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八雲瑠月
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そこはまるで異世界だった。現代国語学院の体育館がまるでオペラ劇場のように彩られていた。舞台はゴージャスな紅い舞台幕になり、複数に付いていた天上の照明は巨大なシャンデリアに変わり、バスケットゴールを操作する為の二階ギャラリーは三階に変わり、観客席となっていた。一階の木床にはゴージャスな座席が敷き詰められ、わずかな通り道しか隙間がない。あえて学校らしさが残っているとすれば、舞台幕の上部の一文字幕の王冠型の校章の刺繍ぐらいだろうか。
「これがメタバースか?」
書也が手を見ると、肌は少し黒くなり、袖なしの剥き出しの腕は女性のように細くなっている。何かの設定ミスだろうか? 名前と写真を元にグラフィックデザイナー部が発注し、VRのアバターを制作したと聞いたのだが。
「書也君!」
背後から愛の声が聞こえたと思うと、宙に天使姿の幼女が転送され、フライングボディープレスをかます。咄嗟に書也は受け止める。さすがに痛覚は感じないが、両手に持つVRコントローラーから、バイブレーションの振動が走る。
「わっ!? その声は……やっぱり愛か?」
抱き止めた愛をゆっくりと降ろすと、幼女の天使のアバターの顔はどことなく愛に似ている。天使の輪っか、袖なしのドレス、手には小さな弓とハートの矢を持っている。
「画面に表示されている通り、愛だよ。書也君」
キューピッドの愛のアバターにはゲームのステータスのように学年と名前、所属している科と部活動の名前まで表示されている。
「愛はずいぶん可愛いアバターになったな」
「へへっ。良いでしょ。でも、書也君のアバターも結構、可愛いよ。何で性別まで変わっちゃったのかな?」
「性別まで変わった!?」
書也は慌てて、ボタンを押して、三人称視点に切り替える。書也と表示されているアバターはアラビアンチックな衣装の少女になっていた。長い髪に頭にはチェーンティアラ、衣服は袖なしで、肌の露出が多いペリーダンスの衣装のようであった。そして手にはなぜか古代文字か何かが書かれた百科事典のように分厚い本。書也の顔は全く再現されておらず、性別すらも違うのだ。
「……マジかよ。しかも、これ教子先生の書いている十二星物語のアニメ版のキャラじゃなかったか? 確か名前は……」
肩を落とす書也に微かに笑い声が聞こえてくる。
「くす……手に持っている本とアラビア風な衣装から、その姿はアラビアンナイトで物語を語るシェヘラザードを模したアバターだろ。愛君の【愛のキューピッド】からイメージしたように【語部】からアバターを制作したんだろう」
理香の声と共に新たなアバターが転送される。現れたのは白衣を着た少女人型ロボットだった。メカ耳が付いた以外はほぼ理香そのものような気がした。
「理香先輩はメカ娘ですか。他のみんなは何処ですか?」
「操作のチュートリアルが済んだらここに転送されるはずだから、他のみんなもすぐにここに来るだろう」
「何よその書也のアバター。完全に女の子じゃない」
次に転送されたのは声からして、友美のようだった。炎の髪に竜のような角、衣服はビキニのような鱗を模した鎧に燃え続けている蜥蜴のような尻尾が特徴だった。
「友美はサラマンダー娘か? 凄いエフェクトだな」
友美のエフェクトは特に凝っているようで、身体からも炎のエフェクトが常に出ている。
「熱情だから炎のサラマンダーって、安易すぎじゃない」
「熱情ならかっこ良いからまだマシ。私なんか幽霊」
その次に転送されたのは幽美だった。額の三角の白い布の天冠と死装束、両足は無く、二つの人魂のエフェクトが左右に浮いている。しかし、死装束から人魂まで黒く染まっている為、より邪悪に見える。恐らくは幽美の「幽」から幽霊の発想なのだろうが、なぜ黒になったのだろうか?
「でも、幽美ちゃんの幽霊も可愛いよ」
下を向く幽霊の幽美にキューピッドのアバターの愛が髪を優しく撫でる。幽美は愛に髪を撫でられ、されるがままに猫のようにじゃれているが、霊魂を天に帰す存在が親しいというのもあれだが、問題はそこではない。
「何で幽霊なのに黒に染まっているんですかね?」
書也はグラフィックが意図的ではないような気がして、青ざめた表情で幽美に聞いた。
「グラフィックデザイナー部によると……バグだって、何度直してもこうなるみたい。グラフィックデザイナー部の調整に何度も付き合わされて、これが限界だって」
幽美は欠伸をしてから、ぼそりと呟くように言う。
「うわ……」
書也は心霊的な怖気を感じ、思わず後退する。
『私、機械に弱いというか、機械との相性が悪いみたいで……映像でも音声でもノイズが走るみたい』
幽美の言う通り、黒幽霊のアバターは時々、ノイズが走り、音声もトランシーバーのように砂嵐の音が混じる。
「ところでエロス先輩は何処ですか?」
書也は幽美の不気味な姿に視線を逸らして言った。
「エロスなら、アバターの衣装でグラフィックデザイナーと揉めてた……多分、遅くなる……エロスのこだわりが強いから」
エロスのこだわりと聞いて書也が何か嫌な予感がした時、噂をすればなんとやら、エロスの声が聞こえた。
「お待たせしましたわ」
エロスの声と共に転送されたアバターの少女。その腰にはパレオを巻き付けているものの、上半身は全く身に着けていなかった。しかし、さすが健全なグラフィックデザイナー部が作ったVRのアバターで、乳房をよく見れば乳首は見えず、肌色で隠れていた。恐らくは乳房を覆うビキニを肌色に変えて、なんちゃって裸を再現しているのだろう。
「エロス先輩、何ですかその姿は……」
恐らくはエロスだと思われるアバターの少女に書也は呆れ顔で言う。
「絵画の美の女神を模したアバターですわ。絵画では乳は隠れていませんのに……センシティブになると、グラフィックデザイナー部の方に無理矢理に肌色のブラを付けられましたわ」
エロスはそう言って、脱がされた訳でもなく、逆に着せられたのに、恥ずかしそうに胸を覆い隠し、頬を染めた。
「服を着ているのに……手ぶらすると、エロく見える。不思議……」
幽美がエロスを呆れ顔で見た後、ぼそりと呟いた。
「それよりも何でメタバースで対戦の形式の発表になったんでしたっけ? 部員同士の戦いだったらラノケンかマンケンの部室を借りれば良いと思いますし、それこそ視聴者を集めたいなら本物の体育館か校庭を借りればいいわけですよね?」
書也が周囲を見回して言った。
「メタバースでやる利点が二つありますわ。一つは施設を借りずに多くの人を呼べるという事ですわね。もう一つはラノベと漫画を試合形式にする時にデジタルな数字で表示し、可視化しやすくするという利点がありますわ」
「でも、ログインできているのは俺達、ラノケンだけみたいですし、大丈夫なんですか?」
「忘れていましたわ。ここは練習ステージだそうです。操作が慣れたら、メニューの本番ステージのボタンを押して欲しいと……グラフィックデザイナー部の方が言っていましたわね」
「メニューの本番ボタンステージって、これか?」
「ちょっとお待ちくださいね。まだリハーサルが……」
書也は何気なくボタンを押してしまう。すると、書也は一瞬にして転送されてしまう。