げて俺を見た。品定めのような視線。

「俺は、俺の名前はコウだ。みなとと書いて『港』コウだ」

俺の言葉に、オッサンは笑った。

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