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⚠️注意書き
・恋愛
・ちょい異世界?
・緑黄
・魔女設定
・下手っぴ注意報
壁に掛かった時計盤の短い針が、真上に達した時間帯。
街の街灯も薄くなり、この辺りには夜空の色が反射している。
電気ひとつ付けず、全開に開いた大きな出窓のカウンターに両腕を乗せた。
部屋の中は、
出来るだけ詰め込んだ本棚と、
無駄に豪華な装飾が施された、純白の広いベッド、
その隣に置かれた、小さな勉強机、
そして、外からも部屋の中が見られるほど大きな出窓で圧迫されている。
昼間、屋敷は戦場のように騒がしい。
お父様の怒鳴り声と、
お母様の、キンと響く叫び声。
機嫌のいい時にのみ聞こえる、お祖父様の上擦った褒め言葉。
使用人達の廊下を走る足音。
謝罪の声。
料理を運ぶ台車の音。
ドアを何度も叩かれる音。
壊れそうなくらいドアノブを激しく引く音。
鍵同士がぶつかる不協和音。
息つく間もなかった。
元々はこの部屋も、もっと安らげる場所だったはずなのに、
これじゃあ息が詰まって余計に落ち着かない。
半透明の白いカーテンが、夜風に靡いた。
今夜も、静かな夜が続く。
__カタッ
👑「……?」
下の方で物音がした。
気になって、窓の外へ身を乗り出す。
すると、
🍵「わあっ、!?」
👑「え、?」
人がいた。
同い年くらいの、男の子。
紺色の夜空よりも、さらに深い黒の羽織を着て、
頭には、つばの広い、こちらも真っ黒なとんがり帽子。
黒い陰から覗く紅色の瞳が、異様に不気味だ。
バランスを崩したのか、不安定に箒に乗って、空に浮いていた。
首から下げたペンダントには、
噂で聞いていた複雑な紋章。
__ “ 魔女 “
前に、お父様とその遣い達が話していたのを、廊下で盗み聞きしたことがあった。
人間と魔女が敵対し始めたのは、ここ数年のことらしい。
理由は知らないけれど、
多分、お互いに気に食わないことがあったんだろう。
敵対する前は、両者共にのびのび暮らしていたみたいだけど。
『人間と魔女は共生出来ない。』
『人間は魔女に食われる。』
『魔女は特殊な力を使って人間を洗脳する。』
いつからか、そんな噂が世の中に定着していった。
👑「……、えっと、」
絵本の中では飽きるくらい見た事があったけど、
今、産まれて初めて本物の魔女を目の前にすると、
どう接すればいいのか分からない。
🍵「…きみ、おーさま?」
👑「え…?」
王様とは、お父様のことだろうか。
俺は首を横に振った。
👑「いや…、」
🍵「じゃあ、その子供?」
👑「うん…、」
何故いきなりそんなことを聞くのか、
流されるままこくんと頷く。
🍵「寝ないの?」
不思議そうに、首をこてんと傾けて聞いてきた。
👑「…眠れなくて」
目線を下げて答える。
最近は特に、ベッドに入る気も出なくなってきていた。
🍵「…それじゃあ、一緒に乗る?」
👑「…へ、?」
目の前にいる魔女は、乗っている箒らしきものを指差してそう言った。
” 乗る “?
乗るって、その箒に?
👑「いや、流石に無理じゃ…、」
🍵「大丈夫だよ、」
🍵「信じて?」
真っ直ぐに此方を射抜く視線に押されて、断ることが出来なかった。
👑「…なら、ちょっとだけ、」
🍵「ん、どうぞ」
胸の奥ではワクワクしながら、
差し出された手に俺の手をそっと重ねる。
そのまま引っ張られると、体は思ったよりも軽く跳ね、箒の柄にすとんと落ちた。
少し強い風が吹く街の上空を、ひとつの影が通り過ぎる。
👑「…うわぁ、、っ✨️」
足元に目を向けると、ぽつぽつと光の粒が見えた。
頭の上には、キラキラと輝く星空が。
その中でも、一際目立つ満月。
真夜中の空を、2人で横並びになって静かに眺める。
🍵「お名前、なんて言うの?」
👑「みこと…、」
🍵「じゃあ、みことちゃんね、」
👑「あ、うん…」
そこで会話が途切れ、再び静寂が流れる。
行く宛てもなく空を彷徨って、もう1時間くらい経っただろうか。
この間に、魔女さんのことを色々と知れた。
名前はすちくん。
見習いの魔女で、
覚えた魔法はまだ少ない。
首にも彫られた、ペンダントと紋章に、輪っかが増えると1人前らしい。
見た目は俺と同じくらいだけど、もう500歳は越えてるって。
この街には今日初めて来たみたいで、
空を飛んでたらバランスを崩して、そのまま俺の部屋の窓に辿り着いた、
ということらしい。
そして、間もなく、街一番の時計台が見えてきた。
🍵「おっきいね…」
👑「街で一番高い建物だから」
👑「今はもう使われてないけど」
昔、短針が外れて、大通りに落下した事故があり、何人も死んだ。
それ以来、老朽化とか危険とかいう理由で動かなくなった。
それまでは、0時に遠くから聞こえてくる均一された旋律が好きで、
親に隠れて日を跨ぐまで起きていたこともあった。
今となっては、12分を指して止まっている長針のみが残っている。
🍵「みことちゃんは物知りだね」
👑「そうかな…?」
👑「お父様とお母様にたくさん教わってきたから…」
気付けばもう屋敷の前。
空に浮く月も、いつの間にか違う所へ動いていた。
屋敷に戻ったら、また朝が来て、昼が通り過ぎで、夜を迎えて…。
あの嫌な喧騒が絶えない日常が戻ってくる。
部屋に帰りたくなくて、
この静けさをまだ堪能したくて、
箒の柄を握りしめた。
🍵「…みことちゃん、そろそろ降りないと、、」
👑「…うん」
口ではそう言いながら、体は鉛のように重い。
🍵「…じゃあ、魔法かけてあげる」
👑「え、?」
箒の柄を握っていたすちくんの手が離れ、
そのまま俺の手にそっと絡められる。
🍵「一人でも寂しくないように、ね?」
右手から伝わる温かさが、心地良い。
体も幾分か軽くなった気がした。
🍵「おやすみ、また今夜、」
👑「おやすみなさい…」
すちくんの姿が遠ざかり、一人、部屋の中に取り残された。
手には未だに、あの温もりが残っている。
魔法が解けないうちに、俺はベッドの中に潜り込んで、溶けるように眠りについた。