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折原俊一の冷酷で天才的な一面。その裏には、彼がかつて「唯一無二」と信じていた親友を自らの手で葬るという、心を引き裂くような過去が隠されている。その事件は、彼の人格と思想を決定的に変えた瞬間でもあった。
折原俊一が高校生だった頃、彼にはただ一人心を許せる存在がいた。それが、大和悠斗だった。
悠斗は折原と対照的に、穏やかで社交的な性格を持つ少年だった。頭能は折原に及ばないものの、人間関係を重視し、周囲から愛されていた。
「お前、天才なんだから肩の力抜けよ」と、折原の孤高の態度を笑い飛ばす唯一の人物だった。
学校の屋上で語り合い、折原の難解な数式を悠斗が冗談交じりにからかう日々。折原も悠斗の熱心な説得で、初めて自分の才能を他人と共有しようと考えるようになった。
折原の言葉:「お前はくだらない奴だが、俺の数式を唯一理解できそうな“凡人”だ。」
悠斗の返事:「褒めてるんだか、けなしてるんだかわかんねぇよ!」
折原が高校卒業間近に発表した「恐怖の数理モデル」は、悠斗との友情に亀裂を入れる引き金となった。
折原は、恐怖を定量的に測定するため、被験者を精神的に追い詰める実験を構想していた。
被験者に恐怖映像を見せ続け、脳波を記録する。
最終段階では、生死を賭けた選択をさせることで「真の恐怖」を計測する。
悠斗はこれを聞いて、激怒する。
悠斗の言葉:「お前、人の命を何だと思ってるんだ!?研究じゃない、ただの拷問だ!」
折原の返事:「愚者にはわからないだろう。この研究が完成すれば、人間は恐怖を克服できるんだ!」
悠斗は「研究をやめなければ、止める」と宣言し、データを破壊しようとする。これに激怒した折原は、激しく殴り合いの喧嘩を繰り広げた。
最後に折原は悠斗にこう言い放つ。
「俺の邪魔をする奴は除する。お前も例外じゃない。」
喧嘩の翌日、悠斗が折原の研究所に侵入し、実験データを完全に削除しようとした。それを察知した折原は、悠斗を追い詰め、最終的に自らの手で彼を「葬る」ことになる。
折原は悠斗に薬物を投与し、彼を実験の最終被験者にしてしまった。
薬で恐怖を増幅された悠斗は、最終的に心停止に至る。その瞬間、折原は冷静な表情のまま呟いた。
「これで、恐怖の数理モデルは完成だ…」
悠斗が亡くなった後、折原は悠斗の言葉を思い出し続ける。「お前は天才なんだから、少しは肩の力を抜けよ…」
彼は親友を葬ったことで得た「究極の恐怖モデル」の完成に達成感を覚える一方、自分が心の中で何か大切なものを永遠に失ったことを悟った。
悠斗をきっかけに、折原は感情的なつながりを断ち切ることを選んだ。「恐怖」を分析し、支配することが自分の使命だと信じ込むようになった。
教義にある「恐怖を克服することで人は完全な存在となる」という思想は、悠斗への罪悪感から生まれたと言われている。
「彼は凡人だった」
折原が悠斗について語ることはない。しかし、親しい信者にだけこう語ることがあるという。
「あいつは凡人だった。でも、凡人の中では唯一俺を見ていた。」