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「――アルベド」
幼さが一気に消え、男性にしては長い髪が、一気に腰あたりまで伸びた。いや、はじめからその長さだったって言うのは、覚えているし、その紅蓮に、美しさにずっと前から惹かれていたから、本来の長さと、美しさを前にして、私は声が出なくなった。
いや、それだけが理由じゃないんだけど。
スッと、目を開いたときには少しつり上がった満月の瞳が私を捉える。
声も、飄々とした少年と青年の間の声じゃなくて、低いテノールボイスに変わった。
彼は、この魔法のために、どれだけの魔力を使ったのだろうか。
「悪い……騙してて、悪かった。エトワール」
「なんで」
「殴ってもいい。気が済むまで、罵倒しろ、殴れ。それで、お前に許して貰えるなら」
「アルベド」
「エトワール」
確かに私の名前を呼ぶ声も、彼のものだった。
頭が混乱してきて、倒れそうになって、私は後ずさりながら、アルベドから距離を取った。いや、本当に意味が分からない。
もう一度、自分の唇をなぞって、その温度を確かめつつ、アルベドを見る。彼は、何てこと無いように、でも、何処か不安げに私を見ている。
「いつから?」
「あ?」
「いつから、ラヴィと入れ替ってたのよ。全然気づかなかった……っていうか、なんで、入れ替る必要が……」
「俺が、エトワールの側にいたかったから」
「は?」
「って、いう理由じゃダメか?」
「いや、他にあるでしょ。てか、アンタ、敵なのか、味方なのか、未だに分かってないって言うか、ほんと、意味分かんない。アンタのせいで、色々滅茶苦茶よ」
「俺が、滅茶苦茶にしたみたいな言い方するなよ。でも、悪かったって思ってる。つか、バレたしな」
と、アルベドは、いやそうに、頭をかいていた。
いつものポニーテールじゃなくて、髪をほどいた状態だから、いっそうなまめかしいというか、まあ、うん、えっちに見える。
アルベドって、独特な色気があるから、それに、押されてしまいそうな所はあるんだよね、と、私は思わず距離を取ってしまう。それがバレて、アルベドに一気に距離をつめられてしまい、トンッと、木に背中をぶつける。逃げ場をなくして、私は、かれと向き合うしかなかった。
「バレたって……もしかして、グランツに?」
「そーだよ。彼奴、魔法無効化の力持ってんだろ?それのせいで、一発だ」
「あーだから、凄く警戒されてたの、納得」
「納得すんな」
と、アルベドに突っ込まれたが、その通りでしょ、と私は冷ややかな視線を送ってやった。
グランツが、ラヴァイン……アルベドの化けたラヴァインに対して冷たかったのは、はじめから、アルベドがラヴァインに化けているって気づいていたからなのだろう。さすが、魔法無力化の力を持っているだけある。
(でも、グランツは私に教えなかった)
いつもなら、彼奴、偽物です、何て言っていたところだけど、今回はそれをしなかった。きっと、理由があるンだろうけど、もう本人に直接聞くことは出来ないだろうし。
入れ替ったタイミングは、グランツが、ラヴァインのこと警戒し始めた時って、何となくあの頃かなあっていうのは、分かった。けれど、矢っ張り、入れ替る理由が分からない。さっきの言葉が嘘だとは思わないけれど、理由にしてはしょ……いや、嬉しいんだけどね。
(けど、そっか……アルベドだから)
安心できるところはあった。
でも、口調が、ラヴァインだから、イマイチ信頼に欠けるというか、信用に欠けるというか。でも、彼の、力は本物で、魔力も、バレないために、大サソリの時なんか一発で仕留めようとした。まあ、ラヴァインでも出来ただろうけれど、あれだけ魔力をぶっ放しても、大丈夫なのはさすがだと思う。まあ、細かく見たら、気づく要素はあったんだろうけど、本当に、そっくりそのまま口調までコピーしている感じだったから、すぐには気づけなかった。
それだけ、アルベドが、ラヴァインのことを理解しているって事にもなるんだろうけど。怖いなあ、兄弟。
(てか、じゃあ、ずっと私にかけられていた言葉って、本物?)
何処までが、虚言で本物かなんて見極められない。というか、ラヴァインだったらこう言っていた、という奴なのか、アルベドが言いたくて言っていた言葉を、ラヴァインの口調で言ったのかもよく分からない。
相変わらず、心の底まで見透かせない奴だなあ、って関心というか、恐怖さえ感じる。
何処までが、アルベドの言葉だったのか。それは、知りたいとも思うけど……
(教えてくれないだろうな……けど、私は、知りたい……かも)
アルベドが、色んな所で、私を励ましてくれて、その気持ちをラヴァインというフィルターを通していたとしても、かけてくれていたというのなら……って。
とまあ、色々本当に思うところはあるんだけど、一番の問題はそうじゃなくて。
「じゃあ、今、ラヴィは何処に?」
「彼奴か?彼奴は、俺になりすまして、エトワール・ヴィアラッテアの元にいるんじゃねえか」
「何でそんな適当なのよ。てか、ラヴィはアンタの大切な弟でしょうが。もし、バレて、危険な目に遭っていたら、どうするのよ」
「大切だから、信じてんだよ。彼奴がちゃんとやれるって」
「……」
「きょうだいってそういうもんだろ」
と、何だかさとされたようで、私は言い返す事が出来なかった。私が、トワイライトを信じていないかと言われたら、信じているって真っ直ぐ言えるくらいには。そういうのが、アルベドとラヴァインの間にはあるんだろうって。
歪だと思っていたから、そこまで、姉弟関係が修復されていたなんて思いもしなかった。本当にいつの間に……
「で、俺は、たまあに、ラヴァインから情報提供して貰ってるわけ。けど、まあ、エトワール・ヴィアラッテアは、単独で行動するらしくてな。俺も、彼奴の元にいたとき、何だこの我儘はって思った。酷えよ、彼奴」
「……そう」
「誰も信じていねえし、そのくせ、愛されたい、支配したいっていう思いだけが強い。そんなの、誰にも愛されないのにな」
そう、アルベドは吐き捨てると、ため息をついた。
アルベドから見ても、そう思うなら、もうエトワール・ヴィアラッテアは相当な悪女というか、救いようのない存在なのだろう。
誰も信じていないのに、愛されたいって矛盾しすぎている。誰も信じていないのに、そもそも、愛することすら出来ないんじゃ無いかと。
我儘だ、自分勝手だ。
そんな人に、私は私の周りの人を、皆に不幸をばらまかれたのかと。
「許せない……」
「そーだな。だから、『俺』がエトワールの、側にいようって思ったんだ」
「アルベド?」
「ラヴィじゃ、役不足っていったら、彼奴怒るから、言わねえけどさ」
「言ってるじゃん」
「いや、本人に……てか、別に彼奴でも良かった。俺は、ラヴァインのこと、一応、力あるものだっては思ってるからな」
「何それ」
「結局は、力が無いものは、何も守れねえってことだよ。自分の主張すら、強くないと、何も出来ねえって話」
「……」
「今回のことだってそうだろ」
全部一緒見てきて、体験したからこそ、アルベドは言っているんだと思う。
アルベドがそう言う世界で生きてきたからこそ、その言葉は重く刺さった。
きれい事じゃ何もならない。貫こうと思っても、正義だけじゃ役不足。叶わないことだってある……って、そう言っているような気がした。
分かってる、分かってた。きれい事で変わるなら皆救われているって。
ファウダーの時だって、きれい事で全てすまそうと……出来た話じゃなかったから。それは、痛感していたはずなのに。
「……じゃあ、暴力で解決するの?」
「それは、お前次第だよ。お前が、どうしたいか、エトワールの好きにすればいい、まあ、暫くのうちは、ずっとこんな感じだろうけどな」
「……確かに。巻き込みたくないなら、このままの方が良いかもしれない。自由に動けるって言うのも、良いかも」
「だろ?」
「でも、アンタを……いや、アンタなら巻き込んで良いかも」
「はっ、何だそれ」
そう、言葉で言いつつも、アルベドは何処か嬉しそうに口角を上げていた。
矢っ張り、アルベドだって思う。
私の相棒、唯一全て取っ払って信頼できる相手。
まあ、まだ、聞きたいことは山ほどあるけど、それは、その内聞くとして。今は、彼がずっと側で支えてくれたことに感謝の言葉を述べなくちゃなって思った。
本当に、どうかしてる。
「ありがとう、アルベド」
「礼なんていらねえし、俺がやりたくてやった事だから、気にすんなよ」
「でも……だよ。アンタに救われてる」
「……そうかよ」
「素直に、受け取ってくれれば良いのに。私の感謝を」
「受け取ってるっつ―の。ほんと、お前、俺だって分かった瞬間、くるっと手のひら返しやがって。俺じゃなかったら、どうすんだよ」
「それ以上、かわかぶってるわけじゃないでしょ?」
「どーだろな」
「私は、そう思ってる。アルベドだって」
「……」
「ありがと、元気づけてくれて。隣にいてくれて。私、嬉しい」
「……エトワールのためだからな」
そう言って、アルベドは、耳を真っ赤にして、口元を覆った。