当主様は、何が言いたいのだろう。言っている意味が分からない。
「君の役目は何だい?」
「送り人として、巫女様を守り、神の元まで送り届けることです。」
「そうだね。つまり、守るのは『巫女』であって彼女じゃない…。賢い君なら分かるだろう?」
彼の言いたいことは分かる。噛み砕いて言うと、「彼女を守ることよりも、『巫女』という立場を守れ。家の風紀をなんとしても崩すな。」という意味だろう。
「…。」
当主様はしばらくこちらの顔を見てから、「では、よろしく頼んだよ。」と言った。当主様の表情は笑顔だが、どこか暗いような気がした。
「では、本題に移ろう。今日、皆を呼び出したのはこの話を聞いてもらうためなんだ。皆、落ち着いて聞いてくれ。」
すると、当主様の表情から笑顔が消えた。
「『アレ』を行う。一週間後だ。」
…は?
「一週間後ですか!?」
「ああ、天候の様子がおかしい。…そろそろ準備を始めなければ、手遅れになる。」
何を言っているんだ………?
「皆、今日から早急に準備に取り掛かってくれ。」
意味が分からない。頭で考えられない。考えたくない。理解してしまった瞬間、きっと僕は壊れてしまう。
僕は考えることを拒みただ固まっていた。
「……今日はこの辺でお開きにしよう。皆集まってくれてありがとう。」
まず、何故こんなことになったんだ。
彼女が巫女として生まれたからか?いや違う。僕が現実から逃げてきたからだ。いつか『その時』が来ると分かっていたつもりで、心の何処かで「まだ大丈夫だ。」と思い込んでいた自分がいた。
僕は今更、彼女に何をしてあげられるのだろう?
「ただいま戻りました。」
彼女の部屋の前でそう言うと、「あら、おかえりなさい。」と言いながら襖を開けた。彼女は笑顔だった。
部屋に入ると、彼女は祭りの時のことについて話し始めた。
とは言っても、貶めようとした者がいた事ではなく、月が綺麗だったことや、町の人々が楽しそうだったこと、神楽を一度も間違えずに舞えたことなどだった。
彼女はあんなことを大勢の前で言われた後でも、気丈に振る舞っている。そんな彼女を見ていたら、自分が辛くなってきて、言ってしまった。
「……あなたは、辛くはないのですか?」
今更そんなことを言っても、なんの意味も無いのに。
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