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第151話:日本一寒い町(陸別)からの着信〜数年ぶりの毒親〜
「……ふぅ。やっぱり、自分で汗水垂らして(?)稼いだドルで食う飯は美味いな」
帯広のボロアパート、四畳半。
俺は三万円のゲーミングチェアの上で深く身体を沈め、噛めば噛むほど味が出る、玄米おにぎりをモソモソと頬張っていた。
アメリカ合衆国内国歳入庁(IRS)との死闘『W-8BEN』を制し、地獄の消費税計算に脳ミソを焼き切られかけたあの恐怖から数日。
俺たちの『株式会社インフィニティ・ワン』は、今日も相変わらず海外からのドルの雨に包まれていた。
PCモニターの画面の中では、我が社の看板VTuberである猫耳娘『ヨモ』が、あくび混じりの雑談配信を続けている。
『Yeah, my bottom boss somehow survived the tax hell. Now he’s eating brown rice with a happy face. What a simple creature.(そうそう、うちの底辺ボス、なんか税金地獄を生還したっぽいよ。今は幸せそうな顔で玄米食ってる。実に単純な生き物だね)』
『SuperChat: $100.00 (Congrats on surviving IRS, Boss!! Buy some sushi!)(スパチャ100ドル:IRS生存おめでとう社長!! 寿司でも食いな!)』
『SuperChat: $50.00 (Is brown rice good for tax panic? LOL)(スパチャ50ドル:玄米って税金パニックに効くの? 笑)』
「おいヨモ。俺の生存報告でスパチャを集めるんじゃない。あと寿司を買う余裕なんてねえよ、来年の確定申告用に全部プール(蓄金)しとかなきゃならねえんだからな」
俺が裏回線で愚痴をこぼすと、スピーカーから結愛(ゆあ)の氷点下ボイスが流れてきた。
『素晴らしい税務意識ですね、ルシフェル様。税金の恐怖を骨の髄まで叩き込まれた甲斐がありました』
「褒めてんだよなそれ? ……まあいいや。とりあえず、平和が一番だ。もう為替もアメリカの税務署も関係ねえ。俺はただ、この四畳半で静かに暮らせればそれで……」
その時だった。
机の上に転がされていた俺のスマートフォン(個人用の安いAndroid)が、ヴヴヴ……と不気味な振動を始めた。
「ん? 誰だ……? 営業電話か?」
画面を覗き込んだ俺の全身から、一瞬で血の気が引いた。
液晶ディスプレイに表示されていたのは、連絡先ディレクトリの奥底、もう何年もスクロールすらしていなかった名前だった。
【親父(陸別)】
「ひっ……!?」
俺は思わず喉の奥で変な悲鳴を上げ、持っていたおにぎりを落としそうになった。
『どうされました、ルシフェル様。急に情けない悲鳴を上げて』
「ゆ、結愛……っ! で、出た……! 悪霊だ……っ!!」
『悪霊? 市役所のケースワーカーである鈴木様からの着信ですか?』
「鈴木さんよりタチが悪い!! 俺の本当の親父だ!!」
俺の叫び声に、画面の向こうで結愛がキーボードを叩く手を止めた。
俺の親父。
俺がまだ自衛隊にいた頃、身勝手な借金とパチンコ癖で家族を捨てて蒸発し、おふくろと正式に離婚した、我が秋谷家の最大にして最悪の恥部。
数年前に風の噂で、北海道で最も寒さが厳しい『日本一寒い町・陸別町(りくべつちょう)』のアパートに一人で潜伏していると聞いて以来、俺は一切の連絡を断っていたはずだった。
「なんで……なんで俺の携帯の番号を知ってんだ……!? 変えたはずなのに……っ!」
『ルシフェル様、落ち着いてください。電話帳の同期や、親族関係の書類手続きなどから番号が漏洩した可能性があります。関わるとロクなことになりません。即座に着信拒否を』
結愛の冷徹なアドバイスに従い、俺が震える指で赤ボタン(拒否)を押そうとした、まさにその瞬間。
着信が切れ、間一髪でメッセージアプリに通知が飛んできた。
【親父:おい雪。電話に出ろ。お前がネットでなんかデカい会社やって、何百万も儲けてるって噂、陸別まで届いてるぞ】
「ガハッ……!?」
俺は吐血しそうな衝撃を受け、胸を押さえた。
「な、なんで……!? なんで陸別のボロアパートに引きこもってるクズ親父が、俺のVTuber会社の存在を知ってんだよォォォ!!」
『恐らく、陸別町のコンビニ等で売られている情報誌か、あるいはSNSのミーム動画、もしくは近隣住民の噂話経由ですね。地方の狭いコミュニティにおける「あそこの息子がネットでバズってる」という情報伝播スピードを舐めてはいけません』
ジェミニ先生が、恐ろしいほど客観的なデータを提示してくる。
「嘘だろ……。俺の秘匿された四畳半生活が……こんなところで破綻するなんて……!」
俺が頭を抱えてのたうち回っていると、再びスマホが強烈に震え出した。
画面には容赦なく表示される【親父(陸別)】の文字。
『……ルシフェル様。ここで無視し続けても、陸別町から帯広のボロアパートまで直接乗り込んでこられる危険性があります。まずは通話を録音した上で応答し、相手の目的を特定してください』
「うぅ……わかったよぉ……」
俺は涙目になりながら通話ボタンをスワイプし、スピーカーモードにしてスマホを耳から遠ざけた。
「……もしもし」
『――おう、雪かぁ? 久しいなあ、元気にしてたか?』
スピーカーから流れてきたのは、酒とタバコで焼け焦げたような、不快極まりないダミ声だった。
何年も聞いていなかった、だがトラウマのように脳にへばりついている俺の父親の声だ。
「……何の用だ。俺はもうお前とは縁を切ったはずだぞ。なんでこの番号を知ってる」
俺が冷たく突き放すと、電話の向こうで「カッカッカ」と不気味な笑い声が響いた。
『冷たいこと言うなや、実の親子だろ? いやあ〜、驚いたぞ俺は! 陸別のセイコーマートで知り合った奴から聞いたんだ。「お前の息子、ネットでVTuberの社長やってて、毎月何百万もスパチャで稼いでるらしいぞ」ってなぁ!』
「っ……!」
『いやあ、流石は俺の息子だ! 自衛隊も介護も辞めてどうなるかと思ってたが、やっぱり俺の血を引いてるだけあって、ギャンブルセンス(?)があるんだなあ!』
「勝手なこと言うな! 俺は地道に働いて……!」
『まあ固いこと言うな! 経営者(社長)なんだろ? 儲かってんなら、ちょっとくらい親孝行してくれてもバチは当たらねえよなあ?』
ねっとりとまとわりつくような、完全なる『タカリ』の気配。
日本一寒い町・陸別町から届いたのは、冬のしばれ(極寒)よりも冷たく、そしてドロドロに腐敗した【毒親】からの恐怖の通告だった。
俺の平和だった四畳半生活に、新たな暗雲が立ち込め始めていた。
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레몬인
201
そあち♡໒꒱
88
なんたろ
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コメント
1件
第151話、読んだよ……「親父(陸別)」の着信だけでここまで恐怖を描けるの、すごい。ルシフェルの「悪霊だ!」って叫びに笑いそうになったけど、同時に心臓がギュッてなった。結愛の即座の「録音して応答」プロ並みでカッコよかったな。 それにしても、数年ぶりに連絡してきて「儲かってるんだろ?親孝行しろ」って……典型的な毒親の構文すぎて読んでて胸が痛んだよ。でもルシフェルがちゃんと拒否してるのが救い。 日本一寒い町からの、これ以上に寒い着信。この先どうなるんだろう……次がすごく気になる🌙 **ゆうきさんへ** このエピソード、単なるドタバタじゃなくて家族の重いテーマをちゃんと描いてるのが伝わってきた。大切な話を書いてくれてありがとう。また読ませてね。