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「我が同胞を……、我らの誇りを、ただの娯楽と踏みにじったなァアアアッ!!」
案内役の武士のリーダーが、血涙を流さんばかりの絶叫と共に先陣を切った。 生き残っていた武士たちもそれに続き、一斉に刀を抜いて殿様とその側近めがけて突撃する。彼らの刀には、怒りと悲しみによって限界まで増幅された、凄まじい高圧の雷光がパチパチと狂ったように奔っていた。
「愚かな虫ケラどもが。まとめて私の刀の錆にするが良い!」
殿様が冷酷に笑い、合図を送る。 拷問部屋の薄暗い天井裏や、石柱の影、拷問器具の陰から、どろりとした気配と共に、今までとは比較にならないほどの数の百々目鬼たちが這い出してきた。 恐怖の「紫色」、孤独の「青色」、そして最悪の凶暴性を剥き出しにした「赤色」――その数、数十体。拷問部屋を埋め尽くす異形の群れが、武士たちへと襲いかかる。
ズガガガガアン!!
先陣を切った武士たちの雷の刃が、最戦線の赤の百々目鬼の肉体を深く切り裂く。流石は城の精鋭、一歩も引ずに電撃を浴びせ、敵の動きを強引に止めていく。しかし、あまりにも数が多すぎる。左右の死角から、青と紫の鋭い爪が武士たちの隙を狙って突き出された。
「武士の皆様、そのまま前へ! 左右と後ろは私たちがやらせてもらうわ!」
その乱戦の最中、葵が勇敢に叫びながら一歩前へと躍り出た。 彼女が懐から取り出した何枚もの木の葉を口元に当てて、鋭く清らかな口笛を吹く。
「みんな、あの異形たちを包囲して! ――『鳥獣化(ちょうじゅうか)の術』!」
葵の呼びかけに応じ、城の地下に巣食っていた数千、数万という数のコウモリやネズミ、そしてどこからともなく集まってきた狂狂な野良犬の群れが、拷問部屋の全域を埋め尽くした。葵の桃色の魔力を宿した獣たちは、一瞬で巨大な怪鳥や猛獣の幻影へと「化け」、凄まじい咆哮を上げて百々目鬼の群れの側面へと突っ込んでいく。
「ギ、ガァッ……!?」
無数のコウモリの幻影に視界を覆われ、野良犬たちの牙に足を止められた百々目鬼たちが、完全に統制を失って一箇所に固まった。葵の動物術による、完璧な「戦場コントロール」だ。
「よし、みんなナイス! 隙だらけだよ、正一!」 「あはは! さすが葵、最高のタイミングだ!」
いつもの明るい調子で、陽気に笑いながら正一が葵の横へと滑り込む。誰にでも好かれる、彼のいつもの眩しい笑顔。 だが、その笑顔のまま、正一の瞳から一切のハイライトが消え失せた。
「……さあ、僕の葵を『娯楽』にしようとしたゴミ蜘蛛ども。一匹残らず消えてよ」
正一が左手を天にかざすと、彼が握り締めていた何十枚もの漆黒の呪符が、生き物のように空中に舞い上がり、葵の動物たちが一箇所に固めた百々目鬼たちの頭上へと、五月雨のように降り注いだ。
「我が怨詛を以て、魂の髄まで腐れ落ちろ――『蟲毒・極大壊蝕(ごくだいかいしょく)』」
正一が冷酷に指を鳴らした瞬間、降り注いだ呪符が一斉に爆発し、ドス黒い呪いの霧が津波となって百々目鬼たちを飲み込んだ。 無機物を介さない、純粋な呪殺の極致。
「ガ、アアアアアアァァァーーーッ!?」
呪いの霧に触れた瞬間、数十体の赤、紫、青の百々目鬼たちの身体が、ドロドロとした黒い泥へと一瞬で腐食していく。葵の術で足止めされ、正一の呪いで確実に一網打尽にされる。二人のあまりに美しく、解釈違いのない完璧なコンビネーションが、拷問部屋の絶望的な戦況をわずか数秒でひっくり返した。
「な、んだあの一味は……! 刀も持たぬ学生が、これほどの大群を瞬く間に……!」
殿様の側近たちが、二人の圧倒的な強さと、正一の放つ悍ましい呪気のギャップに恐怖して腰を抜かす。 大群が消滅した後に残されたのは、かつて無念の死を遂げた武士たちの、特殊な幾何学模様が深く刻まれた『刀の鍔(つば)』の山だった。
「残るは、お前だけだ……殿ォッ!!」
先陣を切っていた武士のリーダーが、ついに殿様の目の前へと到達し、雷光を纏った白刃を振り下ろした。
「チィッ……! 刀も持たぬ学生の分際で、私の計画を……!」
殿様が防戦一方で自身の刀を抜くが、葵の動物術で動きを狂わされ、正一の呪気によって魔力を著しく削がれた殿様に、城の精鋭たちの怒りの一撃を防ぐ力はもう残されていなかった。
パキィィィィン!!!
凄まじい雷撃と共に、殿様が持っていた妖術増幅の刀が、根元から粉々にへし折れた。
「が、はっ……!?」
力の源を失い、さらにこれまで自分が無罪の武士たちに与えてきた「呪い」が、刀の崩壊と共に殿様自身の身体へと逆流し始める。
「う、嘘だ、私が、私がこのような……ギャァアアアアアァァァッ!!」
殿様は自らが乱用した拷問の呪いに生きたまま喰われ、自らのストレスと娯楽のために生み出した地獄の部屋の底へと、悲鳴を上げて消滅していった。
静まり返る拷問部屋。 崩れ落ちる拷問器具の隙間で、葵はふぅ、と小さく息を吐いた。
「終わった……のね」
「うん、終わったよ、葵。怪我はなかったかい? どこも痛くない?」
周囲を埋め尽くしていたドス黒い呪詛のオーラを瞬時に消し去り、正一はいつもの、誰にでも好かれる明るい陽キャな少年の笑顔に戻って葵の手を握りしめた。そのあまりの変わり身の早さに、生き残った武士たちはゴクリと息を呑んだが、今や二人は、この町の闇を払った最大の英雄だった。
「少年、お嬢さん、感謝する。お前たちの力のおかげで、我が同胞たちの無念を晴らすことができた」
武士のリーダーが、地面に散らばる仲間たちの『刀の鍔』を静かに拾い上げ、胸に抱きしめながら深く頭を下げた。
「ううん、私たちはただ、瓦斯灯の実験をしに裏通りへ行っただけですから」 葵はいつものふわふわとした癒やし系の笑顔を浮かべ、正一の顔を見上げて小さく笑った。
「そうだね。じゃあ、夜道は危ないから、早く学校へ帰ろうか、葵」
「ええ、そうしましょう!」
凄惨な地獄の拷問部屋を背に、二人は並んで歩き出す。 一途ゆえにすべてを呪い殺す狂気を秘めた「少年」と、動物たちに愛される勇敢で優しい「お嬢さん」。 文明開化の音が響く明治の町へと続く地下道を、二人の影は寄り添うようにして、静かに帰路へと就いていった。
コメント
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読了しました〜!もう終盤の盛り上がりがすごくて、どきどきしながら読みました! 葵さんと正一くんのコンビネーション、本当に息ぴったりでかっこよかったです。特に、普段の明るい陽キャな正一くんから一切のハイライトが消える瞬間の切り替わり、あのギャップにゾクゾクしました…。あと、大群を瞬時に壊蝕する「蟲毒」のシーン、描写の迫力がすごくて一気に引き込まれました。 殿様が自らの呪いに飲まれて消えていく結末も、因果応報でスッキリ。最後の「夜道は危ないから学校へ帰ろう」っていう日常に戻る空気感が、激しい戦いの後だからこそ沁みますね。続きがあるなら、このあとの二人の関係性もすごく気になります!✨