朝の光が、薄いカーテン越しに部屋へ差し込む。
鳥の声が遠くから聞こえ、
屋敷の一日は静かに始まっていた。
イチが目を覚ますと、
すでに部屋の隅ではセリーヌが待っていた。
白い布を腕にかけ、
その隣にはメイドたちが数人、
布地や糸を整えている。
「おはよう、イチ。
今日はね、あなたのために新しい服を仕立てようと思って」
セリーヌの声は
いつものように穏やかで、
それでいて少し弾んでいた。
イチは布に視線を落とす。
淡い桃色、やさしい白、
そして落ち着いた藍色の布――
自分のために用意されたものだと気づくと、
胸の奥がくすぐったくなる。
「ほら、こっちに来て。サイズを測るから」
セリーヌが微笑んで手招きする。
イチはゆっくりと立ち上がり、
少し不安そうに近づいた。
メイドたちが手際よくメジャーを当て、
布を肩にかける。
「ん〜、もう少し袖は短いほうがいいかしら。
動きやすい方が好きでしょ?」
イチは小さくうなずいた。
その仕草を見たセリーヌが、
ふと嬉しそうに笑う。
「うふふ、やっぱり可愛いわ。
本当に……妹ができたみたい」
その言葉に、イチの目が少し大きくなる。
“妹”――
その響きが、どこか懐かしく胸に残った。
けれど、どう反応していいかわからず、
ただじっとセリーヌを見つめる。
セリーヌはそれを“照れている”と勘違いし、
優しく髪を撫でた。
「大丈夫。似合うようにしてあげるからね」
イチの髪の間を、指が静かにすり抜ける。
その瞬間、
イチの頬にほんのり色が差した。
――昼前、仮縫いが終わる頃。
セリーヌは出来上がった布を胸に当てて、
満足げに微笑んだ。
「ね、これを着たら庭を歩きましょう?
お日さまの下で、あなたがどんな色に見えるか知りたいの」
イチはその言葉の意味を完全には理解できないまま、
それでも小さくうなずいた。
窓の外では風が吹き、
陽射しの中でカーテンがやわらかく揺れた。
セリーヌはその様子を見ながら、
胸の奥でそっと呟いた。
――“この子を守っていけますように”。
イチは、
差し出された布の感触を指でなぞりながら、
心のどこかで
“あたたかい”という感覚を覚えた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!