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#ロマンスファンタジー
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同じ頃――。皇宮・皇太子執務室。
「……まだ、足取りは掴めてねえっす」
「そうか」
机に向かったまま、カイルは感情を押し殺した声で答えた。
「帝都と主要街道には、引き続き兵を配置。駅馬車と宿屋も片っ端から確認中っす。念のため、ヴァンクロフト公爵邸に出入りする馬車も監視させてます」
「頼む」
「御意」
ギルバートが踵を返しかけた――その時。
「待て」
「はい?」
「昨日の黒魔法事件を、もう一度最初から洗い直す」
「……今からっすか?」
「何か問題でも?」
「いえ! 滅相もねえっす!」
射抜くような視線を向けられ、ギルバートは即座に背筋を伸ばした。カイルは、机に積まれた書類へ目を落とす。
横領事件で消えた500万ルク。黒魔法に利用された山羊。実体のない幽霊商会。
(本当に――すべて無関係なのか?)
「昨日、礼拝堂の裏で見つかった山羊の耳標から、販売元の家畜商を割り出せ」
「はい」
「そこの売上台帳と納品控えを確認して、誰が買ったのか追え。買い手が分かったら、その取引も洗え」
「…………」
「何だ」
「いやぁ……」
ギルバートが頭をぽりぽりと掻きながら、口元を緩めた。
「ずいぶんと『あの方』のやり方に似てきたなーと思いまして」
「ギルバート」
「すんません! 今すぐ行ってきますっ!!」
脱兎のごとく部屋を飛び出していく。扉が閉まり、執務室に静寂が戻った。以前の自分なら、黒魔法と横領など、まったく別の事件として処理していただろう。
だが――。
『一枚の帳簿だけ調べるんじゃダメよ』
得意げに帳簿を指差すソフィアの姿が、鮮明に蘇る。
『取引先、発注元、支払い記録。違う資料をいくつも突き合わせれば、どこかで必ず辻褄が合わなくなるわ』
『全体を俯瞰して見ることで――隠されていたものが見えてくるのよ』
「…………」
カイルは帳簿を一枚めくった。
(お前なら――どう見る、ソフィア?)
ふと、左胸へ手が伸びた。内ポケットから取り出したのは、昨夜ソフィアが残していった白いハンカチ。
「……お前は一体、何を考えている?」
『今から私と、恋人になりませんか?』
あの夜。酒場の宿で抱きしめた身体の温もりまで蘇る。
あの言葉も。あの時間も。すべて偽りだったとは――思えない。ハンカチを握る手に、ぎゅっと力がこもった。本当は今すぐにでも、彼女を捜しに行きたかった。だが、自分には一国の皇太子として、民を守る義務と責任がある。
「…………」
カイルはハンカチを、再び左胸の内ポケットへしまった。
(必ず見つけ出す)
そのためにも――。今、自分がやるべきことを片づける。カイルは再び、帳簿へ視線を戻した。
***
その日の夕刻――。
「殿下ッ!!」
バンッ!勢いよく扉が開いた。
「出ましたぜ!」
ギルバートが、分厚い資料の束を机へ置く。
「何が分かった」
「まず、昨日の山羊っす。耳標から販売元の家畜商を割り出して、売上台帳を調べました」
一枚の書類を差し出す。
「買い手は、この商会です」
カイルは商会名を見るなり、眉を寄せた。
「……この名は。やはりか」
すぐに横領事件の資料を引き寄せる。
「ヴァルド商会から流出した500万ルク。その資金が経由した幽霊商会の一つだな」
「そういうことっす」
「実態は?」
「登記上の代表者は偽名。所在地にあるのは空っぽの倉庫だけ。事務所も従業員も存在しねえ」
ギルバートが肩をすくめる。
「……典型的な幽霊商会っすね」
さらに別の帳簿を開いた。
「山羊、羊、豚、牛……」
カイルが指先で数字を追う。
「……この数日だけで、異常な頭数を買い付けているな」
「ほとんどが、帝都外れの家畜商からっす」
「市場へ転売した記録は?」
「一件もなし。それと――」
ギルバートが地図を広げる。
「家畜商の周辺で聞き込みしたところ、数日前、家畜を積んだ荷馬車が何台も貧民街方面へ向かったって目撃情報が入りました」
カイルの目が鋭く細められる。
「……最初から、黒魔法に使うために買い集めていたのか」
「可能性は高いっすね」
ギルバートが、さらに分厚い資料の束を引き寄せた。
「この幽霊商会、設立されたのは10年前。資本金はたった1万ルクっす」
「たった1万ルクの商会が、10年間これだけの取引を?」
「おかしいっすよね。だから捜査班を総動員して、この商会と取引していた業者を片っ端から洗いました」
カイルが納品記録をめくる。
「小麦」
「干し肉」
「塩、保存食……」
ギルバートが眉をひそめる。
「食料だけでも、買い付け量が尋常じゃねえんすよ」
カイルは次の記録へ視線を移した。
「あとは……鉄製品?」
「違うな」
「え?」
「品番を見ろ」
カイルの指先が、一つの番号で止まった。
「鉄製品として処理されているが――これは軍用剣だ」
「……は?」
「こっちは槍」
一枚めくる。
「弓」
さらに。
「盾。防具一式……」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ……」
ギルバートが息を呑み、机へ身を乗り出した。
「それって――」
「まだある」
カイルは最後の納品記録を、机へ広げた。
「馬だ」
「……農耕用の馬っすか?」
「品種と血統を見ろ」
「…………」
ギルバートの顔から、みるみる血の気が引いていく。記載されているのは、すべて戦闘に耐えうる品種。
「軍馬だ」
重苦しい沈黙が、執務室を支配した。大量の保存食。武器と防具。そして――軍馬。ギルバートは、普段のおどけた表情を完全に消していた。
「これだけの物資……」
ゆっくりと顔を上げる。
「軍隊一つ、丸ごと養えますぜ」
コメント
4件
この事件と孤児院の騒動って多分繋がってますよね…? その場合ソフィアとカイルが協力して解決するのかな? そうじゃなくてもworkだ〜〜
**はる。** ついに一気に繋がってきたな…!山羊と横領、幽霊商会が一つに重なった瞬間のカイルとギルバートの緊張感がヤバかった。カイルがソフィアのハンカチを胸に仕舞いながら「今やるべきことを」って切り替えるところ、隠しきれない未練と決意が滲んでて胸に来たわ。ラストの「軍隊一つ養える」は冗談抜きの恐怖。次が待ちきれない🔥