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『嘘でもまた会いたかった』
tg視点
「ちぐさー、お前プリント回収お願いできるかー?」
先生の声に、「はいっ」と返事をして席を立つ。
何でもない毎日の中に、ほんの少しだけ、変わったことがある。
――先輩に、また会えるようになった。
たったそれだけのことが、
俺には、胸が詰まるほど嬉しかった。
記憶が戻っていないことを知った日の夜、
何度も“あの瞬間”が頭をよぎった。
pr ちぐ、ほんまに、俺と付き合ってくれてありがとうな
夕焼けに照らされた校舎の屋上。
先輩が俺の手を握って、そう言ってくれた日の記憶。
たった数秒のその時間が、今も、宝物みたいに胸に残ってる。
……でも、それをもう、伝えることはできない。
“元恋人”として会えば、先輩は困るかもしれない。
だから、ただの“後輩”として会うことを選んだ。
ずるいのは分かってる。でも、それでも――また会いたかった。
pr ちぐ、お前最近よう生徒会室おるな
昼休み。生徒会の仕事を手伝っていた俺に、先輩がひょこっと顔を出した。
tg えっ、あ…そ、そうなんです。プリント整理とか手伝ってて
pr まじめやな〜俺なんかめっちゃサボってたのに
そう言って笑う先輩の声が、あのときと同じで、
心の奥がじんわり熱くなる。
tg 先輩……生徒会のこと、あんまり覚えてないんですか?
pr あ〜、なんかやってたなぁって程度やな。そもそも俺、記憶戻らんまんまやし
tg ……そっか
pr でもなんか、ここ来ると落ち着くな。なんでやろ?
そう言って部屋の隅を見まわす先輩の視線は、どこか懐かしそうだった。
もしかして、何か残ってるのかな。俺との記憶の“かけら”が、少しでも。
pr ……なぁ、ちぐ
tg え?
先輩が急に真面目な声で呼んだ。
いつもより低くて、優しい声。目が合った瞬間、心臓が跳ねた。
pr お前と話してると、変な感じするんや……なんでやろな
tg 変……って?
pr お前のこと、ほんまは好きやったんちゃうかなって、思ってまう
頭の中が真っ白になる。
tg …っ、先輩、それ――
pr …ごめん。なんか、変なこと言ったな
先輩は照れくさそうに笑って、いつもの調子で俺の肩をぽん、と叩いた。
でも、こっちはそんな余裕ない。
それ、本気で言ってるんですか。
それとも――
昔の気持ちが、ほんの少しだけ、戻ってきてるんですか。
聞きたかった。
でも、聞けなかった。
言葉が喉の奥に引っかかったまま、何も言えなかった。
そして、先輩はぽつりと、呟いた。
pr ……俺、前にもこんな気持ち、感じたことある気がすんねん
そのとき、俺の心臓は、一度止まった。
──まさか。
まさか、記憶が……?
pr ちぐ、もし……
その先を、先輩が言いかけた瞬間――
「おーい!ぷりっつー!こっち来いってー!」
遠くから、友達の声が響いた。
pr あっ、ごめん、呼ばれてもうたわ。続き、また今度な
tg ――えっ
置いていかれる声と余韻。
何もかも、止まりかけてた心臓も、また動き始める。
でもさっきの“もし”の続きが、頭の中でぐるぐるして離れない。
先輩、
さっき、何を言おうとしたの。
──俺はまだ、
先輩に置いてかれたままだ。
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