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memi(めみ)
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この狭い車の中では、お互いの言葉が近すぎると思ったのかもしれない。
公園の駐車場に車を停めると、こーじくんは何もなかったかのように俺に話しかけてきた。
「マクドでコーヒー買ってええか?ラウは何にする?」
「じゃあ、俺もコーヒーで。」
じゃあ車で待っててな、というとさっと店に向かって行った。
俺はいつも待たされるばかりだ。
今も、ふっかさんの家でも、打ち合わせでも。
本当はもっと言いたいこともたくさんあるし、話もたくさん聞きたいし、もっとかっこいいところを見せたいのに。
なぜだろう、こーじくんの前だとうまく行かない…。
そんなことを考えていると、小走りでこーじくんが帰ってきた。
「はい、これ。ちょっと砂浜、歩こうや。」
「うん…」
深夜のお台場なんて、ほとんど人なんていやしないと思っていた。
なのに、カップルと思わしき男女がぽつり、ぽつりと適度な距離をおいて座っているじゃないか。
そんなデッキを尻目に、コーヒーを片手に海岸の奥、ひと気が少ない所に向かって二人で歩く。
ざ、ざ、ざ…。深夜の静かな海辺に砂を踏む音が耳につく。
砂に足を取られるせいだろうか、歩みが重く感じる。
なのに、歩幅だけはいつのまにか揃っていて、それが少しだけ可笑しかった。
周囲から離れた、少し岩場になるが座れそうな所に着くと、こーじくんは「ここでええか」と座った。
俺も隣に腰をかける。
「あんな、ラウ。俺もやりたいこと、いっぱいあんねんな。」
やっぱり、そうだったんだ…。
「でも、一番やりたいことはいつも一つだけなんやで?」
「それ教えてよ。みんなの前でちゃんと話してよ?」
「うん…。俺が一番やりたいことな、皆んながやりたいことを実現させることなんよ。」
「…」
「今日もみんなあれやりたい、これはどうだって言うてたやろ?
それを全部やりたい。
みんながやりたいことやって、ファンのみんなが喜ぶこと、やって見せたい。
それだけなんよ。」
俺は黙ってこーじくんの話を聞いた。
「どうしたら全部できるのかなって考えるんやけど、難しいこともいっぱいあるやん?
なんかええ方法ないかなぁ、って考えている間にどんどん話が進んでいくねん。
で、あっという間に解決しとる。
だから、俺が口を挟む必要ないんよ。」
「うん…」
「言いたいこと、我慢しているわけじゃないんやで。
これはほんまに。それは信じてな。」
もちろん信じるよ。
この人は嘘をつけない。
よく知ってるよ。
「心から信じているから、俺も安心してみんなの話を聞けるんよ。」
だから。
「ラウ…そんな悲しい眼しやんといて?」
そう、俺も本当は知っているんだ。
俺としょっぴーのやりたいことがぶつかって揉めた時。
こーじくんがさりげなく新しい話題を振ってくれたおかげで雰囲気が和らぎ、結局うまくまとまったこと。
佐久間くんがグッズのことでスタッフさんと揉めた時。
二人にスマホで何かを見せて「これならいけるんちゃう?」とか言って、間を取り持っていたこと。
そうだ。
この人はいつも面白いことやふざけてばっかりだけど、本当は人のことを一番に考えている。優しさに溢れた人なのだ。
「えーっと、これでラウの質問の答えになったんかなぁ?
違かったらごめんな。
でも、言いたいことがあるときは、ちゃんと言えてるで?」
しどろもどろになるこーじくんを見ると、ちょっとだけ面白くなってきてしまった。
「うん、わかった。
本当に言いたいことがあるときは、絶対に言ってよ?」
「おぉん、もちろんそのつもりやし。
我慢なんか、せえへんで?」
コーヒーはまだ暖かい。
俺はそれを一気に飲んだ。
「うぉ、あっつ!」
「何してんねん…」
こうして二人で笑い合えるのは、あと何回あるのだろう。
明日も来年も何十年後も、こうしてみんなで笑っていたい。
そのために俺はいま、この瞬間を頑張ろう。
コメント
1件
いやあ、第3話、めっちゃ良かったです。「みんながやりたいことを実現させること」っていうこーじくんの本音、グッときましたね。あの人の優しさって、言葉じゃなくて行動やさりげないフォローで証明しちゃうところに真実味があるから、ラウくんが「これこーじくんの前だとうまく言えない」って悩んでるのが逆にリアルでいい。深夜の海岸で二人揃ってった歩調が可笑しい、っていう細かい描写も好きです。どうしても、笑顔を取り戻そうとする小さな感じがじわじわきますね。次が気になる。