TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「ミナトはよ、天才だよ。人殺しの」

オッサンはそう始めた。

「この世界には、『罪』を背負った奴が落ちてくる。それは分かるな」

俺は頷いた。

「俺はここに来て、もう何年かな・・・数えてないから分からんが、全部の指合わせても足りない位の年数はいるだろうな」

軽く20年以上って所か。

「沢山見てきた。ここに来るのは大概同じような奴だ」

「・・・殺人経験者?」

俺は聞いた。俺の『罪』も、殺人になるのだろうか。そんなつもりは全く無かったのだが。

「まあ、何人か殺した奴が多いが、そこじゃ無い。『罪』を犯したという自覚の無い奴。皆自分の所為だとは思って無い奴らさ」

「・・・耳が痛いな・・・」

俺の呟きにオッサンは笑う。

「そう思うって事はよ、お前は『クリア』が近いよ」

「・・・クリア?」

「そうだ。クリアだ。償いの完了とはまた別にあるんだよ。誰にも知らされてないヤツが。それが終わらないで償い終了になるとな、もう一度この世界に戻される。何度も何度も。戻る時はここでの記憶が消えてる。だから誰も気付かない。何十年も長居する俺みたいな奴以外はな」

「・・・何が、必要なんだ?」

俺は聞いた。聞くのが怖いと思うが、聞かずに済ませる事は出来ない。

「自分が犯した『罪』を、正しく受け止める。そんな所だ」

それを、やらせているというのか?裁判所のような事を、この世界は。他人を殺させる事によって。

「自分と関係ない人間を殺す。それを何度も何度もやらされるとよ、例えやっつけ仕事と考えていても、段々その行為に『意味』を考える様になってくるもんだ。同じ作業の繰返しに、頭に嫌気が差してくんのかもな。素直に殺させる奴、抵抗する奴、条件つけてくる奴。色々いるだろ?モノにしか思って無かった対象の事が、一人一人の個に見えてくる。人間に見えてくる」

そうなっていくものなのだろうか・・・。

「給与を得る為に、償う為に、殺人という『罪』を重ねて、前の世界で犯した、過去の『罪』を思い出して来る。続ける事が苦しくなる」

「・・・」

俺は思い出していたのでは無かったか・・・。カナデを見続ける中で、条件付きの償いを行う中で、過去の『罪』を。太った女の事を。

「自身の『罪』を自覚して、苦しみを覚えて殺せなくなったらクリアだ。事務員が迎えに来る」

「・・・そう、なのか・・・」

おかしな世界だ。殺しても誰にも捕まらない。それどころか給与が貰える。それに違和感を覚えたのは最初だけ。すぐに慣れた。感覚の麻痺。それが『当たり前』で『みんなやっている』から。

だけど、ジェイに会って変な条件を出されて、カナデに会って共に過ごすようになってからは、考え方が変わってきた。ジェイの無理心中と、カナデの償い拒否。俺の中に疑問が湧いた。

「奴等は、人間の魂を『正しい方向』に向かうよう軌道修正してるのかも知れないな。なぁお前、俺はよ」

オッサンは俺の目を見た。

「俺は、ミナトに殺られて消えたら、多分クリアだ。だがな、ミナトとジェイは、クリアにはならないだろう」

「・・・」

そう、かも知れない。

「ミナトは、親に虐待されてたんだ。挙句捨てられたクセに、未だに親を求めてる。親の為に罪を犯した。自分と親以外は人間に見えてねー。だから何人でも殺せる。罪悪感も何もねー」

そうだったのか。本人から聞いていないからなんとも言えないが。だが、自分でも親でもない、ジェイに対してだけは、違う感情があったように思える。

「多分ジェイって奴も同じだ。前の世界であったイザコザで、自分と大事な人だけが特別、他の人間はどうでも構わねーって人種だ。二人は似てるんだろうな」

条件付き償いに呼ばれた時のことを考える。ジェイの、カナデを想っての発言の数々。特別な相手に対する表情。

「似た者同士、気が合って仲良くやる分には問題無いがな、この世界では危険だ。名前まで一緒ときたら、間違いなく狙われてる」

「狙われる?何に?」

「事務員やら病院関係やら、そいつらの上の奴」

『文字合わせは我等の本能ですので』

さっきの事務員の言葉が頭に浮かんだ。

『今条件付きの償いが一件発生しました。長期的な条件になりそうですが、良ければ如何でしょう?』

いつかの事務員が勧めてきたジェイの条件付きの償い。

『俺に行けそう?』

と聞いた俺に

『・・・コウさんなら』

と、言った言葉の意味・・・。

「オッサン、カナデの、いやミナトの恩師なんだろ?」

俺は聞いた。

「ああ、そうだ。アイツに全ての技を教えた」

「ミナトの為に、自分の命を差し出す程に、ミナトが大事なのか?」

「・・・そうだな。大事だな。この辺鄙な世界で一番大事だ」

「ミナトを、助けたい。狙われてるならそいつから。俺に出来るのなら」

オッサンは片方の眉を上げて俺を見た。品定めのような視線。

「俺は、俺の名前はコウだ。みなとと書いて『港』コウだ」

俺の言葉に、オッサンは笑った。

loading

この作品はいかがでしたか?

25

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚