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2話 ゆめを食べる魚
夜の水槽は、
昼よりも低い位置で息をしている。
ヒカは柵にもたれ、
肩を少し落として立っている。
上着は薄く、
袖口が擦れている。
指先は細く、
爪は短い。
水の中を、
魚が横切る。
口を開くわけでもなく、
追うわけでもない。
それでも、
なにかが減っていく。
叶えたい気持ちが、
形を失う。
迷いが、
重さを手放す。
執着が、
引っかからなくなる。
期待が、
ほどける。
魚は、
それを噛まない。
ただ、
通す。
通したあと、
鱗の縁が光る。
水色にも、
緑にも、
寄らない光。
ヒカの喉が、
一度だけ動く。
目は逸らさない。
食べられた分だけ、
魚は増えるように見える。
数ではなく、
存在感として。
水槽の前に立つ人は、
少ない。
立ち止まっても、
長くはいない。
ヒカだけが、
その場に残る。
魚は、
こちらを見ない。
光だけが、
水の中に溜まっていく。