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心配で上がる心拍数。せわしなく動く指先。
呼吸器をつけられた彼は、苦しそうに顔を歪めた。
「ぁ…」
『ん…ぇ、まだいたの?』
「もちろん。心配だったし、なんせ友達だからさ。」
『友達って言ってもさ…君も先永くないんでしょ?』
彼は、荒い呼吸を繰り返しながらも、当たり前かのようにそう口にした。
辺りの空気が一気に重くなるのを感じた。
「…なんで?」
何故か開きにくい口を開け、彼に問う。
『点滴。俺と一緒。その点滴は、もう残り少ない人に投与される。』
「ぁ…」
『重い心臓病なんだね。』
「うん..まぁね。」
『君は生まれつき心臓が悪いの?』
「うん。そうだよ…ずっと入退院ばっか繰り返して、仕事もまともにできてなかった。」
『そっかぁ。俺は後天性。君よりしんどかった年数は少ないかもしれないけど、健康な自分を知ってるからなんかめっちゃ辛いんだよね。』
俺は後天性の心臓病の人と会ったのが初めてだった。
自分は物心ついた時からずっと苦しかったからわからなかった。
後から病気になるのは..とても辛いだろうな。
最初から制限されている俺らもとてもしんどいけど、今までできていたことが急にできなくなる。
それは、俺には耐えられないと思った。
「…大我はめっちゃ頑張ってるよ。」
『え?なんで名前知ってんの… 』
そう聞かれ、俺はベットの柵に掛けられたネームプレートを指さす。
「ベッドに書いてたから。」
『あぁ』
彼..大我は少し俯いて、何か納得したような顔で俺を見た。
『俺..全然頑張ってないよ。急に倒れて心臓病って言われた時にはもう手遅れで、すぐ余命言われて今ここ。情けないよ。』
「情けなくない。今ここで生きてる。心臓が動いてる。それだけで、もう十分なんだよ。」
『でも、生きてても意味が無いよもう。早く消えたい…なんてね。』
「そう思うのは分かる。俺だって何度も思ってきた。でも大事なのは、どう生きていくのかではなくて、死ぬ時に幸せで居られるかなんだよ。」
『…』
「良い死に方ができるように、今を精一杯生きるんだ。そうすれば、きっと幸せが待ってる。」
『…いい考え方だね。うん。頑張るよ。』
「ふふっ良かった。」
『名前聞いてなかったね。なんて言う名前?』
「森本慎太郎。」
『慎太郎。俺頑張るから、慎太郎も頑張れよ。絶対に。』
「わかってるよ。そうじゃないとフェアじゃねぇだろ。」
俺たちはそう、笑いあった。
彼の訃報を聞いたのは、その2週間後だった。
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