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「――アンタって味方なのよね」
「いや、さっき、俺を信じるっつったばかりじゃねえのかよ。あ?疑ってんのか?」
「だって、だって!アンタのやってること、よく分かんないんだもん。敵に洗脳されているって思ったら、普通に話し掛けてくるし、かと思ったら敵みたいなムーブするし。分かんない。やってることが、理解できない」
「理解しろっつってないからな」
「でも!」
アルベドは念を押すように、理解しなくていいと言った。でも、大切な人のことだし理解したかった。でも、彼がこれまで取ってきた行動、災厄が過ぎ去ってから行動は、全く理解期で無いものだった。
本当に、操られていたのか、操られていたフリをしていたのか。それすらも。
フリをしていたとして、ドンアメリットがあったのかも、色々と聞きたいところだ。まあ、彼と二人きりになったわけだから、この際聞いてみるのも良いかもしれないけれど。教えてくれるかどうかは別として。
「ふーん、知りたいって顔してんな」
「してないわよ。アンタの勘違い」
「じゃあ、教えなくて良いのか?」
何て、アルベドはニヤニヤと笑いながら聞いてくる。分かっていて、言うのが、本当に意地悪で、趣味が悪いと思う。
私が、その場でぐぬぬと、唸っていれば、アルベドはパッと立ち上がった。
ほどけていた、髪を結び直し、紅蓮の髪が、夜風に当たって揺れる。その光景は美しくて、言葉を忘れるほどだった。
(本当に、髪だけ綺麗なのよね)
そんなこと言ったら、しばかれそうだから言わないけれど、リースの黄金とはまた違った美しさがあるなとは思っていた。まあ、ラヴァインの髪が、前よりもつやつやしていたのは、アルベドが変装魔法を使ったからだろう。そこまでは、忠実に再現できていなかったのかと、私は、今になって思ってしまった。
ラヴァインにはなりきれていたのに、髪色が、思えば若干違ったと、まあ、そこまで普通そこまでみないよねって思ったからかも知れないけど。
「教えてって、いったら教えてくれるの?」
「さあな」
「さあって、だから、そう言うところ、嫌い」
私が、嫌いと言えば、アルベドは、ヌッと近付いてきて、私の顔を覗き込んだ。あまりにも至近距離だから、喉に何かが詰まって息ができなくなる。
「ち、近い」
「顔真っ赤だな」
「アンタも、恥ずかしいってなった時、耳赤くなるじゃない」
「俺の事見すぎ」
と、アルベドは、フッと口角を上げて笑った。
見すぎなんて、分かりやすい反応をするからでしょ、と言いたくなったが、確かにアルベドの事はよく見てきたから分かるっていっちゃうかも知れない。
気になるから見てしまうし、目をひくから、つい目で追ってしまうって言うのが、正しいというか、これはいいわけだけど。
「見てるわよ」
「は?」
「だから、見てるって言ったの。アンタのことみてる、見てたって、認める」
「おい」
「おいって、何よ。ダメなの?見たら減るとか言うの?」
「いや、そうじゃなくて……お前って、そんなに、素直だったか」
「私が素直じゃないって言いたいの!?」
怒るなよ、と今度は私が詰め寄ると、アルベドは降参だというように両手を挙げた。素直だったか何て分からない。でも、アルベドに何を隠しても無駄だって分かっているし、私にはもう失うものがないからこそ、こうやってぶつかれるのかも知れない。
色々抱えすぎていたから、私は、本来の私を見失っていたのかも。
出来ないことを野郎として、抱えて、弾けて、また拾い直さないといけないって、そんな手間のかかることをしていたって、思ってしまっている。
「いや、なんつーか、エトワールって変わるよな。いや、悪い意味じゃねえんだけど。ほら、なんつーか」
「アンタ、言語能力低下したの?」
「はあ?んなわけねえだろうが。俺は……」
「ん?」
「何でもねえよ。気にすんな」
と、アルベドは、何かを隠すように、言葉を句切ってしまった。
エトワール・ヴィアラッテアの元にいたとき、何かがあったのかなあなんて思ったけれど、私は深く追求しなかった。何となく、アルベドの性格的に、それは聞かない方がいい気がしたから。アルベドの線引きも、何となく分かるようになってきた。だからこそ、私が取れる一番の方法をとって。
私達の間に静寂が流れる。
相手が、アルベドだって分かったから、私の中で話すハードルが下がったからこそ、起きた現象だと。
「……変わるよ、人は」
「エトワール」
「私は、もう、何もないから。そういう意味でも変わったけど、色んなことして、アンタが離れていた間も色々あったから。アンタの弟のことも知れたし、まあ、かといって、アンタ達の兄弟関係についてはさっぱりなんだけど。変わったよ。というか、変わるのを恐れなくなったのは、アンタがいたからよ」
変わるのは今でも怖いけど。変わらないと、打ち砕けないものもあるって分かっているから。
かといって、全て失っちゃったわけだけど。だからこそ、まあ、もうどうなっても大丈夫と言うか、捨てるものがないって言うのも、気楽かも知れないと思った。
私の言葉込められている思いを感じ取ったのか、アルベドは、先ほどの笑顔を、顔から消すと、グッと、唇を深く噛んでいた。跡になるから、しなければいいのに、と思いながら、彼を見る。
「力になれなくて、悪かったな」
「え?」
「まあ、こんなこと言ったところで、信じてもらえるかは分からねえけど。確かに、災厄の後、エトワールと再会したときは、意識が混濁していた。自分の意識と、もう一人のお前……って言い方は良くねえな。俺も、彼奴のこと、エトワール・ヴィアラッテアだと思ってねえし。まあ、そいつ。そいつに、操られていたかも知れねえって思ってる」
「アルベドが?」
「ラヴァインみたいな反応するなよ。俺を何だと思ってんだ」
「いや、アルベドは、強くて」
「ありがとな。でも、完璧じゃねえよ。つか、俺は、その前の戦いで、かなり消耗しちまったんだよ。ラヴァインに、ユニーク魔法まで使わされた」
と、アルベドは、何処か忌々しそうに言った。
そう言えば、混沌との決着の前、アルベドにラヴァインを任せていったわけだけど、あの後どうなったかは、ラヴァインにも、アルベドにも聞いていなかったなあと思った。でも、今の言葉にもあったように、ラヴァインも、アルベドのユニーク魔法が、何とか、何とか、とは言っていた気がする。やはり、攻略キャラは、ユニーク魔法を持っているのかと、システム的なアシストがついている、強キャラであることは変わりないと。本当に、このゲームが、乙女ゲームかと、疑いたくなるくらいの手の込みようだった。
「アンタの、ユニーク魔法って何よ」
「教えねえよ。教えたら、意味ねえだろ」
「なんで」
「切り札は取っておくものだろ?」
まあ、言われたらそうなんだけど。ここまで、はぐらかされると気になってしまう。
ラヴァインと戦った後、負傷というか、魔力が枯渇するほどのユニーク魔法ってかなり凄いものじゃないかと私は予想している。まあ、魔力を実際使ったかどうかは分からないし、追い詰められていたからこそ、洗脳されるほど弱ってしまったのかも知れないし。そこは分からないけれど。
(リースも、ラヴァインも教えてくれないし、分かってるのは、グランツだけ……)
もう、関わる事はないんだろうけど、グランツのユニーク魔法は、確かにバレてもって感じの魔法だし、そりゃ、歴史における、大層な魔法であることには変わりないと思う。というか、知っていたとしても、相手は対策しようがないわけだし。
「いつになったら、教えてくれるの」
「だから、教えねえって。まあ、その時が来たら、嫌でも分かるだろうしな」
「……危険な魔法じゃなきゃ良いけど」
「危険な魔法ねえ……」
「どうなのよ」
「ご想像にお任せるよ。俺は、何も言わねえ。まあ、俺からいわせて貰えば、使いたくない魔法ではあるって感じか」
と、アルベドは、ヒントをくれる。
もう、その言い方からして、あまりいい想像がつかないんだけど、と私は顔を青くするしかなかった。生きているってことは、命に関わらないものだとは思いたいけれど、もし、そうだったとしたら……そう考えると恐ろしい。
アルベドは、飄々と言うから、その真剣みや重さがイマイチ欠けてしまうと言うか。わざとそう言って取り繕っているのかも知れないけど。
「……分かった。今は聞かない。でも、アンタが命かけて、いなくなっちゃうのはいや」
「そんなに、俺が好きなのかよ」
「好きとかそう言うんじゃなくて……好きだけど。恋愛的な意味じゃなくて、人として。信頼できるしアンタが、今となりにいてくれることが、何よりも嬉しいし、安心できる」
「へえ、素直に言うなあ。あの、皇太子殿下が妬かねえか?」
「リースは……うん、そう言うの許容してくれるいい恋人だから。元……かも知れないけど」
自分でいうのもあれだけど。
アルベドは、それに関して何も突っ込まず、スッと私の髪を救い上げると、優しく微笑んだ。ふわりと風が待ったかと思えば、紅蓮に染まっていた髪色が、まばゆい光に包まれ、銀色に戻って行く。彼が、魔法を解除したのだと、解除するその瞬間さえも、美しくて、魅入ってしまった。
アルベドの、笑顔も儚げで、とても美しかった。
「矢っ張り、エトワールは銀色が似合うな」