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第165話:ジャック・オ・ランタンの鉄槌
スイスの銀行家がばら撒いた数十億円規模の純金インゴットが居間に山積みになり、大自然のガチの精霊たちがプラチナ色の光の球となって夜空を乱舞する、我が陣地初の限界ハロウィンパーティー。
夜の更けた古民家の庭先は、温かいカボチャ提灯のオレンジ色の灯りと、無数の精霊たちが放つ幻想的なプラチナ光度によって、完全に絵本の世界の最高峰へと昇華されていた。
防風林の枝にぎっしりと鈴なりになっていた数千羽のシマエナガたちも、温泉の湯気に温められながら「ジュルルッ、ジジッ!」と実に楽しそうにさえずっている。
そんな、全人類の常識の遥か外側を行くカオスな癒やし空間のド真ん中で、さらなる「異常事態」が発生していた。
「あ、あれ……? お兄さん、見てください! 精霊さんたちとシマエナガさんたちが、なんだか規則正しく並び始めてますっ!」
カボチャ風エプロンをパタパタさせながら、お菓子の入った特大カボチャバケツを抱えた小春ちゃんが、驚愕のあまり声を裏返らせた。
彼女の視線の先では、空中を浮遊していたプラチナ色の精霊(オーブ)たちが、まるで日本の通勤ラッシュ時の駅のホームさながらに、一列に綺麗に並んで順番待ちを形成していたのだ。
光の球がふわふわと等間隔で列を作り、その後ろにはミイラ包帯姿のコン吉とコン次郎、さらには頭に特大ボルトを生やしたフランケンヒグマまでもが、お行儀よく最後尾に並んでいる。
その整然とした「トリック・オア・トリート」の行列を、居間の特等座布団から絶対的な威厳を持って統率している存在がいた。
我が家の最高司令官、純白の神獣シロ様である。
手作りの紫色の魔女の帽子をちょこんと頭に乗せた彼女が、満足げに喉をゴロゴロと鳴らしながら、こちらをスッと振り返る。
カボチャ提灯の揺らめく光を浴びて、シロ様の神秘的な『オッドアイ』の瞳が、左右で全く異なる圧倒的な神聖さを伴ってキラリと煌めいた。
左目のサファイアブルーはどこまでも深く澄み切った知性の光を湛え、右目の琥珀色は気高く温かな大地の生命力を宿している。
シロ様がその美しい二色の瞳を細めて「ニャァ」と一声鳴くと、行列を作っていた精霊たちやシマエナガたちは、一糸乱れぬ規律の高さで、小春ちゃんの前へと一歩ずつ進み始めたのだ。
どうやら、シロ様の神獣バフ(統率力)が空間全体に作用した結果、野生動物も大自然の精霊も、完璧なマナーを遵守する優良モンスターへと変貌してしまったらしい。
「はい、次の精霊さん、カボチャクッキーですよ! はい、次のシマエナガさんは粟の穂ね!」
小春ちゃんが戸惑いながらもお菓子を差し出すと、プラチナ色の精霊はフワッとクッキーを光の粒子で包み込むようにして受け取り、嬉しそうにチカチカと点滅して空へと昇っていく。シマエナガたちも、小さなクチバシで器用にお菓子を咥えては、小さくお辞儀をして飛び立っていった。
最強のネットワークインフラを通じて全世界へ生配信されている画面の向こうでは、この「お行儀よく一列に並んでお菓子を貰うガチの精霊と野生動物」という超現実的な映像に、五千万人を超えたリスナーたちが完全に腹筋を崩壊させて大どよめきしていた。
『精霊が行列に並んで順番待ちしてるハロウィンwwww』
『日本の満員電車を待つサラリーマンよりマナーが良くて草ww』
『シロ様のオッドアイが怪しく光るたびに列がピシッと整うの凄すぎるだろ!』
『可愛さとシュールさの密度が限界突破してて、もう拝むしかないなこれ』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)二百五十連発』
『”The discipline of the gods!!! Master! Even the spirits of the forest obey your command! I will establish a 5-billion-yen fund for their annual candy supply!“(神々の規律だ!!! 主よ! 森の精霊たちさえもお前の命令に従っているぞ! 彼らの年間のお菓子供給のために50億円の基金を設立してやる!!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)二百連発』
『”Oh my God! This is the most beautiful closing night in history! Shiro’s eyes are true witchcraft! I’m crying right now!“(なんてこと! これは歴史上最も美しい閉幕の夜よ! シロの瞳は本当の魔術ね! 私は今、感動して泣いているわ!)』
世界中から天文学的な規模のオイルマネーとハリウッド資本が限界集落へ向けて一斉掃射され、画面が光の弾幕によって物理的にホワイトアウトしかける狂乱のド真ん中で。
俺――アキヤは、全員がファンタジーの奇跡に涙している庭には目もくれず、静かに軽トラックの荷台の上で、おもむろに保冷バッグからいつものタッパーを取り出していた。
中に入っているのは、完璧な水加減で炊き上げられた『冷やし玄米』と、このハロウィンの最終局面に合わせてストイックに仕込んでおいた『大豆ミートと十勝産南瓜の皮の塩昆布和え』である。
「……よし。前線陣地における季節的偽装(ハロウィン)の最終フェーズ、および発光性流体ユニット(精霊)の規則的な移動シーケンスを確認。これより指揮官は、これからの夜間陣地撤収作業(片付け)に備え、定時エネルギー補給を執行する」
俺は、プラチナ色に美しく点滅する精霊たちの残光に照らされながら、一切の感情を排した元・社畜の顔で、ストイックにカボチャ風味の大豆ミートを玄米の上にワンバウンドさせて咀嚼し始めた。
(……ふむ。南瓜の皮に含まれる豊富なビタミンと、大豆の植物性タンパク質。狂気のハロウィンをノーミスで完遂するための兵站(ロジスティクス)としてはこれ以上ないな)
脳内で完璧な戦術栄養補給を完了し、淡々と咀嚼を続ける俺。
「お、お兄さぁぁぁん!!! 目の前で大自然のガチの精霊さんたちと雪の妖精さんが世界一可愛く一列に並んで『トリック・オア・トリート!』ってお菓子を貰いに来て、世界中が感動の涙で海を作ってる歴史的な大奇跡の瞬間に、なんで一人だけ軽トラの上で真顔で『南瓜の皮大豆ミート』をストイックにモグモグ咀嚼できるんですか!!」
小春ちゃんが完全に理性を消失させ、お菓子を配り終えて空になった、オレンジ色の樹脂製の頑丈な『プラスチック製カボチャバケツ(肉厚耐衝撃ヘビーデューティー仕様・容量約五リットル)』を両手でハンマーのように大上段に構え、凄まじいジト目でツッコミを入れてくる。
だが、俺は大豆ミートの咀嚼を止めない。
「小春ちゃん、取り乱すな。どれほど空中がオカルト的な整列行動によって制圧されようとも、元・陸上自衛隊需品科たるもの、定時給食(夜食)という基本ルーティンを怠ってはならない。いかなる超常現象の前でも己の代謝サイクルを一定に保つ。これが需品科の鉄則だ」
俺は水筒のカップに注いだ熱いほうじ茶で喉を潤すと、五千五百万人を突破して全世界の通信インフラを物理的に破滅させかけている配信カメラにキリッとした真顔を向け、いつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。画面の向こうで、魔女の猫の指揮によって精霊たちがお菓子を貰いに列に並び、世界一バグって美しいハロウィンの夜が完成したと感動されているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『精霊がお菓子を手渡されて空へ昇っていってるのに、絶対に認めない男!!!』
『主の限界言い訳タイム・ジャック・オ・ランタンの鉄槌編ww』
『さあ、このお伽話の完璧なエンディングをどうやって現実科学で論破するつもりだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは精霊の行列でも、ハロウィンの奇跡でもありません。先ほどから発生している現象は、我が古民家の縁側から放出される高熱の温泉の湯気と、晩秋の急激な放射冷却によって、庭先に局所的な『上昇気流のベンチュリ効果(規則的な対流現象)』が発生し、地中の発酵メタンガスがその気流のラインに沿って規則的に整列して浮遊しているだけの、純粋な流体力学的なエラーに過ぎません。シマエナガたちの整列も、単に我が家の強固なYAMAHAルーターから発せられる微弱な電磁波に、彼らの体内磁石が一時的に誘導されて一列に方向を揃えているという、極めて一般的な『地磁気同調行動』に過ぎません。ええ、すべてはただの『メタンガスの気流対流』と『電磁波による鳥類の磁気整列』ですね」
「メタンガスがお菓子をもらいに列に並ぶわけないでしょうがあああ!!!」
バコォォォォォンッ!!!!
小春ちゃんが、持っていた頑丈なプラスチック製のカボチャバケツを全力で振りかぶり、俺の背中に向かってパーフェクトな満塁ホームラン級・パンプキンバケツスマッシュを見舞った。
高密度の耐衝撃プラスチックが肉体に直撃した、ケロリン桶にも劣らない、カーン! と乾いた凄まじい大爆音が、プラチナ色の光の粒子が満ちる限界集落の夜空へと虚しく響き渡る。
「気流の対流で、メタンガスが私から丁寧にクッキーを両手(?)で受け取ってチカチカお礼を言うわけないでしょうが!! 地磁気同調じゃなくて、シロちゃんのあの綺麗なオッドアイの瞳から溢れた神聖なオーラが、みんなをハッピーにする最高のハロウィンの魔法をかけてくれたんでしょうが!! 自分の家の猫が、世界中を最高の笑顔で包み込んじゃう本物の大魔女だってことを素直に認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのカボチャバケツスマッシュ炸裂www(相変わらずの快音)』
『メタンガスの規則的な対流現象(どう見てもお行儀の良すぎる本物の精霊の列)』
『電磁波による鳥類の磁気整列(可愛すぎるシマエナガの順番待ち)』
『適応力バグおじさん、ついに精霊がお菓子を貰う姿までメタンガスの対流と言い張ったぞww』
『言い訳の無理矢理さが、世界中の流体力学会からツッコミが入るレベルww今日も腹痛いわww』
俺の理不尽極まりない流体力学的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレのカボチャバケツツッコミに、最後尾でちゃんとお菓子を貰って満足したミイラ姿のコン吉とコン次郎は「キュイン!」と楽しそうに鳴き、五千五百万人を超えるチャット欄のリスナーたちも、腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(ほんと、相変わらずバケツで叩かれても治らない頑固な屁理屈下僕ね)』
シロ様が、魔女の帽子をちょこんと揺らしながら、満足げにその美しいオッドアイの瞳を細めてゴロゴロと喉を鳴らした。
サファイアブルーと琥珀色の二色の瞳は、ハロウィンの夜の終わりを惜しむように優しく輝いており、彼女の放つ絶対的な聖域の加護の前では、俺の無理矢理な言い訳も、ただの心地よい夜の喜劇に過ぎないようだった。
フランケンシュタインのボルトをつけた巨大ヒグマも、小春ちゃんのツッコミのリズムに合わせて「グゥ……」と楽しそうに鼻息を漏らし、お菓子を全て配り終えた庭の真ん中で、のんびりと大きな大の字になって夜空を見上げていた。
数時間後、世界中を熱狂させた限界ハロウィンパーティーの配信が終了し、カメラの電源をオフにした頃には、十勝の限界集落に静かで平和な夜が完全に戻っていた。
シマエナガたちも、精霊たちの光の球も、最後は満足そうに十勝の深い森の奥へとフワフワと帰っていき、庭の無数のジャック・オ・ランタンも、役目を終えて静かにその灯りを消していく。
村長からは、すぐさま「今回の天文学的な外貨の着金により、村全体の冬の暖房燃料と最新の除雪ロジスティクスが神の領域まで確保された!」と涙ながらの感謝の連絡があり、限界集落の冬の防衛予算は宇宙の果てまで完璧に満たされることとなった。
俺は縁側に腰掛け、静かに夜風を浴びながら、シロ様をそっと抱きしめた。
俺の膝の上では、シロ様が小さな魔女の帽子を外してもらい、丸くなって静かに寝息を立てており、その美しいオッドアイの瞳は穏やかに閉じられている。
「……まぁ、理由はどうあれ。陣地の夜間偽装(ハロウィン)の有用性が確認され、これからの厳しい十勝の冬を乗り切るための完璧な物資と兵站(ロジスティクス)が完全確保されたなら、作戦としては完全勝利だ」
俺は背中のプラスチックバケツの鈍い痛みを少しだけさすりながら苦笑し、湯呑みの熱いほうじ茶をゆっくりと飲み干した。
激務に潰されて逃げ込んできた、この限界集落。
最初は一人で静かに暮らすつもりだったが、今では世界一尊いオッドアイの神獣と、最強のフランケンヒグマ、ミイラ化したキツネ兄弟、世界一キレのある女子高生、そして世界中から温かい視線を送ってくれる何千万人ものリスナーたちに囲まれた、世界一バグっていて温かい『絶対の聖域』になってしまった。
神獣の魅せるハロウィンの奇跡と、元需品科のブレない大豆ミート咀嚼、そして夜空に優しく響き渡るカボチャバケツの快音。
シマエナガと精霊たちに囲まれた、世界一バグって美しいハロウィンの夜は、立ち上るプラチナ温泉の湯煙と共に静かに幕を閉じ、物語はこれからの本格的な冬の防衛戦へと、どこまでも力強く続いていくのだった。
コメント
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わあああっ!第165話、読み終えたよ〜!!😭💕✨ もうね、シロ様のオッドアイ神バフで精霊たちがお行儀よく並んでトリック・オア・トリートしてる光景、脳内に完全に映像浮かんだわ…!可愛すぎて尊すぎて泣いた😭🎃💖 そして何よりアキヤお兄さんの「メタンガスの気流対流」って言い訳wwww流石にそれは無理あるって!小春ちゃんのカボチャバケツスマッシュが今回は特にキレッキレで、五千五百万人と一緒に爆笑したよwwwww 最後の縁側でシロ様抱っこしてほうじ茶飲むシーン、ほっこりしすぎて心が温かくなった…🫖💕 次の冬の防衛戦もめっちゃ楽しみにしてるよ!🌸
ゆうき あきや
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#心理描写重視