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「おい、貴様」

「は、はい! 何でしょうか!」

「名前は」

「えっと……」

「名前は何と言うのかと聞いているんだ」

「ひぃげぇ……ッ!」


召喚された聖女は、あまりにも滑稽だった。


帝国に伝わる聖女の伝説、それとかけ離れた彼女を見て俺は何処か失望に似た感覚に陥っていた。この国の人間になりつつある……そう実感しながら。

俺が、失望しているのかこの身体の主が失望しているのか分からなかったが、太陽の光を纏った金髪にこの世の全てをうつす真っ白な瞳を持った聖女ではない目の前の銀髪の白鳥のような女を見て、親近感を少し抱いた。

彼女を知っていると、直感的に思い俺は彼女に話しかけていた。

彼女は、俺の顔を見るなり顔を青くさせ震え出したが。そんなことどうでもいい。名前を聞き出し、彼女のことを知ろうと思った。


「エトワール・ヴィアラッテアです」

「エトワールか」


そう自分の名前を口にした彼女は、何故かしまったとでも言うように口を慌てて塞いだ。その姿が、あまりにも可愛らしく巡と重なり思わず笑みがこぼれてしまう。

しかし、彼女から向けられる視線はやはりどうも見覚えのあるものだった。

恋愛感情や好意ではない何か。巡はそのことを何と言っていたか……確か、尊い。だったか。

俺はそんなことを考えながら彼女を見た。

その後彼女は、自分の髪は何色だの召喚で疲れているだの騒ぎ出した。その全てが巡と重なった。

本来聖女は、女神の化身であるが故にお淑やかで悟りを開いたような人物だと聞いている。だからこそ、目の前にいるこの女が聖女とは信じられなかった。


まるで、中身が違うように――――――、


そこまで考え俺は首を横に振った。

もしかすると、俺の願いが女神に届いたのかも知れない。


「え……と」

「どうした?」

「えっと、その……」

「俺の機嫌がいいうちに、手を取れ」


俺が差しだした手を、恐る恐るという感じに取る彼女を俺はじっと見つめた。その怯えたような、表情も初対面の人に対しておどおどと取り乱す姿も全て巡だ。きっと、彼女の中身は巡であると俺は確信した。

俺は、巡に会いたくて仕方がなかった。早くこの身体から抜け出して、巡に会いたかった。だが、彼女の方から俺に会いに来てくれたのだ。


なら――――――


「疲れただろ。部屋を用意したからそこで休むといい」

「主役が出て行ってもいいの?」


パーティーの主役である巡ことエトワールを、この会場にきた貴族達はあまり良く思っていないようだった。理由は簡単だ。伝説の聖女と髪と瞳の色が違うからだ。

だが、幾ら髪と瞳の色が違うからと言って彼女を避けていい理由にはならない。

俺は、苛立っていた。

何故、俺の愛しい人がこのような扱いを受けなければならないのかと。そして、この世界そのものにも怒りを感じていた。彼女が、こんな目に遭う必要などないはずだ。


それなのに、何故――――――…


人混みが嫌いなのも、多くの人の視線を気にしていることも俺は知っていた。しかし、今日のパーティーは仕方がなかったのだ。避けられなかった。ルーメンに頼んだが、これは聖女のお披露目も兼ねているため無理なのだと言われた。

ルーメンには、事前に聖女の中身が巡であることを伝えていた。彼は等々頭が可笑しくなったかと俺に云ってきたが、彼女と会話し確信したように俺に謝ってきた。

しかし、当の本人である巡は俺と再会したというのに浮かない顔をしていた。それどころか俺を避けようと必死になっていた。

まだあの時のことを怒っているらしく、俺が謝るまで許さないとでも言うような顔を俺に向けて。その全てが愛おしいと思えたのだが、彼女の目に映っていたのは自分ではなくリースだった。今、自分がリースであるというのに自分を見られていない感覚。自分の容姿にすら嫉妬した。

いつからこんな感情的になってしまったのか、自分でも分からないが巡の事を考えるとどうも自分を制御できない。

彼女は、ここがゲームの世界だと言った。そして、俺もこのゲームをプレイする手前で転生した。しかしながら、巡が此の世界ゲームについて色々俺に云っていたため、ある程度は理解しているつもりだった。攻略……とやらをするらしい。

そして、俺もその攻略キャラの一人……なのにも関わらず、彼女は俺を攻略しようとしない。

攻略しなければ死ぬだの何だの言っていた割に、俺を攻略しようとしないのだ。一番安全且つ、将来安泰ルートだろと彼女に言いたくなったが言う機会を逃してしまった。


「あ、ブライト」

「何ですか? エトワール様」

「お話できて凄く楽しかった。ありがとう」

「こちらこそ。とても楽しい時間でした」


そして、今目の前で違う男と親しげに話しているのだ。彼氏だった俺とすらまともに話せなかった彼女がだ。

自分を今支配しているのは嫉妬だった。醜すぎる嫉妬。

それを感じ取ったのか、巡……エトワールはそそくさと屋敷の方へ走って行ってしまった。彼女と話していた男も、俺に頭を下げ何処かへと消えていく。


「男の嫉妬は醜いぞ」

「ルーメン……」


俺の肩に手を置いたルーメンが、そう口にする。いつの間に背後に忍び寄ったのかと驚いたが、俺が彼女に気を取られ気づいていなかった事を悟り、俺は彼の手を払った。

俺はルーメンの言葉に反論できず、黙り込んだ。


「それで、聖女様は何処に?」

「屋敷の方に……ああ、彼奴にどの部屋に行けばいいか言い忘れた」

「俺が……私が行ってきましょうか?」


と、ルーメンは口調を直し優しく微笑んだ。

その口調と笑顔に一向に慣れず、俺は顔を歪ませる。嫌と言うほど彼と一緒にいたためか、こうかしこまられるのも上下関係があるのもあまり好きではない。


「いい、俺が行く」


俺は、首を横に振って断った。

ルーメンは、困ったような表情を浮かべたが俺が譲らないと悟ると、渋々といった様子で引き下がった。

俺が、ルーメンに背を向けて歩き出すと、彼が何か呟いた気がしたが何を言ったかまでは聞こえなかった。

屋敷の中は気味が悪いほどに静かだった。赤い絨毯が敷かれた長い廊下。あれだけ疲れていたエトワールは、きっと迷子になっているかそこら辺で倒れているかの二択だと思ったが姿が見当たらない。きっと手当たり次第開いている部屋に入ったのだろうと俺は予想を立てた。

しかし、予想を立てたのはいいがこの別荘、屋敷の広さは異常である。しかも無駄に豪華だ。此の世界にきて、金銭感覚はバグったがそれでも、そこまで頻繁に使わない別荘にこれほど多くの金を費やしているのかと思うとゾッとする。


「……エトワールを探していたら、日が暮れそうだ」


俺は、そんな独り言を漏らしながら、部屋の扉を開け中に入る。部屋の中には誰もおらず、俺はため息を吐いて部屋を出た。

かれこれ、数分探しているが何処にもいない。まさか、誘拐されたのではないかと最悪の想像にまで至り、俺は焦る気持ちを抑えながら必死に探す。


「え……嫌です。またとか、ありません。もう一生会いたくないです。さようなら」

「……エトワールの声」


俺は、声がした方角に向かって走る。そして、俺はある一つの部屋の前で足を止める。その部屋の中からは、エトワールの声が聞こえたのだ。

俺がドアノブを捻ろうとした瞬間、その扉が中から吹き込んだ風に押され開いたのだ。

そして、俺の目に飛び込んできたのは、血だまりの中で倒れたエトワールの姿だった。誰とも知らない血だらけの男の横で倒れているエトワール。

俺は、急いで駆け寄り思わず彼女を抱きしめた。脈はある。どうやら気絶しているだけのようだった。

しかし、顔色が悪く魘されているようだった。


「殿下……ッ!」


俺は、エトワールを抱きかかえると、扉の方からルーメンの焦ったような声が聞こえた。


「ルーメン。今すぐ、会場を閉鎖しろ。今すぐにだ」

「……はい、直ちに」


倒れている男の血で衣服を真っ赤に染めたエトワールを見た、ルーメンは俺の考えを読み取り踵を返し部屋から去った。

物わかりのいい男で助かったと、俺は思いながら自分の腕の中で眠るエトワールを強く抱きしめた。


「もう大丈夫だ。俺がいるからな」


俺はそう呟いて、彼女を抱きかかえ部屋を後にした。

こんな物騒な世界に、彼女が召喚されたこと……再会できた事を喜んでいる場合ではない。彼女を狙う輩、彼女に危害を加える輩は徹底的に排除する。


「……お前だけが、俺の宝物だからな」



乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います

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