昼間の俺は、いつも通りだった。
笑って、ツッコミを入れて、みんなの輪の中にいて、冗談を飛ばして。
メンバーもリスナーも、俺が元気だと思っているはずだ。
その笑顔がどれほど作られたものか、きっと誰も気づかないだろう。
いや、気づかれたくないから、必死に隠しているんだ。
それが“ちぐさ”というキャラクターだから。
けれど夜になると、すべてが反転する。
配信画面を閉じ、ライトを消した部屋は、異常なほどに静かで、重い。
俺の呼吸だけがやけに大きく響く。
スマホを手に取って、SNSを見ても何も感じない。
コメントの「お疲れさま」「今日も楽しかったよ」さえ、
今はどこか遠い世界の文字に見える。
胸の奥がひりひりして、何かで埋めたくなる。
誰にも言えない衝動が、波のように押し寄せる。
全部壊してしまいたいような気持ち。
叫んで、泣きわめいて、消えてしまいたいような気持ち。
でも、俺はそれを表に出せない。
出した瞬間に、“ちぐさ”は終わってしまうから。
キャラが壊れることは、俺自身が壊れることと同じなんだ。
俺はずっといじめられていた。
メンバーと楽しくする中でどうしてもフラッシュバックする。
「お前なんて必要ない」「誰も本当のお前を知らない」
その囁きが、夜の静寂に滲んでいく。
鏡を見るのが怖い。
そこに映る自分が“ちぐさ”なのか、それともただの俺なのか、
もう区別がつかなくなってきている。
目の奥に、どろっとしたものが溜まっているのを感じる。
それを必死に笑顔で塗りつぶす。
笑顔という鎧が、だんだん重くなっていく。
それでも着続けるしかない。
そうしないと、自分が何者かわからなくなるから。
メンバーの前では、まだ笑えている。
でも、誰も俺の内側までは見えていない。
見せるつもりもない。
だって俺が壊れているなんて、
絶対に知られたくないから。
夜の部屋で、俺は
グチュ…チュグチュ ザクザクザクザク ポタ‥ポタ
…
グチュ…チュグチュ ザクザクザクザクザクザク
あ、切りすぎた…wやっぱ気持ちいなぁw
ポタポタポタポタ
あ、やべ、包帯まかないと
リスカをする
その時だけが、心が無になる。
その時だけが、俺にとっての安息だ。
痛みを感じているあいだだけ、頭の中のざわめきが消える。
でも、それを誰かに話したことは一度もない。
“そんなことする人間”だと知られたら、
俺が築いてきたすべてが崩れるから。
「今日も楽しかったよ」
その一言で救われる日もあれば、
その一言が胸をえぐる日もある。
笑顔の裏で、俺は何度もつぶやいている。
「ごめんね、ほんとはこんな俺で」
「でも、もう少しだけ頑張らせて」
誰かに見つけてほしい気持ちと、
誰にも見つけられたくない気持ちが、
同じ心の中でぐちゃぐちゃに絡み合っている。
それが、俺という存在の本当の姿だ。
明日になれば、また笑顔を作る。
「ちぐさくん、元気だね」って言われるだろう。
俺は笑って、冗談を言って、場を回すだろう。
そして夜になれば、またこの部屋にひとりで戻ってくる。
誰にも見せられない俺の闇と、もう一度向き合うために。
でも、今のところ、まだ笑える。
だから、まだ大丈夫なふりができる。
その“ふり”こそが、俺の最後の居場所だから。
コメント
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やっぱり書くのはやすぎる…凄い