テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「翔太、ふっか見なかった?」
「……あ。うん、見てない」
曲がり角を曲がった先で、急に想い人が視界に飛び込んできて、ドギマギした。
そして、咄嗟についた嘘に、手汗が滲む。
「そっか。一緒に帰ろうと思ったのに…残念。ありがとな」
くしゃ、と撫でられた頭が、照の大きな手に包まれて胸がイヤでも高まる。
と、同時に、自分でついたつまらない嘘に、胸が軋むように痛んだ。
照が去った後、さっき会ったばかりのふっかが、スタッフさんとの打ち合わせを終えて、会議用の小部屋から出てきた。
「おぅ、お疲れ。翔太、まだいたのか」
「ん…。今帰るとこ」
「そっか。気をつけて帰れよ」
「……ありがと」
何も知らないふっかは微笑むと、照と同じように、俺の頭をくしゃっと撫でた。
また、胸が痛んだ。
ーーーー
照とふっかが付き合いだして、もうひと月くらいになる。
初めてその報告をみんなと受けた時には、足元から地面が崩れたかと思うほどに、俺は動揺したけど、なんとか平静を装った。
二人はずっと仲が良かったし、それを隠そうともしなかった。
でもそれは、俺と涼太みたいな関係性だろうとどこかで思おうとしていて。
でも、違った。
心の狭い俺は、二人からまっすぐにその報告を受けても、なかなか気持ちを切り替えられずにいた。
我ながら、自分で自分に呆れる。
好きな人の幸せを願うことが、こんなにも難しいだなんて。
「もう少し」
もう少しだけ、自分の気持ちを整理して、二人を祝福するマインドに切り替わるまで、待ってほしいと思うのはやはり我儘だろうか。
ーーーー
「早く着いたな……」
グループ仕事の前の仕事が巻いて、早めにテレビ局に到着した。出番まではまだたっぷりある。流石にまだ誰も来ていないだろうと、楽屋の扉を何も考えずに開いた。
「あ」
見慣れた二人のキスシーン。
身長の高い照が、ふっかの後頭部を支えるようにして、首を傾けていた。
慌てて漏れた声を手で押さえるけど、間に合わなくて。肩越しに、ふっかと目が合った。
ふっかは慌てることなく、少し照の肩を押して、笑顔で言う。
「おはよう、翔太。悪いな、変なとこ見せた」
「……………」
振り返る照の方が、顔を赤くして、驚いている。何も言えずにいるのは、俺と一緒だけど。
「っ、いや、また後で来る」
行き場なんてないのに、空気が耐えられなくて、そして何よりショックで、もつれそうになる足をなんとか踏ん張りながら後ずさった。
俺がいなくなったら。
………二人は続きをするのだろうか。
そんな勘ぐりに自分で嫌気がさす。
それとも二人で、やばかったな、なんて笑い合うのだろうか。
どこまでいっても、俺は脇役で。
重要な登場人物の一人にもなれなくて。
「俺は………ほんとに……」
人通りの多い廊下を避けて、非常階段の方へと逃げると、冷たい階段へと腰掛けた。
大きく息を吐いて心臓を鎮める。
それから最後の一人になるまで、俺は楽屋に行くことができなかった。
コメント
16件
こういう切ない系のお話も大好きです…✨ 二人のキスシーンを目撃してしまう💙の場面は、 もう心が…心が痛くなりました😭 恋が実らないからこその美しさや儚さがありますね… 読み終わったあともしばらく余韻から 抜け出せませんでした😭
誰か、、、誰か、💙を拾ってあげて、、
悲し…😭 やっぱり💙には、幸せになってほしいね…