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ホビフェス当日、私は鬼塚君と待ち合わせていた。渡辺君も一緒に来るみたいだが、それにしても人が多い。
アニメやゲームのキャラクターになりきって歩く人、写真を撮る人、そして一般の参加者と様々な人がいる。
(迷子になりそう。)
「いたいた!白石さん!」
「どうも。」
2人と合流する。私達は一般の参加だ。
「凄い人だね。黒田君はどこかな。」
「多分向こうだろうね。」
仕切られたエリアの中には色々な作品のキャラクター達が並んでいた。お互いにポーズを決めたり、肩を組んで写真を撮ったりとみんな楽しそうだ。
「白石さん、ここではあいつを”セラウス”か”ダークフィールド”って呼んでね。」
「ダークフィールド?」
「あいつのハンドルネームです。黒田だから、ダークフィールド。」
「なるほど。」
本名で呼ばないよう気をつけて、と念を押されて黒田君の元へ向かう。
黒田君は他のキャラクターと一緒にポーズを決めていた。
(あの時の服だ。)
見覚えのある黒のロングコートに黒いエンジニアブーツ。
それとは別に普段の雰囲気とは違い、堂々とした佇まいと凛とした表情につい見惚れてしまう。
「白石さん。」
「あ、すみません、ちょっとぼーっとして。」
「かっこいいでしょう。」
「•••はい。普段と全然違う。正直に言うと、ちょっと見惚れちゃいました。」
「あいつは、いつでも俺のヒーローなんだ。俺なんかより、ずっとずっと、かっこいい奴なんです。」
鬼塚君が優しく黒田君を見ている。
「遅かっ•••白石さん、どうも。」
役になりきり何かを言いかけた黒田君に思わず笑みが溢れる。
「ふふ、いつものダークフィールド君だ。」
「そろそろ撮影終わりそう?」
「まだかかりそうだ。ゼクス達とまだ出会っていないからな。エッジウォーカー(渡辺君)も級友達とまだまだ話が尽きなさそうだ。」
鬼塚君の前ではどうやら隠しきれないらしい。
「じゃあ、俺と白石さんは向こうの出店でなにか食べてるから、終わったら合流な。 」
「任せたぞ。」
「行こ、白石さん。」
黒田君に手を振り、鬼塚君と一緒にキッチンカーが並ぶ出店ブースへ移動する。
鬼塚君とコーヒーを買い、2人と合流するのを待つ。
いつもと違う表情の黒田君をついつい目で追ってしまう。
「白石さん、さっきからあいつばっかり見てるね。」
「え、あはは。 」
ニヤニヤしながらこちらを見てくる鬼塚君に愛想笑いで返すしかなかった。
「そういえば、鬼塚君にとって黒•••ダークフィールド君がヒーローって?」
「あぁ、そのまんまだよ。」
鬼塚君はコーヒーを置く。
5年前、高校1年生の春
鬼塚は先輩や同級生と一緒に朝練に励んでいた。
“あの子じゃない?噂の1年生!”
“サッカーも天才って言われて、プロのスカウトあったんでしょ?”
“あいつ鬼塚って言って、友達なんだ。”
“紹介してあげるから、連絡先教えてよ。”
フェンスの外には人集りが出来ており、そんな会話が聞こえる。
「あーあー、いいよな、天才様は。」
「なんでこんな所に来たんだろうな。」
鬼塚にとって聞こえるように嫌味を言われるのもいつもの事だ。
(天才なんかじゃないのに。あいつも誰だよ、友達じゃねぇよ。)
誰よりも早く学校に来て練習を始めたのも、場所を変えて遅くまで練習をしているのも鬼塚1人だけだった。
フェンス越しに女の子が声をかけてきた。
「ねぇ、鬼塚君、サッカー上手だね。本当に天才なんだ。」
「あはは、ありがとう。」
愛想笑いも気付けば敵を作らないために身につけた自分を守るための武器。
(必要以上に敵を作ることもない。 みんな自分の本当の姿を見てはくれないんだから。)
「なぜ己の努力を否定するんだ?」
「え?」
初めて見る顔が立っていた。鬼塚は驚いてその男の子を凝視している傍らで、女の子の顔が曇る。
「誰よりも努力を重ねているのに、天才という言葉でそれを片付ける必要はないだろう。」
その声は他の部員達にも響くような大きさだった。
「はぁ•••、黒田行くぞ。」
そう言って溜め息をつきながら後ろから出てきた男子に引きずられて行った。
「今の、誰?」
「1年4組の黒田っていうんだけど、凄い変な人だから、鬼塚君も近づかない方がいいよ。」
「黒田•••。」
休み時間になると鬼塚は黒田を探した。
ちょうど階段を下りる姿が見えた。
「黒田!」
黒田ともう1人いる男子が振り返る。
「朝、なんであんな事言ったの?」
「朝?あぁ、あの事か。造作もない。知ってたからな。誰よりも朝早く鍛練を積み、夜も公園で特訓をする。あいつらよりずっとボールと対話をしてきたんだ、天才的なセンスもあるだろうが、努力が貴様を裏切るわけなかろう。」
「!」
鬼塚の心に初めて軽くなる感覚がする。
「黒田、痛いぞ。」
「渡辺も好きだろ、セラウス。」
「黒田!俺、2組の鬼塚っていうんだ!よろしくな!」
「黒田 レオだ。こいつは渡辺。」
「渡辺もよろしくな!」
「あ、あぁ。もしかして、鬼塚もゲームとかアニメ好きなのか?」
「全然!全くわからない!」
その言葉に当日の渡辺は少し警戒していたが、その後も付き合いが続くのだから杞憂に終わるのだった。