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ジクウ画家 あらすじ
『ジクウ画家』は、
時代を旅する画家・磁馬の、静かな旅の記録である。
磁馬は、昭和、江戸、令和と平成。そして遠い未来まで、さまざまな時代を歩きながら絵を描いて暮らしている。
過去でも未来でも、 磁馬がやることは変わらない。
道を歩く。
腹が減ったら食べる。
気になった景色の前で立ち止まる。
そこで暮らす人と話す。
そして、絵を描く。
古い商店街の夕方。
団地のベランダに揺れる洗濯物。
未来駅を行き交う人々。
江戸の橋の下を流れる川。
温泉街の夜景。
磁馬は、その時代の「なんでもない時間」を描き続ける。
だが、磁馬の絵には、普通の絵にはない不思議がある。
描き終えたはずの絵の中で、 時間だけがゆっくり流れ続けるのだ。
雲が流れる。
影が伸びる。
草が伸びる。
花が散る。
工事中の橋が完成へ近づく。
描かれた子供が少しだけ成長することもある。
その変化はとても静かで、 見逃してしまうほど小さい。
けれど磁馬は、 景色だけではなく、 そこに流れていた時間そのものを描こうとしている。
そんな磁馬には、 旅の中で大事にしている決まりがある。
持っているものを落としたら、 見つかるまで絶対に帰らないこと。
使ったものや不要になったものは、 買った時代にいき、きちんと片づけること。
食べ物は、 今いる時代で手に入れるか、 磁馬が暮らす現代から持っていくこと。
そして、 出会った人には良くすること。
だから磁馬は、 旅先で出会った人を放っておけない。
困っている人がいたら手伝う。
一緒に落とし物を探す。
奢ってもらった食事には、 必ず絵を返す。
言葉が通じない時代では、 隠れて訳機をのぞき込みながら、 なんとか会話を続ける。
だが磁馬は、 かなりの頻度で物を落とす。
ペン。
ペン先。
湯札。
小銭袋。
スケッチ帳。
布包み。
そのたびに、 磁馬は帰れなくなる。
落とし物を探して、 町を歩き回る。
商店街の少年と探す。
魚売りの少女と川沿いを歩く。
未来の案内係と駅を巡る。
温泉宿の人たちと夜の坂道を探す。
そうしているうちに、 磁馬はその時代を生きる誰かの日常へ入り込んでいく。
大事件は起きない。
歴史も変わらない。
けれど、 その時代で確かに生きている人々の時間が、 少しずつ磁馬の絵へ残されていく。
絵の中では、 出会った人々が今日も動いている。
湯けむりが流れる。
列車の窓の外が暗くなる。
商店街の灯りが点く。
未来駅の案内表示が切り替わる。
誰かが笑う。
誰かが歩く。
誰かが少しだけ大人になる。
『ジクウ画家』は、 歴史を変える物語ではない。
時代の中で生きる人々を、 静かに描き残していく物語である。
湯けむりの向こう。
夕暮れの坂道。
静かな駅。
夜の商店街。
その場所に確かにあった時間を、 磁馬は今日も歩きながら描いていく。
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