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第164話:主の限界言い訳(セントエルモの火)
スイス銀行の純金インゴットがチョコレートの包み紙に包まれて数十億円分もばら撒かれるという、あまりにも経済観念がバグり散らかした大騒動の後。
十勝の限界集落の夜は、いまだに現実世界のルールを完全に無視した超幻想的な光景に支配されていた。
庭の隅のプラチナ温泉から立ち上る真っ白な湯煙の向こうでは、淡いエメラルドグリーンやプラチナ色に自発光する無数の『森の精霊(謎のオーブ)』たちが、まるで星屑のダンスを踊るようにフワフワと夜空を乱舞している。
防風林の木々や古民家の屋根には、数千羽もの雪の妖精『シマエナガ』たちが、真っ白なフワフワの団子のようにぎっしりと鈴なりになって、精霊たちの光を浴びてキラキラと輝いていた。
カボチャの提灯(ジャック・オ・ランタン)の温かいオレンジ色の灯りと、精霊たちのプラチナ色の輝きが交錯し、庭全体が絵本の世界を完全に超越した神聖な空間と化している。
そんな中、居間の特等座布団に座る我が家の絶対司令官、純白の神獣シロ様は、手作りされた紫色の魔女の帽子をちょこんと頭に乗せたまま、優雅に夜空を見上げていた。
彼女がスッとこちらを振り返った瞬間。
真っ白な湯煙と無数の光の球に照らされて、シロ様の神秘的な『オッドアイ』の瞳が、左右で全く異なる圧倒的な神聖さを伴ってキラリと煌めいた。
左目のサファイアブルーはどこまでも深く冷徹な知性を湛え、右目の琥珀色は気高く温かな大地の生命力を宿している。
シロ様は「フンス」と満足げに鼻を鳴らすと、小さな前足でプラチナ色の光の球をポンスと叩いて遊んでおり、その一挙手一投足が大魔女としての圧倒的なオーラを放っていた。
「はぁぁ……本当に綺麗。お兄さん、見てくださいよ。これ、絶対に本物の魔法ですよ。映画のCGなんて目じゃないくらい、世界で一番贅沢なハロウィンナイトですね……」
カボチャ風エプロンを揺らしながら、小春ちゃんが縁側に腰掛けて、夢見心地の表情でうっとりと夜空を眺めていた。
だが、そんな全人類がファンタジーの世界に魂を奪われている狂騒のド真ん中で。
俺――アキヤは、静かに軽トラックの荷台の上に折りたたみチェアを設置し、おもむろに携帯用カセットコンロの上に載せた鉄板を火にかけていた。
ジューーーッという、実に肉肉しい(あくまで大豆だが)香ばしい音が、精霊たちの舞い踊る幻想的な庭へと響き渡る。
俺がこの聖なる夜のためにストイックに仕込んでおいたのは、十勝産の完熟カボチャを贅沢に練り込んだ、特製の『大豆ミートのパンプキン風味ステーキ』である。
鉄板の上で完璧な焼き目をつけられた大豆の塊に、自家製のカボチャ甘味噌ソースをとろりとかけると、俺はナイフとフォークを使って、一切の感情を排した元・社畜の顔でそれを綺麗に一口サイズにカッティングした。
解体・分配プロセスを精密に行い、もっとも効率的な角度で口へと運ぶ。これぞ需品科の戦闘給食スタイルだ。
そして、一切の表情を崩すことなく、ストイックにそのパンプキン大豆ミートステーキを口へと運び、一定のリズムで咀嚼し始めた。
(……ふむ。カボチャの濃厚な甘みと、大豆の植物性タンパク質。鉄板の熱効率も完璧であり、真夜中の陣地警戒任務(ハロウィン)に必要なエネルギーが瞬時に細胞へと補給されていくな)
脳内で完璧な兵站(ロジスティクス)の計算を執行しながら、淡々と咀嚼を続ける俺。
「お、お兄さぁぁぁん!!! 目の前で本物の森の精霊さんたちがプラチナ色に乱舞して、何千羽ものシマエナガさんが夜空をファンタジーに変えてる世界一ロマンチックな大奇跡の瞬間に、なんで一人だけ鉄板をジューーーッて鳴らしながら真顔で『カボチャ大豆ミートステーキ』をストイックにモグモグ咀嚼できるんですか!!」
小春ちゃんが完全に理性を消失させ、庭の落ち葉を掃除するために物置から出しておいた、竹と木で作られた頑丈な『特大魔女のコスプレ用装飾ほうき(芯に強固なカシの木仕様・長さ約一・二メートル)』を両手で大上段に構え、凄まじいジト目でツッコミを入れてくる。
だが、俺は大豆ステーキの咀嚼を止めない。
「小春ちゃん、取り乱すな。どれほど空中が超常的な発光体によって制圧されようとも、元・陸上自衛隊需品科たるもの、定時給食(夜食)という基本ルーティンを怠ってはならない。いかなるオカルト現象の前でも己の血糖値を一定に保ち、代謝サイクルを維持する。これが需品科の鉄則だ」
俺は水筒のカップに注いだ熱いほうじ茶で喉を潤すと、五千万人を突破して地球上の主要サーバーを物理的に破滅させかけている配信カメラにキリッとした真顔を向け、いつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。画面の向こうで、魔女の猫のオーラによって本物の精霊が集結し、幻想的なハロウィンの奇跡が起きたと感動されているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『精霊が物理的に目の前でダンスを踊ってるのに、絶対に認めない男!!!』
『主の限界言い訳タイム・セントエルモの火編ww』
『さあ、このお伽話の世界をどうやって現実科学で論破するつもりだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「あれは精霊でも魔法でもありません。先ほどから発生している現象は、我が陣地(畑)の隣にある古い沼地や湿地帯の有機物が、晩秋の急激な気圧変化によって急速に発酵・分解された結果、地中から大量の『メタンガス』および『リン化水素』が空気中へ放出され、それが大気中の静電気と摩擦反応を起こして発光しているだけの、純粋な『不知火(セントエルモの火)』現象に過ぎません。シマエナガたちの大量飛来も神獣のバフなどではなく、冬の到来を前にした彼らが、脂肪を蓄えるために集団で移動しているだけの、ただの『越冬前の群れ(渡り鳥の移動プロセス)』に過ぎないのです。ええ、すべてはただの『気圧変化によるメタンガスの静電気発光』と『越冬前の鳥類の生態行動』ですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
バコォォォォォンッ!!!!
小春ちゃんが、持っていた頑丈な装飾用の木製魔女ほうきを全力で振りかぶり、俺の背中に向かってパーフェクトな満塁ホームラン級・マジックブルームスマッシュを見舞った。
カシの木の芯が入った強固なほうきが肉体に直撃した、乾いた、しかし骨に響くような凄まじい大爆音が、精霊の光が満ちる限界集落の夜空へと虚しく響き渡る。
「メタンガスの静電気発光が、こんなに温かくてお肌がツルツルになりそうな綺麗なプラチナ色の光を放つわけないでしょうが!! ただの越冬前の群れじゃなくて、シロちゃんのあの綺麗なオッドアイの瞳から溢れた神聖なオーラに惹かれて、雪の妖精さんたちも精霊さんたちもハロウィンを祝いに集まってくれたんでしょうが!! 自分の家の猫が、世界をファンタジーに変えちゃう本物の大魔女だってことを素直に認めなさいよ!!」
『小春ちゃんの魔女ほうきスマッシュ炸裂www(いい音)』
『不知火・セントエルモの火(どう見ても本物の森の精霊)』
『ただの越冬前の群れ(可愛すぎるシマエナガの白い嵐)』
『適応力バグおじさん、ついに大自然の神秘までメタンガスと言い張ったぞww』
『言い訳の無理矢理さが、世界中の気象学会からツッコミが入るレベルww今日も腹痛いわww』
俺の理不尽極まりない地質学的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレのほうきツッコミに、ヒグマの肩の上で丸くなっていたシマエナガたちは「ジュルルッ!」と楽しそうにさえずり、五千万人を超えるチャット欄のリスナーたちも、腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)百連発』
『”Hahaha! St. Elmo’s fire?! Master, your excuses are more legendary than the spirits themselves! I’ll buy that witch broom for 30 million yen!“(ハハハ! セントエルモの火だと?! 主よ、お前の言い訳は精霊そのものよりも伝説的だぞ! その魔女のほうきを3000万円で買い取る!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)』
『”Akiya, your brain is the true mystery of the world! But Shiro’s eyes are more beautiful than any diamond!“(アキヤ、あなたの脳みそこそが世界の真のミステリーよ! でも、シロの瞳はいかなるダイヤモンドよりも美しいわ!)』
『ミャウ(ほんと、相変わらず精霊たちの前でも屁理屈ばかり並べる頑固な下僕ね)』
シロ様が、魔女の帽子をちょこんと揺らしながら、満足げにその美しいオッドアイの瞳を細めてゴロゴロと喉を鳴らした。
サファイアブルーと琥珀色の二色の瞳は、夜空を舞うどの精霊の光よりも遥かに眩しく輝いており、彼女の放つ絶対的な加護の前では、俺の屁理屈もただの心地よい夜の雑音に過ぎないようだった。
頭にボルトをつけた巨大ヒグマも、小春ちゃんのツッコミのリズムに合わせて「グゥ……」と楽しそうに鼻息を漏らし、光の球を大きな前足で優しくつつこうと、のんびりと戯れていた。
数時間後、世界を驚愕させたファンタジー・ハロウィンは静かに更けていき、精霊たちの光の球は、優しく夜空へ溶け込むようにして森へと帰っていった。
シマエナガたちも、おばあちゃん達から貰った粟の穂を満足そうに突き終えると、白い雪のようにフワフワと夜の防風林へと戻っていった。
限界集落に誕生した新たな名所である温泉からは今も心地よい湯気が立ち上り、カボチャ提灯の明かりと共に、古民家の夜を温かく包み込んでいる。
「……まぁ、理由はどうあれ。陣地の夜間偽装(ハロウィン)の有用性が確認され、村の公金口座がさらに天文学的に潤い、来たるべき厳しい冬に向けた完璧な暖房燃料と物資(ロジスティクス)が完全に確保されたなら、作戦としては完全勝利だ」
俺は背中の木製の衝撃を少しだけさすりながら苦笑し、シロ様の純白の背中を撫で、カップの熱いほうじ茶をゆっくりと飲み干した。
激務に潰されて逃げ込んできた、この限界集落。
最初は一人で静かに暮らすつもりだったが、今では世界一尊いオッドアイの神獣と、最強のフランケンヒグマ、ミイラ化したキツネ兄弟、世界一キレのある女子高生、そして世界中から見守る熱狂的なリスナーたちに囲まれた、世界一バグっていて温かい『絶対の聖域』になってしまった。
神獣の放つハロウィンの奇跡と、元需品科のブレない大豆ミート咀嚼。
限界集落初のハロウィンパーティーは、カボチャ提灯の温かい光と大爆笑に包まれながら、さらに強固になった絆と共に、明日からの新しい日常の物語へと、どこまでも力強く続いていくのだった。
ゆうき あきや
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ゆうき あきや
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キュルノ
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コメント
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第164話、読み終えました〜🖤 もうね、精霊が舞ってシマエナガがキラキラしてる幻想的な夜に、一人だけ真顔で大豆ミートステーキをストイックに咀嚼するアキヤさん、最高すぎました(笑)「セントエルモの火」って言い張る限界言い訳も、小春ちゃんの木製ほうきスマッシュも、全部含めてこの世界観が大好きです。 シロ様のオッドアイ、本当に美しい……あの神秘的な存在感が、アキヤさんの屁理屈すらも「ただの雑音」に変えちゃうのが尊い。五千万人のリスナーと一緒に、私も心の中で大爆笑しながら、温かい気持ちになりました🌙