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面接の後は散々だった。
白紙さんの言葉で終わりすぐに喫茶店を出て、あるタワーマンションに連れて行かれた。
白紙さんの自宅のようで、家に入るなりなんと彼は眠りについた。「時間まで家で待機」と言われた。
手持ち無沙汰で過ごしていると、突然白紙さん以外の人物が現れた。
ふくよかなおじさんだ。
無精ひげと、しばらく切っていないであろう髪。
この人は、働いていないのだろかと思った。
名前は足立敬一郎さんと言うらしい。白紙さんの叔父にあたるそうだ。
足立さんがゲームを貸してくれたおかげで、時間を潰すことができた。
そのまま帰るタイミングを逃した僕は、大馬鹿者だったと思う。
深夜二十三時になると、白紙さんが起き上がってきた。
すぐに心霊スポットへ向かうらしく、足立さんの車に三人は乗り込んだ。
最初は無言の時間が過ぎたが、その内足立さんがラジオをつけた。
内容はニュース番組で、最近至る所で起こっている行方不明事件の話をしていた。
全国各地で、行方不明になっているらしい。
次は有名な政治家の話だった。
確か最近、SNSで話題になっている。
名前は確か、久世だったはずだ。
ニュースは今後の活躍に期待、と言っていた。
車が停車して、心霊スポットへと到着した。僕は、この場所のいわくを思い出していた。
Hは、小さな滝があるパワースポットと言われている場所だった。
駐車場とその先にある滝とちょっとした遊歩道。それから、公衆トイレくらいしかない。
だがそれでも、S市では心霊スポットとして有名だった。
僕のような心霊に興味のない人間でも知っているくらいだ。
本当かどうかはわからないが、ここでは一人の女性が自殺をしている。
そしてその幽霊が、ここを訪れる者に取り憑いてしまうというわけだ。
僕が高校生だった頃、肝試しにここに来た友人が、女性の声を聞いたと言っていた。
それを聞いて、僕は心底震え上がった。絶対にこの場所へは来ないようにしようと、誓ったはずだったのに――。
「お前はカメラを持って、俺を写すのが仕事だ」
僕の手に、一台のスマホが手渡された。
最新の型ではないのに、新品のように綺麗だった。
画面はもうライブ配信を始める一歩手前になっている。
この赤いボタンをタップすれば、世界に配信される。
僕の心臓は、ドキドキと脈打ち始めた。これからバンジージャンプでもする気分だ。
「じゃあ、あの辺までから配信スタートで」
白紙さんが、駐車場から抜けた先の砂利道を指さす。
木々に囲まれたその道は、地獄に続く道のように不気味に見えた。
ふと視線を逸らすと、足立さんが車でゆっくりスマホを見ている姿が目に映った。
「あの、足立さんは行かないんですか?」
「足立さんは、あくまでここに送ってくれるだけだ。あとは配信を編集したりする。行くのは、俺とお前の二人」
なんということだろう。
こんなに恐ろしい雰囲気なのに、二人。
心霊スポットなんて、絶対に人数が多い方がいいに決まっているのに。
「じゃあ行くぞ」
僕の怖気づいた姿を無視して、白紙さんは歩き出した。
「待ってくださいよ~」
「ゾワッとどうも。白紙です。今日は、あの有名な心霊スポットであるHにやってきました」
録画ボタンを押しても、白紙さんの態度は何一つ変わらなかった。
気怠そうな棒読みで、ダサい挨拶をするものだから笑いを堪えるのに苦労した。
視聴者はすぐに一人、二人と増えていって、気付けば十人ほどが見ている状態になった。
コメント欄で、「え、これが白紙?」「コイツが幽霊やんwww」と好き勝手書かれている。
だが僕も、このコメントには同意せざるを得ない。
今まで白紙さんがスマホを持って撮影していたから、視聴者は初めて見る姿に驚いているようだった。
「じゃあ、先進んでいきます」
伝える気があるのかわからない声量で、白紙さんはずんずんと先に進んでいった。
コメント欄のことは全く気にならないようだ。
砂利道を踏みしめて、懐中電灯の明かりを頼りに歩いて行く。
足音が気付いたら増えているんじゃないか。木の影から誰かが覗いていたら――。
そんな不安が、僕の心を支配した。可能な限り白紙さんに近付く。
白紙さんの奥に、明りが見えた。建物がそこにある。
#衝撃のラスト
山根利広
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目の前に着くと、白紙さんが口を開いた。
「ここに公衆トイレがありますね。入ってみましょう」
白紙さんが棒読みで言うと、男子トイレの扉を開けた。
中からは嘔吐くような臭気が漂ってくる。
小便器が二つに個室が一つ。
至って普通の公衆トイレだ。
「何もありませんね。次女子トイレです」
「え……。女子トイレはやめておいた方がいいんじゃないですか?」
撮影中はいかに気配を消すかということを考えていたのに、つい口を挟んでしまった。
しかし、白紙さんは聞こえていないのか、それとも聞こえていない振りをしているのか。
女子トイレの扉をためらいなく開けた。
コメント欄も「カメラマンの意見ガン無視で草」と書かれている。
「ここが今日の心霊スポットの肝ですね」
コメント欄もこの白紙さんの言葉で大盛り上がりする。
「ここって女の幽霊の噂あるよな」「女子トイレに出るらしい」と様々な情報が書き込まれていく。
僕は唾をごくりと飲み込んだ。
白紙さんは女子トイレの中にずかずかと入っていった。
倫理観と恐怖心で一瞬入るのを躊躇したが、腹を決めて僕は押戸を開けた。
男子トイレと同様、中は公衆トイレの臭いでいっぱいだった。
手洗い場と、個室トイレが二つ並んでいた。
白紙さんは奥の個室トイレの扉を開けていた。
誰もいない。ほっと胸をなで下ろす。
「何もないな」
白紙さんは相変わらず無表情だが、心なしか残念そうに見えた。
それはそうだ。
今日のメインの場所に来て、ただ狭いトイレがあるだけ。
僕にとっては、ありがたい話だが。
トイレ全体をある程度写していると、扉の閉まる音が聞こえて振り返る。
白紙さんが何も言わずに、既にトイレの外に出ていた。
「ちょ、まってくださいよー」
思わず僕の口から、情けない声が出る。
噂の場所で一人にされるなんて、考えられない。
コメント欄は、僕の声が面白かったのかひたすらにwの文字が流れている。
どうせこのコメントしている人たちも、実際に心霊スポットにいけば僕と同じ状態になるに決まっている。
女子トイレから出ようと扉を押したときだった。
何か高い音が聞こえる。
小さくて、何の音かはわからない。
しかし、僕にはそれが女性の声だとわかった。
人がすぐ横にいて、息が耳にかかっている。
そして長い髪の毛が、カメラを持つ僕の右手に当たる。
「うわああ!」
僕はトイレから駆け出した。
スポーツを二年やってこなかった人間とは思えないほどの速度だったと思う。
白紙さんは、五十メートルほど先に行っていた。
「白紙さん……今……今……!」
白紙さんはやっと振り返って追いついた僕を見た。
大した距離でもないのに、僕の息は上がっている。
「何か出たのか?」
そう言った白紙さんの声は、心なしか弾んでいる気がした。
「今、絶対に誰かいたんです! 耳元で何か言ってたんですよ」
コメント欄を見ると、「気のせいじゃね?」「何も聞こえなかったけど」「確かに何か聞こえたけど、風の音だろ」そんな言葉が並んでいた。
僕だけがあの声と感覚を味わったのか。あの髪の毛が皮膚に触れる感覚、人の息。絶対に気のせいではない。
もう一度コメント欄を見ると、「ねえ」とただそれだけが書かれていた。
他にもコメントはあるのに、なぜか気になってしまう。
「滝へ向かう」
白紙さんがそう言って歩き始めた。
飛び込んで自殺という話は聞いたことはないが、滝での幽霊の目撃情報は後を絶たない。
また白紙さんの後ろに続いて歩いて行く。
滝まではすぐだ。
先ほどの恐怖感が少しずつ薄れてきた時、また目を引くコメントがあった。
「助けて」ただそう書かれていた。
他の視聴者達がそのコメントに、「何を助けるんだよw」と馬鹿にするようなことを書き込んでいる。
「苦しいよ」
「助けて」
「見てるんでしょ」
次々にコメントが、下から上に流れていく。
「なんだこいつ」「やばくね?」というコメントが間に挟まれている。
「白紙さん!」
悲鳴にも似た声が出た。
おかしい。これは絶対に普通じゃない。
また大分先を歩いていた白紙さんは、立ち止まってその場で振り返った。
だがこちらには、戻ってこない。
来いという意味だろう。
「白紙さん、助けてください! 配信が……」
僕はそう言いながら、白紙さんに駆け寄っていく。
昼間はあんなに怪しい人間だと思っていたのに、今は心強い存在だ。
「変なコメントが来て、なんか普通じゃないんです、ほら」
白紙さんに配信画面を見せる。
「あれ?」
先ほどまでの無数のコメントは、綺麗に消え去っていた。
「なんで……さっきまで本当に変なコメントが……」
遡ってみると、間に挟まっていたコメントは、そのまま残っていた。
「みなさんも見てましたよね?」
コメント欄に、自分たちもそれを見たことが書き込まれていく。
「今回もだめか」
白紙さんが、大きなため息と共に呟いた。ショックを受けたような声だった。
僕はこの反応に、何となく違和感を抱いた。
「もういい。配信は終わりだ」
そう言うと白紙さんは滝へ向かっていたはずなのに、踵を返した。
僕は慌てて、配信を終了しようとする。
なにか言った方がいいのだろうかと迷った末、何も言わずに配信を終えた。
そして小走りで、白紙さんの背中を追いかける。
この人は、一体何を考えているのだろう。
僕には到底わかるはずもなかった。
コメント
1件
ゾワッとした…めっちゃ怖かった😭💦 女子トイレであの声と髪の毛の感触、絶対気のせいじゃないよね…。 配信のコメントが「助けて」「苦しいよ」って流れてくるのも、ただの視聴者じゃない感じがして背筋冷えた。 白紙さん、あの「今回もだめか」って呟きが何か企んでるのか、それとも別の目的があるのか…気になりすぎる。 八城さんの描く空気感、静かにじわじわ来るタイプのホラーで本当に好きです。続き、読みたいです🌙