テラーノベル
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十一月中旬。すっかり肌寒くなり、冬の訪れを感じ取る、そんな放課後。 朝からザァザァと降り続ける雨は、止まることを知らない。
だから今日はどこかに立ち寄ることもなく、校門のところで別れて帰るんだけど、靴箱の前で盛り上がっている三人はショート動画を延々と見て笑っていて、帰る気配がない。
他の生徒なんて、ほとんど帰ったのに。
なんで「ショート動画」なのに、いつまで経っても終わらないんだろう?
心の中で、どうしようもない毒を吐く。
だってさ、三人は徒歩十分ぐらいの距離に家があってすぐ帰れるだろうけど、私は駅まで十分歩いて、そこから電車で帰らないといけないんだよ。
あと半月もすればテスト期間で勉強だってしないといけないし、こんなことしてる時間があったら早く家に帰りたいし。
生徒用玄関は冷たい風がヒュウウウと入ってきて寒かったのに、熱を帯びてきたことから体内に毒が蔓延しているようで、クールダウンしようとカバンを漁る。
せめて何か、別のことをしよう。
三人の並びに入ることも出来ない、話も振ってもらえない、そんな弾かれた者の僅かな抵抗だった。
だけど、いつもなら当たり前のように触れる指の感覚はなく、同じところを何度も何度も往復させて、ようやくこの異変に気付く。
待って、スマホがないっ!
ブレザーのポケット、カバンをガバッと開けて目で追っていくけど見慣れたスマホカバーは見当たらず、心臓の音がどんどんと大きくなっていく。
「ごめーん、スマホ忘れてきたみたい。だから、先帰ってて」
「あ、はいはい」
軽い生返事に「また明日ね」と大きめに声をかけるも、返ってきたのは手をパチっパチっ叩いて大笑いする声で、そんな三人に背を向け、教室に戻るために階段を駆け上がっていく。
焦ってカバン漁っていたのに、異変にゼンゼン気付いてくれなかった。
こんなに泣きそうな声をしているのに、こっちを一瞬たりとも見てくれなかった。
目の前にいる友達より、動画なの? 私の存在は移り変わっていく動画より、価値のないものなの?
きっと私が急に消えても、誰も気に留めてなんてくれないんだろうな。
ツンと痛くなる鼻を啜って、誰もいない廊下を一人走っていく。
「どうしよう。スマホ、なくしたみたい」
本当はそう言いたかった。
「えっ、大丈夫?」
「鳴らそうか?」
「とりあえず、落ち着こう」
こんなふうに声をかけて欲しかった。
本当は助けて欲しいと言いたかった。
なくしていたらどうしようと言いたかった。
一緒に教室まで戻って欲しかった。
だけどそれを口にしたら、どんな表情になるか分かっていたから、私は──
「はぁ、はぁ、はぁ」
二年一組の教室に戻ってくると、そこには暗い部屋で自席に座って文庫本を広げている麗華の姿。いつもの放課後の光景だ。
どうして学校が終わってすぐに帰らないのかは分からないけど、今の私にはすごく困ったことになっている。
こないだみたいに、顔をバッチリ合わせてしまうかもしれないってことだ。
だからって、スマホがないのはめちゃくちゃ困る。
仕方がなくそっと入り、こないだみたいな失敗をしないようにとイスをズラして、しゃがみ込む。慎重に引き出しの中に手を突っ込むけど、やはりあの柔らかなカバーに触れることはなかった。
その瞬間、サァーと引いていく血の気。
スマホを失くしてしまった。ヤバい、ヤバい、どうしよう!
呆然と顔を上げると目の前には窓があり、ガラスを叩く雨粒は大きく見える。おそらく大きな雨音を立てているんだろうけど、私の耳は空気が詰まったかのように、その音が拾えない。
「スマホ……、ウソっ、どこにあるのぉ?」
視界が揺らいでくるけど、そんなことしていても解決はしないと、机横にかけてあるショップカバンをガサゴソと漁っていく。
自分でなんとかしないと、自分で……。
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